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【2025年】ジャズ アルバム BEST 50

2025年にリリースされたジャズ作品の中から、聴き逃せない50作をセレクト

選盤・文/土佐有明


Ambrose AkinmusireHoney From A Winter Stone

現代のジャズを語る上で欠かせない82年生まれのトランペッターの最新作。ジャスティン・ブラウン(ds)の紡ぐ盤石のグルーヴにコカーイーのラップが乗り、ミヴォス・クァルテットが荘重なストリングスを奏でる。人種差別を告発するメッセージ性の強いリリックはアンブローズが書いており、3曲目から5曲目まではコカーイーが即興でラップ。主役のラッパが豪快に吹きまくる場面は少な目だが、ヘヴィなテーマを扱った作品として貴重。


Anouar Brahem, Anja Lechner, Django Bates, Dave HollandAfter The Last Sky

いかにもECMらしい透明で清澄なサウンドが横溢する一枚である。チュニジア生まれのウード奏者アヌアル・ブラヒムの最新作は、デイヴ・ホランド(b)、ジャンゴ・ベイツ(p)、アニヤ・レヒナー(Vc)を迎えた室内楽的で静謐なサウンドが特徴。アルバム・タイトルはパレスチナの詩人の作品から採られたそうだが、声高に政治的なメッセージを発するのではなく、沈黙も音楽のひとつとして捉えたような凛としたサウンドが折り重なる。


Ben LaMar GayYowzers

トータスやジェフ・パーカーの作品を抱えるインターナショナル・アンセムからリリースされた、シカゴのコルネット奏者/ラッパー/シンガーの作品。これがなかなかの曲者である。ベンが統率を取っているはずだが、チューバが入るカルテット編成の比較的王道のジャズから、奇矯な詠唱やラップを聴かせるパート、更には豪奢なビッグ・バンド・ジャズまで、終始、手の内を明かさずにリスナーを煙に巻くような雑多さに惹かれて仕方ない。


BOCCOThe World

ギタリスト/ドラマーの石渡明廣を筆頭に、落合康介(b)、斉藤良(ds)、松原慎之介(as)という兵が揃ったバンドの初作。各自の柔軟かつ破天荒なプレイもさることながら、石渡の不可思議で掴みどころのないコンポジションに注視したい。渋さ知らズの作品を多数抱える地底レコードからのリリースで、このレーベルらしい骨太さや泥臭さを備えているのも特徴。最初はゲストだったという松原のアルトはオーネット・コールマンを想わせるほど。

 


Braxton CookNot Everyone Can Go

米国の若手シンガー・ソングライター/サックス奏者の最新作は、シルキーで艶っぽいヴォーカルと壮麗で流暢なサックスが共存。R&Bとジャズを架橋するようなアルバムに仕上がっている。デンマーク出身のシンガー、マーリ・ダールストロムをゲストに迎えた曲は特に卓越しており本作のハイライトだ。警官に銃殺された黒人少女に捧げた曲など、政治的なメッセージも強い内容だが、音楽的な充実ぶりはヘヴィなテーマに決して負けていない。


Camila MezaPortal

チリ出身のカミラ・メサは女性シンガーとして紹介されることも多いが、パット・メセニーばりの超絶技巧を誇るギタリストでもあり、来日公演でもその腕前を存分に発揮していた。パンデミックと出産を経たことでテーマが明瞭になったという本作は、共同プロデューサーのシャイ・マエストロがプログラミングを担当。多重コーラスも含め攻めたアレンジにより、更なる飛躍を印象づける作品となった。朋友グレッチェン・パーラトも参加。


Cecile McLorin SalvantOh Snap

グラミー賞を三度受賞しているヴォーカリストが、名門ノンサッチからリリースしたアルバム。これまでとは制作方法を変え、自らDAWによってひとり宅録で作品を創り上げたそうだが、こぢんまりした印象はまるでなし。いつも通りコケティッシュでチャーミングな歌声を中心に心が浮き立つようなサウンドを築き上げている。あっぱれだ。ジャズからクラシック、ソウルまでを含み、松尾芭蕉の俳句に触発されたという曲もあったりするのが面白い。


