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小さなブルースバーに世界中から人が集まる─ 28年続く「中野 Bright Brown」へ【ジャムセッション講座 第42回】


これから楽器をはじめる初心者から、ふたたび楽器を手にした再始動プレイヤー、さらには現役バンドマンまで、「もっと上手に、もっと楽しく」演奏したい皆さんに贈るジャムセッション講座シリーズ。

今回訪れたのは、ブルースバー「中野 Bright Brown」。毎週木曜日に開かれるブルースセッションに潜入し、ジャズとはひと味違うセッションの世界を体験した。

【今回の現場】

中野 Bright Brown
東京・中野にあるブルース&ジャズバー。ライブやセッションを中心に営業し、店内ではドリンクのほか、オリジナルTシャツなどのグッズも販売。JR中野駅北口から徒歩約3分。営業日やライブ、セッションのスケジュールは公式サイトやSNSで随時案内している。
東京都中野区中野5-59-9 湯澤第二ビル2F/080-3024-4685


【担当記者】

千駄木雄大(せんだぎ ゆうだい)
ライター。33歳。大学時代に軽音楽サークルに所属。基本的なコードとパワーコードしか弾けない。セッションに参加して立派に演奏できるようになるまで、この連載を終えることができないという十字架を背負っている。33歳になったのに、この間LUUPに乗っているときに車にはねられた。救急車で運ばれ、幸い超打撲で済んだものの、治療費で10万円を請求されて泡吹いた。

ブルース一筋28年! 毎週木曜に集う人々

「中野に移ってきたのが1998年なので、今年で28年目。その前は高円寺でもブルースのジャムセッションをやっていたので、実質30年以上になります」

そう語るのは、ブルースバー「中野Bright Brown」店主の鈴木規之氏。

JR中野駅から、中野ブロードウェイへと続く商店街を歩き、途中の路地を曲がってすぐのところに店はある。飲み屋やスナックが入り混じる一帯にありながら、知らなければ、そのまま通り過ぎてしまうかもしれない。

これまでこの連載で取り上げてきたジャムセッションは、いずれもジャズだった。しかし、ジャムセッションは何もジャズに限った話ではない。ブルースやファンクにもある。

そして、「中野Bright Brown」はブルースの専門店だ。今でこそ特定のジャンルに特化した店は珍しくないが、この店は30年以上前から文字どおり “ブルース” を軸にやってきた。

「ブルースだけに特化すると、マーケットは小さいため、経営としてはなかなか難しい。それでも、ブルース好きのお客さんたちのおかげで続けてこられました」

中野Bright Brownのブルースセッションは毎週木曜日。18時半に店が開き、19時半から22時半まで、約3時間にわたって行われる。

「ギター、ベース、ドラム、ピアノ、全部あるので、手ぶらで来ても大丈夫です。『誰が使ってもいい』という条件で、常連さんが仕事帰りにも気軽に来られるように店に置いてあるんです」

セッションではハウスバンドを軸に参加者が順番に入れ替わっていく。1セットは基本3曲。早めに来れば、2回ほど出番が回ってくることもあるという。

「演奏前に細かい打ち合わせはしません。例えばギターが2人いても、自分が演奏しようとしたパートをもうひとりがやろうとしていると気づけば、『じゃあ自分はこっちだな』と、その場で変えるんです」

ジャズの「ブルース」と何が違う?

そんなセッションを30年以上続けてきたからこそ、店にはちょっとした “歴史資料” も残されている。

ママのミキ氏が見せてくれたのは、高円寺時代から残しているセッション参加者の記録だ。ページをめくると、ギター、ベース、ドラム、ハーモニカ、ボーカルと、30年ほど前に店へやって来た人たちの名前が並んでいる。

「昔はSNSなんてなかったから、ここでみんな友達を作って、連絡先を交換していました。『スタジオに入りましょう』とか『バンドを組みましょう』と、仲間を見つけるきっかけの場だったんです。『あの人にバンドに入ってもらいたいから、連絡先を教えて』ということもありました」(ミキ氏)

今なら、その場で連絡先やSNSのアカウントを交換すれば済む。しかし30年ほど前、ジャムセッションは演奏するだけではなく、バンド仲間を探す場所でもあった。その役割は、形を変えながら現在まで続いている。

そして、ジャムセッションに参加できるのはギタリストだけではない。ブルースではハーモニカを「ハープ」と呼ぶが、ハープとボーカルだけで参加する人もいる。過去にはフルートやトロンボーン、さらには三味線を持ってきた参加者までいたという。

