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【東京・下北沢/Upstairs Records & Bar(アップステアーズレコーズ&バー)】レアグルーヴに出会えるレコードバー

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「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は、下北沢(東京都世田谷区)にあるレコードショップ兼バーの『Upstairs Records & Bar(アップステアーズレコーズ&バー) 』を訪問。かつて、DJシャドウやカット・ケミストも通ったというNYのレコードショップを営んでいた店主による、オールジャンルの選曲・選盤は驚きの連続でした。

レコード掘りの楽しさを教えてくれるお店

小田急線・京王線 下北沢駅東口から徒歩約5分、下北沢一番街にある雑居ビル2Fにある『Upstairs Records & Bar(アップステアーズレコーズ&バー) 』。再開発によって駅前は大きく変わったが、一番街はかつての下北沢の空気が残る。その一角にあるのが同店だ。

店主の永友 慎さんは、NYでレコードショップ『ウィークエンドレコーズ』を経営後、2005年頃より下北沢でレコードショップ『ひよこレコード』をオープン。その後、現在の『アップステアーズレコーズ&バー』を開いた。

音楽好きやレコードディガーに広く知られているものの、店を訪れたことがない人は意外に多い。もし昔から気になっていたというなら、必ず行くべきお店だと言える。というのも、「なんですかこれ?」と聞きたくなる、オールジャンルのヤバい音楽が店内に充満しているからだ。音楽に詳しい店主の導きとともに、試聴気分で飲めるのは心が躍るというものだ。

「選曲とかあんまり考えてないですよ、常連さんならその人が好きそうなのをかけるし。最近は外国人観光客が多いから、ドイツから来たと聞けばドイツの曲をかけたり、フランスから来たと言われたらフランスの曲をかけたり」。そう語るのは店主の永友さん。

現在、イベントの日以外はほぼ海外からのお客さんだと言う。レアな音楽をいろいろ知りたい日本人は、もっと足を運んだほうがいい。本当にもったいない。

「レコードバーに行く人は、レコードを買う人とはまったく別なんですよ。バーでは普段スマホで聴いている音楽をレコードで聴きたいのかもしれない」

その言葉に深く頷いてしまった。

渋谷にレコード村と呼ばれるエリアがあり、多くの若者がレコード袋を手に路地を彷徨っていた90年代は、誰も知らないかっこいい曲を掘り当てるのがステイタスだった。その感覚は、今の時代には理解できないかもしれない。また、もしそれを求める人なら昼間のレコードショップやインターネットの海に向かうのだろう。

都会に憧れ続けた少年時代

1971年生まれの永友さんは、宮崎県の中東部に位置する田舎町で生まれ育った。小学校4-5年生でYMOが好きになり、そのことを話すと兄の同級生がアート・オブ・ノイズを教えてくれたという。そこから洋楽を中心に音楽を探求する人生が始まった。

「地元が田舎すぎて、中学から高校までは地獄でした。音楽をいろいろ聴いていたといっても、インターネットもない時代の田舎だからたかが知れてますよ。でも、映画館だけはなぜかあった。そのうちにレンタルビデオ屋ができて、そこではカルトムービーもあったから、お小遣いのほとんどは映画に使っていました。今でも毎日映画を観ています」

中学は進学校だったが勉強はせず、映画や音楽好きが高じて知り合った大学生に混ぜてもらうようになったという。そして、すぐにでも地元を出たい気持ちから東京で浪人生活を過ごす。

「毎日映画を観て、タワレコでCDを買って、飲んで。でも、仲間が見つからずに一人だったから、そこまで最高ではなかったです」

神戸のレコードバー『ゴスペル』から始まる数奇な人生

翌年、東京の大学は全滅し、唯一受かったのが神戸の大学だった。ここからサブカル全般が趣味となり、バイトばかりの生活の中で古着屋の店長にもなった。その後、人生を変える神戸のレコードバー『ゴスペル』でもバイトを始めるようになる。

「音楽もファッションも生き方も、オーナーの大倉さんに憧れていました。その店はUKの雑誌『ストレート・ノー・チェイサー』にチャートを載せていたり、レコードバーの草分けみたいな関西では有名なお店です」