Dan WeissUnclassified Affections

NYを拠点にするドラマー/コンポーザーの新作は、ピーター・エヴァンス(tp)、マイルス・オカザキ(g)、パトリシア・ブレナン(vib)とのカルテット。ベースレスの編成だが、それがかえってグループ内の緊張感や切迫感を高めており、切っ先の鋭いエヴァンスのラッパを筆頭に、精鋭揃いのプレイヤーのソロはいずれもソリッドで硬質だ。ミニマリズムや変拍子も駆使し、フリー・ジャズの“その先”を模索しているような一枚に仕上げている。


Donny McCaslinLullaby for the Lost

フロア指向の新作で馬場智明(ts)が大化けしたように、テナー奏者のダニー・マッキャスリンもロック化とエレクトリック化を前作から更に推し進めた。デヴィッド・ボウイの遺作『★』に参加した際に、ボウイから受けた助言が背中を押してくれたのだという。ミックスはモグワイやナンバーガールを手掛けたデイヴ・フリッドマン。圧が強くハイテンションなサウンドはこれまでと一線を画する。ロック・リスナーにこそ聴いて欲しい逸品。


Ebi SodaFrank Dean And Andrew

フライング・ロータスの作品を契機にジャズに興味を持ったという、英国ブライトンを拠点の6人組の3作目。ジャズのフィーリングとレゲエのリズムを原基とし、ディレイやリヴァーブを多用した作風は過去2作と共通する。だが、本作はえげつないほどドープかつディープに進化/深化しており、キング・タビーなどダブからの影響は明白だろう。瞑想的で波のような揺らぎを帯びたサウンドはアンビエント・ジャズとして聴くことも可能だろう。


Emi MakabeEcho

トーマス・モーガン(b)の妻でNYを拠点にするシンガー/三味線奏者のアルバムは、ジェイソン・モラン(p)、ケニー・ウォレスン(ds)、ビル・フリゼール(g)といった大物がこぞって参加。英語と日本語を交えて、のびやかで悠揚たる歌声を聴かせる。ジャズの名門サニーサイドからのリリースというのも納得。ノラ・ジョーンズやエミ・マイヤーが好きな人なら気に入るのではないか。ミシェル・ンデゲオチェロも重厚な語りを聴かせる。


Emma-Jean ThackrayWeirdo

UKジャズの一翼を担うトランペット奏者である……はずの彼女だが、いつの間にかすべての楽器を自らこなし、エンジニアリングも担当。シンガーとして覚醒していた。R&Bやソウル的な響きもありジャズのニュアンスも残ってはいるが、歪んだギターが際立つ場面も多く、まるでグランジのように響くところも面白い。ジャズに括るのに多少躊躇したものの、このジャンルの未来を予見する恰好のサンプルとして意味と意義があると思い、選出した。


藤井郷子カルテットBurning Wick

迸るヴァイタリティとエナジーに言葉を失う。藤井郷子(p)、田村夏樹(tp)、吉田達也(ds)、早川岳晴(b)という鉄壁の布陣が繰り出すのは、フリー・ジャズと現代音楽とプログレッシヴ・メタルを束ねあげてぶちまけたような熱気と覇気に溢れた音塊である。藤井は国内では過小評価されているが、海外のジャズ誌などではピアニストの人気投票で常に上位に位置する才人。ピアニストとしてはもちろん、作曲家としても才気煥発なところを見せる。


Gilad HekselmanDownhill From Hill

ジャンル越境型ギタリストの筆頭格として知られるイスラエル出身の才人が、ラリー・グレナディア(b)、マーカス・ギルモア(ds)というジャズ畑の精鋭と創り上げたアルバムは、どんな曲調にも対応できるギラッドの柔軟性と反応力の素早さが表出した秀作にして力作。約ひとまわり上のカート・ローゼンウィンケルに追いつけ追い越せといった勢いと衝動が噴出したようなアルバムだが、それでいて品の良さやしゃれっ気を失っていないのが彼らしい。


GUSTAVO CORTIÑASThe Crisis Knows No Borders

メキシコ出身でシカゴを拠点にするドラマーの6作目は、往年のフリー・ジャズの記憶を今日的なジャズ・ファンクに接続し、アフロ・ビートで味付けしたような一枚。ヴァイオリンの妖しげな響きで幕を開け、ディストーションの効いたギターや変拍子も軽々と叩き出すドラム、野太いベースラインが絡みあい、各プレイヤーの持ち味が存分に発揮された一枚に仕上がっている。それにしても昨今のシカゴ発のジャズの質の高さといったら!