「ブルースは “来るもの拒まず” です。みんなで目配せしながら、『次どうぞ』と一通りソロを回せれば、あとは自由なんです」(鈴木氏)

一口にブルースといっても、そのスタイルはさまざまだ。特に鈴木氏が好むのは、マディ・ウォーターズなどに代表されるシカゴ・ブルースだ。

「デルタ・ブルースでよく知られているのは、生ギターによる弾き語りですよね。マディ・ウォーターズもミシシッピにいた頃は、ひとりでギターを弾いていました。それがシカゴに出てきて、ギターをアンプにつなぎ、バンドで演奏するようになった。そうやって発展していったのがシカゴ・ブルースです」

いわば、アコースティックギターによる弾き語りを中心としたブルースが、都市へ移動するなかで電気楽器を取り入れ、バンドサウンドへと発展していった。その一方、T・ボーン・ウォーカーなどに代表されるテキサス・ブルースでは、ギターを前面に押し出したスタイルも目立つという。

では、これまで本連載で取り上げてきた “ジャズ界で言うところの「ブルース」”と何が違うのか。

「一番はノリですね。シカゴ・ブルースで多いのはシャッフルです。ジャズにもシャッフルはありますが、ノリは大きく違います。それから、ブルースはC、F、Gというような3コードが基本です。ただ、ジャズだとⅠ、Ⅳ、Ⅴの3コードだけというシンプルなコード進行は少なく、Ⅱ−Ⅴが入ったりします」(同)

海外からもブルース好きが集まる店に

最も基本的なブルースは12小節を一つのまとまりとし、3つのコードを軸に進んでいく。一方、ジャズでは同じ12小節のブルースでも、コードを細かく置き換えたりすることで、より複雑なハーモニーになることがある。

ほかにも、ジャズのセッションなら「枯葉」などのスタンダードナンバーを覚え、「黒本」などを見ながらコード進行を確認して参加することも多い。一方、ブルースでは、12小節の基本形を共有しながら、歌を中心にギターやハーモニカなどがソロを回していく。

もちろん、B.B.キングやマディ・ウォーターズ、エルモア・ジェイムスなど、セッションで定番として演奏される楽曲もあるが、鈴木氏によれば、知らない曲を指定されたからといって、必ずしも参加できないわけではない。

「3コード、12小節だと分かっていればついていけます。逆にそれを知らないと、『今どこをやっているんだろう?』となってしまう。でも、基本的にブルースは自由なんです。コピーを忠実に再現する人もいれば、長く演奏しているうちに自分なりのスタイルに変わっていく人もいる。シンプルな音楽だからこそ、『どうやって個性を出すか』という楽しみがあるんですよね」(同)

この店のジャムセッションの主な参加者は40〜60代の男性だが、なかには10代の参加者もいる。

「親と一緒に来る子もちらほらいますけど、高校生がひとりで来ることが多いですね。ほかのお客さんたちと比べれば、まだそれほど上手に弾けない。それでもひとりで来てセッションに参加する。その度胸がすごいですよね」(同)

そうした若者も訪れるため、現在の店内は禁煙。高校生ならオレンジジュースやコーラを飲みながら、大人たちに交じってブルースを演奏している。

そんな中野Bright Brownだが、近年は意外な変化も起きている。外国人客が増えているのだ。

「最近はSNSを見て来る人が多い。外国人のお客さんだとGoogleマップで見つけて来る人もいます。この間も中国から来た女の子に、『中国のSNSでここ、すごい評判になってるよ』と言われました。うちは宣伝がヘタで、何もしていないようなものなので助かりますね(笑)」(ミキ氏)

ブルースがつないだ国境を越えた出会い

なかには、本場アメリカから来て驚く人までいる。サンディエゴから訪れたバンド「グッド・グレイビー」のメンバーは、アメリカでもブルースを専門に扱う店はなかなかないことに驚き、「今度はバンドのメンバーを連れてくる」と宣言。翌年、本当に仲間を連れて再び店を訪れたという。

「韓国からインスタグラムで連絡してきた若者もいました。その子は日本のブルースシーンにものすごく詳しいんですよ。『もっと日本人とブルースの話をしたい』と言って、今年2月には日本に引っ越してきました。今は日本語学校に通いながら、ここのセッションにも来ています」(ミキ氏)

