MENU
「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は、西荻窪(東京都杉並区)にあるリスニングカフェ&バー『JUDGMENT! RECORDS lounge(ジャッジメントレコード ラウンジ)』を訪問。「和ジャズ」の火付け役であり、ジャズ好きには広く知られる人物のお店ながら、デートでも使える気軽さが魅力でした。
西荻窪駅から徒歩1分のリスニングカフェ&バー
JR中央・総武線 西荻窪駅北口から徒歩約1分、角にカラオケ館のある小道を入った雑居ビル3Fにある『JUDGMENT! RECORDS lounge(ジャッジメントレコード ラウンジ)』。西荻窪(東京都杉並区)は、吉祥寺ほど商業化されておらず、高円寺ほどサブカル色が強すぎずない絶妙なエリアといえる。また、以前紹介したROLLINGAを始め、話題のミュージックバーが立て続けにオープンしている注目スポットでもある。
そんな場所で2026年4月に誕生したのが、ジャズを中心とする中古レコード店『JUDGMENT! RECORDS』が手がけるリスニングカフェ&バーだ。ちなみに、店主の塙 耕記さんはかつてディスクユニオンのジャズ統括責任者であり、「和ジャズ」の火付け役としても知られている。
「東京には老舗のジャズ喫茶や有名なジャズバーがたくさんあるので、そこに対抗するような気持ちはないんです。リスニング カフェ&バーとライトな表現をしているように、20~30代の若い人たち、音楽やレコードに興味がない人たちに、どんどん来てもらいたい。そのうえで、“なんか音がいいね” “いい曲だね” “ジャズっていいね” ”レコードも買えるんだ” と、ちょっと裾野を広げたいなという意識でやっています」。そう語る塙さん。
店内はテーブル&ソファが16席、カウンター5席と広々としている。ミッドセンチュリーの家具を配した店内は洗練されており、平日はバーとして土曜はカフェ&バーとして誰でも気軽に利用することができる。
さりげなく置かれるミッドセンチュリーの家具たち
「ミッドセンチュリーの家具は20代の頃から集めていて、イームズやベルトイア、柳宗理などのチェアを並べています。ソファ席はジャパニーズコーナーとして、カリモクで揃えました」
他にも、スペースエイジデザインなオーディオシステム「Weltron 2007」も置かれているが、レトロフューチャーな店内というわけではない。
「床を張り替えたり、一部の壁を塗り直したりなどしていますが、居抜きの内装を生かしながら家具をセレクトしていきました」
70年代〜現代のレコードに合わせたサウンドシステム
残置物の中には、アルテックのヴァレンシアがあったというから驚きだ。塙さんは「そんなに好きなスピーカーじゃないですけど」と笑いながら話すが、せっかくだからとヴァレンシアに合うオーディオをセレクトしていった。
ターンテーブルはモーファイ・エレクトロニクス、アンプはマッキントッシュのMA6100、CDプレーヤーはケンブリッジオーディオ。また、家電製品からのノイズ干渉を防ぐため、単独回路の電源を新設したという。
「東中野のお店(JUDGMENT! RECORDS)は、オリジナル盤のレコードがよく鳴るようにヴィンテージの機材で統一しているんです。でも、このお店でかけるのは再発盤や国内盤が多くなるので、70年代から現代のプレスのレコードに合わせたサウンドシステムにしています」
それぞれの楽器が際立つクリアさがありながら、全体として大迫力のサウンド。カウンターで聴けば、スマホを忘れてつい音楽に没頭してしまうだろう。一方、テーブル席なら会話を楽しみながら、音楽の魅力に気づくことができる。
「基本的にはジャズのアルバムを片面ずつ、昼間のカフェ営業だったらボサノバやブラジル系をかけたりもします。そういう意味では、お客さんの雰囲気と時間帯を気にしながら選盤しています」
店内には、JUDGMENT! RECORDSから流動的にセレクトされるタイトル、これまで塙さんが関わったブルーノートなどの名盤系や、現在監修中の和ジャズを代表するレーベルであるスリー・ブラインド・マイス(TBM)など、常時1000枚ほど用意されているという。