謝明諺Punctum Visus視覚

台湾のサックス奏者が大友良英(g)、須川崇志(b)、山崎比呂志(ds)と録音したアルバムは、謝の激越なブロウと苛烈なオーヴァートーンが炸裂するフリーキーな一枚。背後から煽り立てる山崎のドラム、アンサンブルを攪乱する須川のベース、ノイズ一辺倒でおわらない大友のギターなど、いずれのプレイヤーも素晴らしいプレイを聴かせる。数々の即興演奏を通過してきたからこそ出せる音なのだろう、手癖や定石に陥らない演奏が堪能できる。

 


井上銘Tokyo Quartet

CRCK/LCKSのメンバーでオマさんこと鈴木勲(b)のバンドで鍛えられた井上銘が、マーティ・ホロベック(b)、石若駿(ds)、デイヴィッド・ブライアント(p)と組んだアルバムは、オーセンティックなジャズにヒップホップ的なタイムフィールやオルタナティヴ・ロック以降の音圧を滲ませ、アグレッシヴな演奏を展開する。特に奔放に弾きまくる井上のギターが秀抜で、そのプレイは彼が愛してやまないパット・マルティーノにも匹敵する。


Jakob Bro & Midori Takadaあなたに出会うまで

ECMの新世代看板ギタリストのひとりであるヤコブ・ブロと、環境音楽のパイオニアとして世界的に再評価が進む打楽器奏者・高田みどりの共演作。東京藝大で石若駿や角銅真実を教えたこともある高田のマレット類は確固たる存在感を放つが、ヤコブ・ブロの茫漠としたギターと混ざり合うと不思議な化学反応を起こす。どこまでヴォリュームをあげても静謐さを失わない、寡黙でいて緊張感を失わない演奏に放心する。正に静かなる傑作だ。


James Brandon LewisApple Cores

このテナー奏者はやはり格が違う。ソニー・ロリンズにも絶賛された鬼才のアンタイ・レコードからの新作は、チャド・テイラー(ds)、ジョシュ・ワーナー(b,g)とのトリオ編成。ジョン・コルトレーンからデヴィッド・S・ウェアまで様々な先達からの影響を消化したブランドンのテナーは豪放で快活でヘヴィ級の重みがある。チャドが親指ピアノを奏じていることもあり、ミニマルかつファンキーに演奏が展開するのも面白いところ。


Jamie LeemingSequent

ロンドンを拠点にするギタリストの2作目は、UKジャズの要人アルファ・ミストを共同プロデューサーに迎えての録音。ミルトン・ナシメントとエグベルト・ジスモンチに触発された作品というふれこみで、ブラジル音楽の要素をちらつかせつつも、コンテポラリーで洗練されたジャズとして無二の輝きを放っている。トム・ミッシュの実姉であるローラ・ミッシュもゲスト参加。口当たりはマイルドだがジャズに対峙する際の真摯さにはブレがない。


Jeremy PeltWoven

ロイ・ハーグローヴとの共演歴もある米国のトランペッターの25作目。前作で元マーズ・ヴォルタのディアントニ・パークスを共同プロデューサーに迎え、エレクトロニック・ミュージックに寄った作風で大化けしたが、本作もその延長線上にある。モジュラー・シンセやヴィブラフォンを加えた編成で、時にアンビエント風にも展開。主役のラッパはもちろん、ウクライナ出身のギタリスト、ミシャ・メンデレンコのソロにも耳を奪われる。