筆者が「国際的なハブになっていますね」と言うと、鈴木氏はもっと簡単な言葉で表現した。

「ブルースのオタクの集まり(笑)。外国人もみんな『ここはブルースの店だ』と分かって来ています」

また、長く店を続けていると、音楽だけではない出会いも生まれる。13年前、セッションを見に来たオーストラリア人のグループとイタリア人のグループが、たまたま隣り合わせの席になった。

「そこでオーストラリア人の男性とイタリア人の女性が意気投合して、連絡先を交換したんです。それぞれの国に帰ったあとも連絡を取り合って、遠距離恋愛が始まり、その後、結婚したそうです」(ミキ氏)

イタリアで暮らす夫婦は2年前、9歳になった娘を連れて、中野Bright Brownを再訪した。

「お母さんが娘に『ママとパパはここの席で知り合ったの』と、泣きながら話していたんです。『まだお店があってよかった』とも言ってくれて……」(同)

話はそれだけでは終わらない。つい先日、今度は父親と娘の2人だけで中野Bright Brownを訪れたという。母親も仕事で日本に来ていたものの、そのときは金沢にいた。そこで2人は、母親からある“お使い”を頼まれていた。

「『ママに中野Bright BrownのTシャツを買ってきて』と頼まれたそうです(笑)。でも、欲しかったサイズがなかったんです。そこで、娘さんにはTシャツをプレゼントして、『ママの分は2年後までに作っておくから』と言っておきました」(同)

超満員のブルースセッションに潜入

実はこの取材は、ジャムセッション前日の水曜日に行われている。鈴木氏から「明日は人でギュウギュウになるから、話をしている余裕はないと思う」と事前に言われたためだ。この日は1時間半ほどお邪魔したが、客は筆者と常連の2人だけ。「本当にそんなに埋まるのか?」と、少し怪しんでいた。

翌日。オープン前の18時にカメラマンと改めて店を訪れ、撮影の準備をしていると、ひとり、またひとりとギターケースを背負ったおじさんたちが入ってくる。そして、ジャムセッションが始まる19時半には、店内は超満員になっていた。

しかも、客層は前日に鈴木氏とミキ氏が話していたとおり、中高年男性だけではない。欧米や中国、韓国などから来た外国人、さらには若者までが、この小さな店に一堂に会している。

やがて、ハウスバンドの演奏が始まる。これまで見てきたジャズのジャムセッションとは違い、ボーカル&ギターが歌う。ジャズのセッションでは歌物が敬遠されがちな節もあるが、歌から生まれたブルースでは、むしろ歌が中心にある。

演奏を聴いていても、ジャズとはかなり感触が違う。複雑にコードが移り変わっていくわけではなく、曲によっては明確なテーマらしいものもない。何も知らずに聴けば、失礼ながら「さっきも同じ曲をやっていたような……」と思ってしまっても無理はないだろう。

だからこそ、演奏者それぞれのソロに個性が出る。ここはジャズのジャムセッションと同じで、各パートにソロが回り、弾き終わるたびに会場から大きな拍手が送られる。

ジャズのジャムセッションも自由だと言われるものの、曲によってはイントロやテーマなど、ある程度の型が決まっている。一方、この日のブルースセッションを見ていると、よりシンプルな枠組みのなかで、何を弾くのかは演奏者自身に委ねられているように見えた。

となると、シンプルだから簡単というわけでもない。むしろ自由だからこそ、その場で何を弾くのかが問われる。

筆者は普段、ロックを聴くことも多いので、「もしかしたらブルースのほうが向いているかも!」などと思ったが、結局は勉強と練習が必要ということだ。何事にも楽な道は存在しないのである。

そんなことを考えている間にも、次から次へと新しい客が入ってくる。カメラマンも筆者も、そろそろいるだけで邪魔になりそうだったので、結局30分も経たずにお暇することにした。帰りの階段では、これから入店する2人の客と譲り合うことになったほどだ。

東京に、こんなにもブルースを弾きたい人が集まる場所があったのか。帰り道、改めてそう思わされた。

構成・文/千駄木雄大
撮影/佐久間美沙

ライター千駄木が今回の取材で学んだこと

1 ジャムセッションはジャズだけではない
2 ブルースは「3コード、12小節」が基本
3 シンプルだからこそ個性が出る
4 知らない曲でも基本が分かれば参加できる
5 ジャムセッションは出会いの場でもある!?

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