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【赤坂/Hacienda Coffee(ハシエンダ コーヒー)】不思議とココロが落ち着くハイセンス空間

ハシエンダコーヒー_写真1

「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は2023年にオープンした『Hacienda Coffee(ハシエンダ コーヒー)』を訪問。赤坂という住所からは想像できない下町風情が感じられるエリアにある、レコードで音楽が流れるコーヒーショップ。そこは不思議とつい長居してしまう穏やかな空間でした。

フレンドリーなコーヒーショップ

東京メトロ千代田線 乃木坂駅から徒歩約7分・赤坂駅から徒歩約10分、銀座線・半蔵門線 青山一丁目駅からも徒歩約10分の場所に位置する『Hacienda Coffee』(東京都港区)。土地柄、オフィス街や繁華街を想像してしまうが、ここはローカル感のある住宅エリア。小さな八百屋や昔ながらの商店が点在し、犬の散歩中のご婦人が立ち寄るなど、ビルの谷間に穏やかな時間が流れている。

「一年くらい物件を探して、店舗前に余裕があるなど理想的な空間がこの場所だったんです。でも、紹介されるまではまったく馴染みのない場所でした」。そう語るのは店主の須田恒平さん。

ブルーグレーの窓枠や文字フォントなどから、センスの良さが伝わってくる。そんなオシャレ空間でありながらも緊張感はなく、店内でコーヒーを飲んでいるうちにリラックスしている自分に気づく。

自慢のブレンドコーヒーは中浅煎りで、すっきりと飲みやすくほんのり苦味もある。

「コミュニティが生まれるような場所にしたかったんです。コーヒーはそのためのツール。ニューヨークのカフェみたいに、スタッフもお客さんもフラットで自然に会話が生まれる場所が理想でした」

さまざまな目的の人たちがゆるやかに共存する空間

店内はDJブースのあるカウンターと窓際の席、そして中心に向かってL字型に配置された座席が特徴だ。壁にはDMを送って直接イラストを発注したという、パリのグラフィックデザイナー Kevin KOFFI氏による『Hacienda Coffee』の風景イラストも飾られている。

「一番大事にしたのは居心地の良さです。そのため、ハイテーブルなど高いものは置かないようにしました。また、壁を背にL字型にしているのは、お客さん同士で顔が見えるように。犬好きなのでワンちゃん同士、飼い主同士がお互い話せるようにしたいなって」

見知らぬ人とのコミュニケーションが苦手な日本人にはハードルが高そうだが、なぜかこの店にはその緊張感がない。ゆるさに馴染んだ頃、自分がニューヨーカーにでもなったかのような気分になる。座席にはクバ王国伝統のクバクロスが置かれるなど、有機的なものと無機的なもののバランスが良いのが理由だろうか・・・。

店内ではオリジナルグッズやアメリカのカルチャー誌なども販売されている。海外からの観光客が、お土産としてTシャツなどを購入していくことが多いとか。

ここでは、仕事をする人、友人と語らう人、音楽を聴きに来る人が、同じ空間で和やかに共存している。

ストリートカルチャーから育まれた独自のセンス

須田恒平さんは1983年、福岡生まれ。学生時代から音楽とストリートカルチャーに魅了され、高校生の頃にレコードを集め始めた。

「小学生の頃に聴いた、餓鬼レンジャー、LAMP EYE、ソウルスクリームやシャカゾンビに衝撃を受けました。友達の中にはダンサーや、ラッパーもいて、自然とヒップホップにのめり込んでいった感じです」

「とくにやりたいことが見つからなかった」という須田さんは、高校卒業後すぐに憧れのニューヨークへ遊びに行く。帰国後に上京し、元町(横浜)の美容室で働きながら夜はクラブでDJをする生活を送った。

通信制の美容学校で学び美容師にもなったが、その後アパレルに転職。バイヤーやPRとしても活躍するようになる。現在は独立し、さまざまなブランドのビジュアルディレクション、制作やPRなど幅広く手がけているという。