Joe Armon-JonesStarting Today

今年ブリット・アウォードで最優秀グループ賞を受賞したエズラ・コレクティヴの鍵盤奏者のソロ作。同郷のサックス奏者ヌバイア・ガルシアもゲスト参加している。ジャズ、ファンク、ヒップホップ、レゲエが混然一体となった英国らしい音楽性がコアだろう。特にキング・タビーに影響されたというだけあり、ドラムのダブ処理が実に効果的。ヴィンテージ機材をそろえたスタジオで録音されそうで、生々しくアナログな質感の音像も実にいい。


Joshua RedmanWords Fall Short

2023年には初のヴォーカル・アルバムを発表したサックス奏者の新作は、全曲書き下ろしのオリジナル。滑らかで淀みないインプロヴィゼーションはもはや名人芸で、ブライアン・ブレイドを想わせるナジル・エボのドラムも素晴らしいグルーヴを生む。前作で共演したヴォーカリストのガブリエル・カヴァッサや3曲で参加のメリッサ・アルダナ(ts)が要所でアピール。数々の才能をフックアップしてきたジョシュアらしいアルバムである。


Kamasi WashingtonLazarus(Adult Swim Original Series Soundtrack)

『カウボーイビバップ』『坂道のアポロン』などで知られる渡辺信一郎監督の新作アニメのサウンドトラック。カマシ・ワシントン(ts)、ボノボ、フローティング・ポインツという豪華メンツが参加。昨今プロデューサーに徹することの多かったカマシが、思い切りダイナミックにブロウする瞬間が実にスリリング。思わずふるえるほどである。エレクトロニック指向のボノボ、ミニマルに徹したフローティング・ポインツのトラックも聴き応え十分だ。


Kassa OverallCREAM

カッサ・オーヴァーオールはジャズもソウルもR&Bも等価なものとして捉える稀有なセンスの持ち主だが、本作はATCQ、ウータン・クラン、ドクター・ドレーなど90年代のヒップホップの人気曲のカヴァー集。カヴァーといっても忠実な再現を狙ったわけでは決してなく、ジャズとヒップホップが共通の祖先を持つことを証明するのが狙いだろう。ジェネレーションを超えて受け継がれる音楽の自由さと普遍性を全身で体現したような作品だ。


KokorokoTuff Times Never Last

西アフリカやカリブ海地域出身のメンバーで結成されたグループのアルバム。昨今のUKジャズのトレンドを汲みながらも、レゲエ、アフロ・ビート、ファンク、ソウルなどを軸としたオーガニックでメロウなサウンドを聴かせる。特に甘いラヴァーズ・ロックがアルバムをしるしづけている。この50枚の中では最も穏やかでゆったりとした空気が漂う作品だが、そのユルさがなんともクセになる。存分にリラックスしながら楽しみたいアルバムだ。


黒田卓也EVERYDAY

2014年に日本人で初めてUSブルーノートと契約したトランペッターの7作目。自らプログラミングしたトラックとスタジオ・セッションの高次の融合を計ったという作品で、サウンドメイクの妙味とアドリブのキレの良さは過去最高。黒田のトランペットがロイ・ハーグローヴの衣鉢を継いでいるのは明白で、ロイが率いたRHファクターを彷彿とさせるネオ・ソウル的なサウンドも魅力。クレイグ・ヒルや西口明宏といったテナー奏者も参加。


桑原あいFlying?

2024年にLAに拠点を移したピアニストの新作は、星野源やルイス・コールとの共演もあるサム・ウィルクス(b)、上原ひろみともコラボレーションしているジーン・コイ(ds)とのトリオを軸に、現地のミュージシャンとセッションを敢行。LAらしい開放的な空気をたっぷり吸いこんだ、自由闊達きわまりないプレイが自在に展開されている。石若駿とのデュオで作品を発表した時も思ったが、桑原はもはや日本を代表するピアニストのひとりだ。


