真鍋大度
アーティスト/プログラマー
真鍋大度は、音楽とテクノロジーの交差点において、新しい表現と創作環境を探究してきたアーティスト/プログラマーである。2000年代初頭より、展示、ライブパフォーマンス、インスタレーションのための音響・映像システムを多数開発。文脈やコラボレーションごとに設計される一点物のクラフトを軸に、音楽表現の拡張を続けてきた。
坂本龍一、Björk、Arca、Nosaj Thing など、実験的かつジャンル横断的なアーティストとのコラボレーションを通じて、音楽・身体・映像・アルゴリズムの関係を再構築している。
2025年には、スペイン・バルセロナで開催された国際電子音楽フェスティバルSónar Festival に出演。Sónar by Night プログラムの中核会場である SónarPub にてライブパフォーマンスを行い、世界最大級の電子音楽フェスティバルの現場で、自身の音楽的・技術的アプローチを提示した。
2025年より、sonicPlanet の活動を本格化。
ロンドンで共同設立した sonicPlanet では、これまで自身や特定のプロジェクトのために開発してきた実験的なプラグインやオーディオソフトウェアを、より多くのクリエイターが利用可能なツールとして再構築・展開している。
2024年には、東京にクリエイティブスペース FIL を設立。
FIL は Eastern Sound Factory による最高級の音響システムを備え、音楽表現そのものを検証・更新するための実験場として構築されている。アーティスト、エンジニア、研究者、ミュージシャンが分野を越えて交差し、ワークショップ、トーク、展示、実験的なパフォーマンス、プロトタイピングなどが行われている。
真鍋は、音楽の概念そのものを拡張し、テクノロジーと人間の想像力の間に新たな創作の回路を引き直すことを、現在進行形の実験として続けている。
Barker
『Stochastic Drift』
この作品が面白いのは、音楽をどう捉えているかという姿勢そのものにあると感じています。Bakerのインタビューも読みましたが、実際に聴いてみても、制御と放棄の中間点を探っている感覚がはっきりと伝わってきます。展開や物語、クライマックスを前提とせず、音が時間の中でどのように振る舞い続けるかに意識が向けられている点が印象的です。音楽を完成品ではなくシステムとして扱っている姿勢も強く感じられました。ミックスやシンセの音色もとにかく心地よく、自分自身アルゴリズムでリズムを組むことがあるので、非常に参考になった一枚です。また、FILという自分がディレクションしているスペースで、高音から低音までしっかりと鳴らした爆音環境で何度も聴きましたが、音像の立ち方や身体に響く低音の構造・デザインの完成度が非常に高く、強い中毒性を感じました。
Nas & DJ Premier
『Light-Years』
NasとDJ Premierの名前を見ると、『Illmatic』や『It Was Written』、そして「Nas Is Like」をはじめとした90年代NYヒップホップの文脈が自然と立ち上がってきます。Gang Starrを含め、DJ Premierのビートが持っていたあの張り詰めた空気を身体で覚えている世代として、どうしても期待して聴いてしまいます。ただ本作は、当時のスタイルをなぞるものではなく、Nasが自身の主宰するMass Appealからリリースした作品であり、2025年を振り返る中でも特別な意味を感じさせる一曲だと感じました。父の目線を持って綴られるリリックや、ヒップホップ・ミュージアムに深く関わるなどカルチャーの継承にも力を注いできた彼が語る言葉は、もはや伝統芸とも言えるDJ Premierのサンプリングによって支えられ、積み重ねてきた時間と歴史そのものを鳴らしているように感じます。フックで使われているフレーズには、Eric B. & Rakimの「My Melody」やThe Pharcydeの「Passin’ Me By」など馴染みのあるリリックの引用もあり、WhoSampledに登録しようと思ったところ、リリース直後にもかかわらず数多くのサンプルネタが反映されていました。改めて、すごい時代だと感じました。
Nosaj Thing × Jacques Greene
『Verses GT』
Verses GT は、明確なフックや派手な音色、構造的なカタルシスを意図的に排し、音楽が空間の中でどのように呼吸し、時間とともにどう振る舞うかに焦点を当てた作品です。Nosaj Thingのテクスチャーデザインや空間構築力と、Jacques Greeneの身体感覚とリズムのコントロールが、「融合」ではなく緊張関係を保ったまま共存している点がたまらないところですね。散歩やドライブ中にも良く聴きましたが、DJでもここぞというときにプレイしました。
彼らとは友人としても長い付き合いがあり、バックトゥーバックで何度も一緒にプレイしてきましたが、7時間一緒に回してもテンションが落ちることなく、ジャンルを限定せず、あらゆる音楽を自然に行き来できます。一緒にプレイしていて、DJとしても選曲家としても本当に面白い存在です。さらにファッションや映画、書籍、食事に至るまで造詣が深く、オンとオフの切り替えも含めて、普段の生活のクオリティがとても高い。音楽以前に、その豊かな生き方そのものから多くの刺激を受けています。