「中古レコード店もやっているので、一般的なジャズ喫茶のように、これを揃えなくてはという感覚はまったくないんです。なので、お店に置いているレコードも流動的。そのうえで、この人はモダンジャズが好きそうだなとか、この人は詳しいからマイナーなものをかけてみようとか、そういう感じでやっていますね」
『JUDGMENT! RECORDS lounge』は、音楽や音響だけでなく、お酒や珈琲、紅茶が抜群に美味しいという魅力もある。
「しっかりとしたものを提供したいので、まずはバーの姿勢や取り組み方について、親交のあるバーの方に全スタッフ揃えて研修してもらいました。日々学びながら、基本に忠実にやっています。珈琲に関しても週イチで来てもらっているバリスタがいて、彼女の指導のもと淹れています。豆に関してもバリスタの自家焙煎で『BLOOM as you are.』というブランド名で販売もしてます。紅茶も丁寧にポットで提供していて好評です」
ジャズ喫茶を営む両親のもとで生まれ育った
塙さんは、水戸市のジャズ喫茶『The Sound & The Fury』を営む両親のもとで生まれ育った。幼少期から家に大量のレコードがあり、クルマで出かければ大音量でジャズがかかっていたという。
「アコースティックなジャズ・スタンダードはまだしも、マイルス・デイビスの『ビッチェズ・ブリュー』など、エレクトリック期のマイルスを大音量で聴かされるのは苦痛でしたよ(笑)」
小学生の頃は周囲と同じように歌謡曲を聴いていたが、テレビの前にラジカセを置いて音楽番組を録音するなど、人よりも少しだけ音楽好きだったという。その後、中学でオールディーズが好きになり、そこからリトル・リチャードなど黒人音楽も聴くようになる。
「そうすると、ホーンの音色が入ってきたりするじゃないですか。そこから楽器に興味を持ち始めて、高校くらいから少しずつジャズも聴くようになったんです」
その後、進学のために20歳で上京。そこからレコード屋巡りが加熱する。一度は不動産会社に就職するものの、すぐに辞めてディスクユニオンに転職。運よくジャズ担当になり、これまで知らなかった現代のジャズプレイヤーなどを必死に勉強しながらメキメキと頭角を現していった。
「90年代の話ですが、いろいろとジャズを聴くうちに“日本人の古いジャズが面白いぞ”と思うようになって。ちょこちょこ買って集めていたんですけど、当時は馬鹿にされるんですよ。でも、良いものは良いので、復刻を中心とした自社レーベルが発足したタイミングでCD化していったんです」
その後、『ジャズ批評』が日本のジャズを特集。そこで初めて「和ジャズ」という言葉が生まれ、一気に広がっていったという。その流れを汲み、尾川雄介氏と共に書籍『和ジャズ・ディスク・ガイド Japanese Jazz 1950s-1980s』(2009年)を出版。今や、古き良き「和ジャズ」は世界にまで広がることになった。そして、塙さんは2022年に独立をする。
他にもたくさんの功績があるのだが、塙さんの経歴を知ると「ジャズマニアが集まるお店」と思われてしまうかもしれない。しかし、そんなことはまったくないので安心してほしい。冒頭にあった開店の経緯のように、まずはただのオシャレなカフェ、いい感じのバーを目指して出向くのが正解だ。
「お客さんと会話するのも好きですし、お酒のつくり方を日々勉強しながら“うわっ、美味しくできた!”とかやっているので、毎日すごく楽しいですよ」
いい音で美味しいお酒や珈琲を楽しみたい、そんな気分のときはふらり立ち寄ってみてはいかがだろう。
取材・文/富山英三郎
撮影/高瀬竜弥
・店舗名 JUDGMENT! RECORDS lounge(ジャッジメントレコード ラウンジ)
・住所 東京都杉並区西荻北3丁目19-12 西商ビル3F
・営業時間 19:00〜23:00(火曜〜金曜)、14:00〜23:00(土曜)
・定休日 日曜・祝日、月曜
(営業日・営業時間はInstagramを要確認)