Linda May OhStrange Heavens

マレーシア生まれで中国系のリンダは各方面からひっぱりだこのベーシストだが、この新作ではアンブローズ・アキンムシーレ(tp)、タイション・ソーリー(ds)という現行ジャズの最前線を行く猛者を揃えたが、ここで繰り広げられるのは単なる肉弾戦でもフリー・ジャズの焼き直しでもない。ポスト・フリーというのとも違う。あえていえば60年代の新主流派を今日的な感覚で脱構築したジャズとでも言おうか。野心に満ち溢れた類稀なる傑作。


Makaya McCravenOff The Record

音楽都市シカゴを拠点にするドラマー/コンポーザーが、4枚のEPをコンパイルしたアルバム。トータスのジェフ・パーカー(g)らが参加したライヴ音源に、マクレイヴンがスタジオでエディットやオーヴァー・ダビングを施している。ふたりのヴィブラフォン奏者が足なみの揃ったプレイでマクレイヴンのしなやかでタイトなドラムをサポート。ロックやファンクやヒップホップと地続きのジャズとして、現代最高峰といってもいい質の高さを誇る。


Mark De Clive-LowePast Present(Tone Poems Across Time)

日系ニュージーランド人のプロデューサー/作曲家のアルバムは、友人であるカルロス・ニーニョの諸作とも一脈通じるスピリチュアルな風味のアンビエント・ジャズ。日本でのフィールド・レコーディングもサウンドの中に織り込み、空間的な拡がりと立体感のあるサウンドスケープを構築している。その手さばきはさながらサウンド・デザイナーといったところで、空間構成のダイナミズムに長けた音響設計士の作品といった趣きすら漂う。


Marshall AllenNew Down

サン・ラーに代わって彼のアーケストラを率い、ミシェル・ンデゲオチェロのアルバムにも参加したサックス奏者が100歳にしてリリースした初のリーダー作。ドン・チェリーの娘であるネナ・チェリーが歌っているのもポイントだが、最大16人編成の管弦楽楽器が織りなす悠大でのびのびとしたビッグ・バンド・ジャズには心が洗われる。主役は主にアルトを吹いており、円熟の極みというべきプレイには参りましたという他ない。彼は現在101歳!


Mary HalvorsonAbout Ghosts

ノンサッチからの新作は、通称アマリリス・セクステットにサックスやシンセサイザーを加えた編成での野心作。メアリーがギターを弾く場面こそ少なめなものの、彼女は作曲/編曲の面でその才能を発揮しており、全体のアンサンブルは彼女の師匠であるアンソニー・ブラクストンのような不穏さを湛えている。プロデュースはディアフーフのジョン・ディートリッヒ。メアリーはチェス・スミスの新作ではギター・ソロを惜しげもなく披露している。


松丸契Dokusō, YūYū

細井徳太郎や石若駿らとのSMTKでも活躍する俊英の無伴奏サックス・ソロ。重音奏法やオーヴァー・トーンを駆使し、渦巻きのように反復されるサウンドは倍音をたっぷり含み、波打つが如き揺らぎを湛えている。集音に9本のマイクを立てて環境音も自然に採取したという音像は、ライヴ会場の気配や人気(ひとけ)までもパッケージングしたかのよう。ライター・細田成嗣の入魂のライナー付きでアナログで発売されたが、今後配信も予定されているとのこと。

 


Maya DelilahThe Long Way Round

マヤ・デライラはジャズ・シンガーというよりはシンガー・ソングライターといった趣きの女性ヴォーカリストだが、ブルーノートからの本作はノラ・ジョーンズの諸作と較べても遜色ないので選出した。ロンドン、NY、LAを周ってレコーディングされたそうで、ヴィンテージ・ソウルやアメリカーナの要素が交錯する、滋味に富むサウンドが特徴だ。本人が弾くギター・ソロも既に堂に入ったもの。レーベル期待の大型新人の登場を言祝ぎたい。


中牟礼貞則In a Stream

1963年に伝説の銀巴里セッションに参加したとか、昨年文化庁長官から表彰されたとか、そういったカマしはいくらでもできる。偉人ギタリストなのも間違いない。だが、92歳の自分を聴いてくれ、と本作は静かに主張しているかのようだ。正直、ほつれやほころびはあるが、それは、彼の顔に刻まれたシワが幾多の音楽的経験の証明であるのと同じことだ。円熟とも微妙に異なり、一周まわってフレッシュにすら聞こえる奇跡——。渋谷毅とのデュオ作も必聴。

