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【ロスモス/L’Osmose|インタビュー】スイスが誇る期待の新星─初の来日公演を前にバンドの実像を語る

スイスの若手ミュージシャンで、いまもっとも注目されているバンドのひとつがロスモス(L’Osmose)である。彼らはスイス国内だけでなく、すでにヨーロッパ各地でツアーを成功させ、今後も国際的な活躍が期待される注目株だ。

メンバーの6人(※1)は幼なじみで、ジュネーブのユースカルチャーに刺激を受けながら、ともに育った。

※1:写真左から、ニルス・コブレンツ(Nils Coblentz/ドラムス) ディエゴ・ベッソン(Diego Besson/ギター) トム・チャーリー・ローランド・フレデリック・ガイガー(Tom Charlie Roland Frederic Gyger/ギター,シンセサイザー) ルカ・マッサフェリ(Luca Mazzaferi/シンセサイザー) ウーゴ・ルイス・マルナティ(Ugo Louis Malnati/パーカッション,シンセサイザー) サンティアゴ・デ・リベロ(Santiago de Rivero/ベース)

彼らがバンド活動を開始したのは2016年。当時はまだ10代で、多様なジャンルの楽曲を気の向くままに楽しんでいたという。演奏する楽曲も、現在のロスモスとは少し違う方向性だったが、コロナ禍を境にバンドのサウンドは急激な変化を遂げた。あの閉塞感とストレスから解放された時に「新たなロスモスが誕生した」と彼らは語る。

パンデミックが終息したとき、ふたたび演奏の場に戻ることができた。ずっと会えなかった友とまた一緒に演奏して、こう実感しました。僕らを突き動かしていたのは音楽だけでなく友情と絆なんだ、と

バンド名「L’Osmose」は、“浸透” や “融和” を意味する語。これは彼らの音楽性だけでなく、メンバー同士の関係性も象徴しているようだ。

ほとんどのメンバーが民族的に異なる背景を持っていて、文化的、音楽的にも皆それぞれが独特な存在。これはロスモスにとって非常に重要な部分です

そんな彼らが創りだすサウンドは、ジャズの理性とロックの情動、70年代のサイケデリアと正体不明のフォークロア、そしてミステリアスな芳香が渾然一体となっている。この音楽性は先述のとおりメンバーそれぞれのアイデンティティに由来したものだが、彼らの地元であるジュネーブの音楽的環境も強く作用しているようだ。

ジュネーブはオルタナティブ・ミュージックにとって素晴らしい場所です。地理的にはヨーロッパのほぼ中心に位置していて、他の大都市とのアクセスも良いのでいろんな文化が入ってくるし、ここから羽ばたいて行くミュージシャンも大勢います

さらに、かつて盛んだったスクワット・シーン(※建物の不法占拠から生まれた文化拠点)の名残である、安価なオルタナティブ・クラブも数多く、いまでも多様なライブイベントが行われている。

そんな環境の中で、僕らは良きメンターたちと出会い、音楽活動を続けてきました。さらにジュネーブだけではなく、スイス国内にはさまざまな音楽機関があって、そこで出会った人々が新たなインスピレーションを与えてくれたり、僕らの創作を支えてくれたことも大きかった

その代表例が、モントルー・ジャズ・アーティスト・ファンデーション(以下MJAF)である。この団体は、音楽フェスティバルとして有名なモントルー・ジャズ・フェスティバルの関連機関で、次世代アーティストの支援や育成を担っている。その理念を、モントルー・ジャズ・フェスティバル事務総長のヴィヴィアン・ラウフ(Viviane Raouf)氏が語る。

私たちは2つの核となる目的を追求しています。それは、キャリアの初期段階にある才能あるミュージシャンを発見し育てること。さらにその音楽をあらゆる人々が楽しめるようにすることです。私たちの活動の一部は、モントルー・ジャズ・フェスティバル期間中(7月)に行われ、ミュージシャンに幅広い認知度と聴衆を得る機会を提供します。それからもう一つ、秋に開催されるモントルー・ジャズ・フェスティバル・レジデンシーも重要な催しです

