【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤 – 第1回 「ドクター・ジョン『デューク・エレガント』」

文/ピーター・バラカン

2018.02.12

僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤 第1回

ちょっと久しぶりに本を書くことになりました。アルバム・ガイドを書いて欲しいと言われ、最初は生涯最も好きなアルバムとのことでしたが、すでに他の本でも多くの愛聴盤を十分紹介しているので、それではあまり意欲が沸かず悩んでいました。

そこで思いついたのが21世紀の音楽。数年前、インターFMで「バラカン・モーニング」という番組をやっていた時、60年代や70年代の曲を毎日のようにかけていたのに、番組のプレイリストのデータをまとめたスタッフの方から、番組でいちばんかかっているのが2000年以降の曲だと言われてびっくりしました。

まあ、ぼくの好きな21世紀の音楽というと決してチャートの上位に上るようなものではなく、かなり「オールド・スクール」な作品が圧倒的に多いのですが、それはたぶん言うまでもないでしょう…。

21世紀といっても、まだ始まったばかりではないかと突っ込まれそうです。しかし、ぼくはすでに60代の後半なので、あまり待っていると何があるか分からないのでとりあえず書いてみることにしました。一気に書くことは時間的に無理なので、定期的にウェブで1枚分ずつ原稿を公開し、後から単行本化することになっています。アルバムの数は(たぶん)50枚、2週間に1枚のペースで書けば約2年かかります。

ここ数年の間に欧米ではCDが衰退の一途をたどり、今後の音楽業界は間違いなくストリーミングが主流になります。その流れは日本では少し遅れていますが、それでも2年後にはCDはかなり買いにくくなるかも知れません。すでにちょっと古いものになると製造中止になっている場合が多く、もし興味を持っていただいたらぜひ無理のない方法で聞いてみてください。

 

ドクター・ジョンが本気で向き合ったエリントン楽曲

デューク・エリントンの生誕100年だった1999年に彼へのトリビュート・アルバムがたくさん出たそうです。でも、このアルバムはエリントンの音楽だからではなく、あくまでドクター・ジョンの新作だから聞いたら、じつにゴキゲンでしかもユニークなトリビュートになっています。

エリントンの有名な曲といえば、例えば「サテン・ドル」などはホテルのラウンジのようなところで必ず演奏されているあまりにもありきたりで聞く気がしない曲ですが、ドクター・ジョンが独自のニュー・オーリンズ風味を吹き込んでゆったりとブルージーに歌うとカッコよく生まれ変わります。「スウィングしなけりゃ意味がない」なんて、ハモンド・オルガンが効いたミーディアム調のファンクで、「チュワッチュワッチュワ、ブギー・ナウ!」ってスパイスを利かせます。

Dr. John『Duke Elegant』(Blue Note/2000)

エリントンの有名な曲が大半を占めていますが、他には聞いたことがないレアな作品を3曲取り上げているのが面白いです。冒頭の「線路のあっち側」はゲットーを肯定化するブルーズで、1946年にブロードウェイで上演されたミュージカル『Beggar’s Holiday』からの曲です。エリントンが唯一、音楽を担当したミュージカルで、白人と黒人の男女関係が描かれているため毎晩劇場前で抗議する人がいたそうです。

続く「釣りに行くんだ」はやはりファンキーなブルーズで、クレジットはエリントンとペギー・リーとなっています。デュークが1959年の映画『或る殺人』のサウンドトラックのために作ったインストルメンタルの曲にペギー・リーが後から歌詞を付けたもののようです。YouTubeではペギーのヴァージョンもエラ・フィツジェラルドのヴァージョンもありますが、ドクター・ジョンが歌っている曲とは思えないほど雰囲気が違います!

アルバムの最後に入っている「燃える剣」はエリントンが1940年に録音した軽快なラテン風の曲ですが、ドクター・ジョンの解釈ではプロフェサー・ロングヘアが弾くようないかにもニュー・オーリンズのフレーズが絡み、仮に自分の作曲と主張したとしてもおそらく誰も疑わないはずです。

『デューク・エレガント』はドクター・ジョンのアルバムの中で特に有名な作品ではありませんが、耳馴染のメロディもあるし、長年彼のバックを務めた「Lower 9-11」のメンバーがトレードマークのドクター・ジョン節を粋に支える名盤だとぼくは思います。

Dr. John『Duke Elegant』(Blue Note/2000)

  1. On The Wrong Side of the Railroad Tracks(1947; John Latouche, Duke Ellington)
  2. I’m Gonna Go Fishin’(1959; Duke Ellington, Peggy Lee)
  3. It Don’t Mean a Thing(If It Ain’t Got That Swing)(1932; Duke Ellington, Irving Mills
  4. Perdido(1942; Ervin M. Drake, Hans Longsfolder, Juan Tizol)
  5. Don’t Get Around Much Anymore(1942; Bob Russell, Duke Ellington)
  6. Solitude(1934; Duke Ellington, Eddie DeLango, Irving Mills)
  7. Satin Doll(1953; Billy Strayhorn, Johnny Mercer, Duke Ellington)
  8. Mood Indigo(1931; Irving Mills, Duke Ellington, Barnard Bigard)
  9. Do Nothin’ ‘Til You Hear From Me(1943; Bob Russell, Duke Ellington)
  10. Thing’s Ain’t What They Used To Be(1942; Mercer Ellington)
  11. Caravan(1937; Juan Tizol, Irving Mills, Duke Ellington)
  12. Flaming Sword(1940; Duke Ellington)

 

 

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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