 


Nate SmithLive-Action

グラミー賞候補にあがったこともある敏腕ドラマーが、リオーネル・ルエケ(g)、マーキス・ヒル(tp)、マイケル・リーグ(b)ら精鋭と録音したアルバム。マイケル・ジャクソンの曲を共作したこともあるネイトはコンポーザーとしてもずば抜けた才能の持ち主だと、本作はあらためて証立てている。レイラ・ハサウェイが歌う曲など、ソング・オリエンテッドなつくりで、ネイトのキャリアのうえでも重要な結節点を成す作品に違いないだろう。


Nels ClineConsentrik Quartet

即興畑出身でウィルコのメンバーでもあるギタリストのアルバム。ブルーノートからの『Lovers』(2016年)のようなビッグ・バンド形態とは対照的に、ミニマムな編成でアンビエントとジャズをアメリカーナの文脈に据えたような、茫洋としたサウンドを聴かせてくれる。鍵を握るのは虚空をたゆたうようなイングリッド・ラウヴローズのテナー・サックスで、彼の奏でる旋律とネルスの縦横無尽なギター・ソロの絡みが最大の聴きどころだろう。


Old and New Dreams chapter.1

大友良英(g)、須川崇志(b)、石若駿(ds)のトリオによる新宿ピットインでのライヴ盤。『Old and New Dreams』は大友が学生時代によく聴いたというアルバムだが、確かに本作の音にまとわりつく濁りやざらつき、苦みや乾いた詩情にはあのアルバムに相通じるものがある。世代を超えて響き合う音楽家たちの矜持に満ちた本年屈指の紛うかたなき大傑作。石若はくるりや椎名林檎との共演も話題だが、この作品はもっと知られていいはずだ。


大友良英ニュー・ジャズ・クインテットEl Derecho de Vivir en Paz

自身のビッグ・バンドでも傑作を連発した大友良英のグループのライヴ盤。ノイズ成分を含む大友良英のギターが主役と思いきや、類家心平(tp)と今込治(tb)の時に口ごもり、時に奔放に吹きまくるアドリブに舌を巻く。大友が繰り返し演奏してきたオーネット・コールマン作「ロンリー・ウーマン」の苦みと哀愁はどうだろう。冒頭の「平和に生きる権利」のむせび泣くような哀感に満ちた演奏にも落涙せずにはいられない。ブリリアント!

 


Paal NilssenLove Circus with The Ex GuitarsTurn Thy Loose

ノルウェー・ジャズの代表格アトミックのドラマーであるポール・ニルセン・ラヴと、オランダの異端ポスト・パンク・バンドThe Exのギタリストらによるセッションの記録。ESPディスクの諸作を想わせるフリー・ジャズの精髄を煮詰めたようなパートも凄絶きわまりないが、ハードコア・パンク的な破壊力を秘めたノイズ・ギターの重なり合いと、柔と剛を併せ持つポールの奔放なドラムがレイヤー状に織り込まれたアンサンブルも剋目すべき。


Peter Evans, Mike PrideA Window, Basically

NYで活動する尖鋭的トランペッターと、ハードコアに影響を受けてきた打楽器奏者の共演作。ミュートを効果的に使いながら鋭利な刃物のような音像を創出するエヴァンスと、パーカッションも含めて既成のヴォキャブラリーに回収されないプレイを披露するプライド。簡素といえば簡素だし音数も少ないが、そのぶんプレイヤーとしてのふたりの個性が露わになる。いずれもアンダーレイテッド・ミュージシャンに甘んじている状況が歯がゆい。


Sachal VasandaniBest Life Now

NYを拠点に活動するヴォーカリストの新作は、ネイト・スミスがプロデュースを手掛け、ドラムも叩いている。グレッチェン・パーラトをゲストに迎え、クルーナー寄りのクセがなくてさっぱりとした清涼感溢れる歌唱を聴かせる。ヴォーカルの表現力はもちろん、ブライアン・ブレイドとの共演で知られるジョン・カウハード(p)らのサポートで、より地に足の着いたサウンドを実現している印象だ。ビートの質感はいかにもネイトらしい。