モントルー・ジャズ・フェスティバル・レジデンシーとは、次世代アーティストの育成と交流を目的としたプラットフォームである。

ここに選出されたアーティストたちは、著名なメンターと協力し、学ぶ機会が提供されます。さらにワークショップやショーケース、コンサート、ジャムセッションなども実施しながら、無料の一般公開フェスティバルも行われます」(ヴィヴィアン氏)

ロスモス出演時のモントルー・ジャズ・フェスティバル・レジデンシー(2024年)公開ステージ

この一般公開の場で、昨年、ロスモスはオーディエンス・アワード(観客賞)を受賞。彼らの独創的な楽曲と演奏力、ステージでのパフォーマンスが高く評価された。また、MJFのグローバルパートナー、ジュリアス・ベア(※2)による特別賞も受け、8,000スイスフラン相当の楽器が贈られている。

※2:スイスを拠点とする国際的なプライベートバンク・グループ。2022年にモントルー・ジャズ・フェスティバルとパートナーシップを締結し、若手アーティストの支援や育成プログラムにも注力している。

有望な次世代ミュージシャンたちがしのぎを削る中、オーディエンスもスポンサーもロスモスを推した。その理由は何か。前出のヴィヴィアン氏が語る。

私たちは彼らのオープンマインドな姿勢、音楽的な創造性、そして熱意を高く評価しました。ロスモスの音楽的な魅力を挙げるなら、心に沁みる恍惚のメロディーと、非常にダイナミックで未来的なリズム、そして70年代のグルーヴィーなサイケデリック・サウンド、さらにはドラムンベースにインスパイアされたエレクトロ・ビートまで自在に操りながら、非常に現代的なサウンドとして提示される点です

そんなロスモスのメンバーたちに「創作の動機は何か?」と問うと、音楽への好奇心や愛情とともに「映画やグラフィックデザイン、ファッション、政治など、さまざまなファクターが自分たちの音楽にフィードバックされる」と語る。それはサウンドの面だけでなく、ミュージックビデオや彼らの動画コンテンツなど、あらゆる制作物に付随するグラフィックを見ても明らかだ。

 

彼らの創作物はすべてグループ・プロジェクトとして制作進行され、メンバー全員の合議で決定するという。

ミュージックビデオやグラフィックデザインを含め、ロスモスのほぼすべての決定は皆で一緒に議論します。メンバー全員を満足させるのは簡単なことではないけれど、僕らは常に最善を尽くしている。バンドメンバーそれぞれが創造的で才能のある人材なので、僕たちは常にDIY(自分たちで)かつインハウス(内部で)で物事を作り上げることを楽しんでいます

そんなマインドで完成させたのが、ファーストアルバム『Maggiore 800』だ。2024年に発表した本作によって、ロスモスの世間への浸透力がさらに増していった。

L’Osmose『Maggiore 800』

バンドのメンバーの一人がフィラテリー(切手の収集と研究)に凝っていて、カバーアートは1970年代のイタリアの郵便切手にインスパイアされました。それはタイトルMaggiore 800の由来にもなっています。この作品は、ジュネーブの豊かなオルタナティブ・シーンや、その地域のアーティストたちから非常に大きなインスピレーションを受けています

さらについ先日、セカンドアルバム『First Dog』を発表。前作と比較して、最大の変化は何かと問うと、こう答える。

ファーストアルバムがほとんどインストゥルメンタルだったのに対し、今回は歌がとても多くフィーチャーされています。このアルバムで僕たちは新たな “音の風景” を探求し、以前にも増して楽曲ごとのテーマを深く掘り下げました。一切の妥協をせず、自分たちがやりたいことを正確にやったと自負しているし、すごく満足しています。きっと皆さんも気に入ってくれるはず

この最新アルバムを手土産に、彼らは初の来日公演に臨む。舞台は12月に開催される「モントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパン」だ。先述のスイス「モントルー・ジャズ・フェスティバル」と連携し、日本で開催されるこのイベントには、国内外のトッププレイヤーたちが集結する。ロスモスのメンバーたちは初めて日本公演に意気揚々。一方、スイスから “自慢の切り札” を送り出すヴィヴィアン氏も、彼らのステージを待ち望みながらこうコメントする。

彼らの表現力と独創性は、コンサートの場でさらに輝きを放ちます。この才能あるバンドをプロモートできることを非常に嬉しく思うし、日本の皆様に彼らのダイナミックな音楽の世界を紹介できることを本当に楽しみにしています

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