しかし、バイトばかりの大学生活に親は失望し、大学4年で中退。そこから上京して郵便局の夜勤をするようになる。そんな折、交通費を出すからと『ゴスペル』の花見に参加したところ、関西のエリアマガジン『Meets』の編集長と再会し編集部員になることに。

「でも、徹夜の連続ですぐに音を上げてしまい一年で辞めました」

そのきっかけが面白い。ある日、夜中にFAXの前で送られてくる原稿を待っていると、「NYを離れることになったものの、今住んでいるところの家賃が安いのでNYに知り合いがいたら教えてください」と書かれた元編集部員からのFAXが届いたのだ。

「それを見たとき、自分の夢は映画をつくることだったと思い出したんです。もう思い切って仕事をやめてNYに行こうと、すぐに渡米しました」

DJシャドウも通ったレコードショップ『ウィークエンドレコーズ』

語学学校に通った後、公立大学の映画学科に入学。

「でも、半年くらいで映画はチームワークだとわかり、自分には向いてないと気づくんです」

当時の永友さんは、日本でレコード屋をやっていた彼女のために、アメリカで買い付けて送っていたという。しかし、別れたことで部屋が在庫の山となり、そのまま自宅でレコードショップをスタートさせてしまう。それが伝説の『ウィークエンドレコーズ』だ。

「最初はアパートの住人相手に販売していたんです。その知り合いが、ジェフ“チェアマン”マオという音楽ライター兼DJを連れてきてくれて。そこからは、いろんな有名DJが来るようになったんです」

ケニー・ドープやスピナ。さらに、DJシャドウやカット・ケミスト、Z-トリップなど、西海岸のDJもよく足を運んでくれたという。その証拠に、DJシャドウのDVD(PRODUCT PLACEMENT)には当時のお店の様子が映し出されている。

「雑誌『リラックス』でも紹介されたので、日本人もよく来ていました」

その頃の永友さんは常にポータブルプレイヤーを持ち歩き、さまざまな場所でレコードを買い付けていた。しかし3年後、ビザのトラブルにより、大量のレコードと部屋の契約を残したまま急遽帰国することになる。

「アメリカで一生住もうと思ってたから・・・・日本は人間関係が面倒くさいでしょ。それに、ある程度危険で、常に緊張しておかなきゃいけないところも好きだった。だから、日本に戻ってきた自分が受け入れられなくてアル中みたいになったんです。10年間くらい記憶がない(笑)」

没入感のあるサウンドに酔いしれる

そんな状態の中、下北沢に『ひよこレコード』をオープンし、2017年に居抜きで現在の場所に移転し『アップステアーズレコーズ&バー』をスタートする。

店内の音響は、前オーナーが残したBOSEとJBL 4507のスピーカーはそのままに、パワーアンプはCROWN XLS1002。ターンテーブルはTechnics SL-1200MK2とSL-1200MK3D、ミキサーはPioneer DJM-800という構成。どんなジャンルにも対応しつつも、まろやかで没入感のあるサウンドとなっている。

人気のお酒は、永友さんの実家近くにある尾鈴山蒸留所の「OSUZU GIN」と珈琲焼酎。チャージは500円で、ドリンクは700円から。お通しに柿ピーが出るが、フードは用意していないため食べ物の持ち込みがOKだという。

「こっち(バーカウンター)の棚にあるのは、レゲエ、ワールドミュージック、ヒップホップ、ディスコ、AOR、ハウス、和モノ、アフリカ、コンピレーション、ソウル、ニューウェーブ、韓国、中国、ロシア・・・って感じです。頻繁に入れ替えています」

まさにオールジャンルだが、DJユースなサウンドが多いとも言える。最近あまり聞かなくなったが、レアグルーヴと呼ばれるものだ。なお、ショップエリアだけでなく、店内で流れるレコードも“基本的には”買うことができる。百聞は一見にしかず。まずは一度足を運んでみてほしい。

取材・文/富山英三郎
撮影/高瀬竜弥


・店舗名 Upstairs Records & Bar(アップステアーズレコーズ&バー)
・住所 東京都世田谷区北沢3-27-1 2F
・営業時間 21:00〜25:00
・定休日 無(InstagramのStoriesを要確認)

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