SMLHow You Been

ポスト・ロックへのジャズ・サイドからの回答というべきか、トータスの新作と並べて語りたいアルバムだ。LAを拠点にする5人組の2作目は、アフロ・ビート、電化時代のマイルス・デイヴィス、クラウト・ロックなどの要素が入り混じった折衷的な一枚。特に屈強で堅牢で肉感的なリズム隊が力感に富むグルーヴを生み出し、ノイズまみれのギターが空間を切り裂くようなフレーズで迫る。インターナショナル・アンセムからの発売だけある。


Snarky Puppy & Metropole OrkestraOmni

過去5度グラミー賞を受賞している大所帯バンドが、オランダの名門メトロポール・オーケストラと10年ぶりに組んだ共演盤にしてライヴ盤。演奏の瞬発力と爆発力に定評のあるオーケストラは、大人数ならではのダイナミックなグルーヴを創出。スナーキー・パピーのソングライターであるマイケル・リーグ(b)の複雑に入り組んだスコアを見事に具現化している。20名のバンドに50名を超える管弦楽団の合奏は狂騒の高みに昇り詰めている。


SunMi HongFour Page Meaning Of A Nest

アムステルダムを拠点にする韓国人ドラマーの4作目で、エディション・レコードからの発売。オランダ人トランペッター、韓国人ピアニスト、イタリア出身のテナー・サックス奏者とベーシストのクインテット編成で、郷愁を誘う旋律と大陸的なスケールの大きさを感じさせるサウンドを一丸となって聴かせてくれる。けれん味こそ薄いが、オーソドックスな中にアレンジの妙を感じさせるのが特徴だろう。テナー奏者の奮闘と健闘を称えたい。


田村夏樹灰野敬二What happened there?

背筋が伸びると同時に凍るような臨場感と緊迫感。いずれも数々の即興演奏を経験してきたふたりによるギターとトランペットの演奏は、まるで居合い抜きである。クリーントーンでもディストーションを通しても、透き通ったような清冽さで迫る灰野。鳴り物を使いつつトランペットで唯一無二の音色を響かせる田村。これまでありそうでなかったふたりの組み合わせは大成功だったのではないか。不即不離。居住まいを正して聴きたくなる一枚だ。


Thomas MorganAround You Is A Forest

ビル・フリゼールや故ポール・モーシャンとの共演で知られるベーシストの初リーダー作。エキゾティックな旋律やミニマルなリズム・パターンの多用など、これまで彼が築き上げてきたキャリアとは大幅に異なる世界が展開されている。その意気やよし。世界中のあらゆる弦楽器をモーガンなりに再現した特異な作風ながら、クレイグ・テイボーン(p)、ヘンリー・スレッギル(as)、アンブローズ・アキンムシーレ(tp)の参加で筋の通った作品に。


Tom SkinnerKaleidoscopic Visions

レディオヘッドのトム・ヨークらのバンド=ザ・スマイルやUKジャズを代表するサンズ・オブ・ケメットのドラマーの2作目のソロ・アルバム。彼が書いたオリジナルをチェロや木管楽器で演奏した作品で、バス・クラリネットの柔らかな音色が印象的だ。狭義のジャズに収まらない曲想の豊かさと発想の独創性には何度も驚かされる。白眉は10分近い長尺の「The Maxim」では、ミシェル・ンデゲオチェロの力強い歌声が主役を張っている。


44th MoveAnthem

トム・ミッシュらと共演歴のあるビートメイカーのアルファ・ミストと、フライング・ロータスの作品でもお馴染みのドラマー=リチャード・スぺイヴンによるユニットの初作。重厚かつ硬質な音色で、ドラムンベースやビート・ミュージックをアップグレードしたようなサウンドを創出。ストレートアヘッドなジャズとは一線を画するが、リズム面での探求と模索に余念がないという意味では、本作は現代ジャズの先頭を走っていると言えるだろう。

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