「音楽もファッションも、かっこいいものだけが正解じゃない。ときに“かっこ悪いけど人気がある”ものを理解しようとすることで、いろんな角度から物事を見られるようになったんです。今の仕事にも通じている考え方です」

そんな彼が拠点を探し始めたのは、制作会社を立ち上げてから2年後のことだった。

「最初はオフィスを探していたんです。でも、どうせならコーヒーや音楽を介して、いろんな人が集まる場所にしたいと思ったわけです」

当初は代々木上原や代々木八幡で探していたが、物件が見つからず。そんなときに出会ったのがこの場所だった。同ビル1Fが4軒も空き、すぐに2軒を借りた。隣はギャラリーであり撮影スタジオとしても貸し出している。

「洋服のデザイナーとか、ブランドをやってる人、アーティストなどの知り合いが多いので、ギャラリーも併設したいなと思ったんです」

アルバム一枚をまるっと聴かせるスタイル

『Hacienda Coffee』のもうひとつの魅力は、レコードで流れるサウンドにある。

音響に関しては、ターンテーブルがテクニクス SL-1200MK5、ミキサーはオムニトロニック TRM-202 MK3、スピーカーはJBL 4312G、プリメインアンプはパイオニア A-N702-Sという構成だ。

「低音や高音を強調するというよりも、家で聴いているような温かみのある音を意識しました。外に音が漏れやすいので、音量をあまり上げられないということもあります」

店内ではインスト曲を中心に、ジャズやソウルディスコ、ヒップホップの元ネタなど1970~80年代のブラックミュージックがかかる。その一方で新譜も増やしており、エズラ・コレクティブやカッサ・オーバーオールなども流れる。

「みんながどこかで聴いたことがあるような曲を選んでいます。基本的にはアルバム一枚をまるっとかけています」

都内のクラブを中心に、渋谷『HARLEM』の人気パーティだったREDZONEや、今はなき渋谷VISONなど、仕事のかたわら34歳までDJとして活躍してきた須田さん。現場ではセラートが普及し、レコードでDJをすることが減ったが、欲しいレコードは常に購入していたという。現在も元ネタを掘ったり、レゲエやハウスを聴いたりと、さまざまな音楽に親しんでいる。

DJをやっている友人も多いが、このお店ではクラブ的な盛り上がりは求めないというのもこだわりのひとつ。

「身内ノリになるのが嫌で。地元の人に愛されるお店にしたかったので、当初からDJパーティのようなものは考えていませんでした。お客さんには音楽をゆっくり楽しんでいただきながら、思い思いの時間を過ごして欲しいと思っています」

地元の常連客を中心に、週末は遠方からも人が訪れる

『Hacienda Coffee』には毎日訪れる常連客が多い。

「地元の方や近所で働いている方が中心です。週末になると、Instagramを見て遠方から来てくれる人もいます」

繁華街ではないのに、週末ともなればレコードに関心があったり、お店のデザインに興味を持った若い人で混雑している。アルバイトの募集をしなくても、感度の高い若者が働きたいとやってくるというのも素敵だ。

須田さんは現在、2号店の構想を進めているという。

「趣は変えながらも、この赤坂のように地域に根ざしたお店をつくりたいですね。コーヒーを通じて、音楽やファッション、アートがつながる場所にできればと思います」

お店の外観や内装は「最初から決め込まず、感覚でやった」と語っていた須田さん。秀でたセンスを持つ彼が、次にどんなコーヒーショップを生み出すのか今から楽しみだ。

取材・文/富山英三郎
撮影/高瀬竜弥


・店舗名 Hacienda Coffee(ハシエンダ コーヒー)
・住所 東京都港区赤坂7-5-27 赤坂パインクレスト103
・営業時間 9:00~20:00(月曜〜土曜)、9:00~17:00(日曜)
・定休日 不定休

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