【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤 /第2回『アワ・ニュー・オーリンズ』

文/ピーター・バラカン

2018.02.26

第2回

カトリーナが運んだ絶望と希望

 今は忘れがちですが、2005年8月にニュー・オーリンズを襲ったハリケイン・カトリーナの被害で、40万人もの人たちが避難を余儀なくされました。当時のブッシュ政権の対応もひどく、壊滅的な状況の中でハリケインの被害を受けた人々を支援するためベネフィット・アルバムがいくつか制作されたが、『アワ・ニュー・オーリンズ』はその中で最も中身の素晴らしいものです。ニュー・オーリンズの名だたるミュージシャンが参加し、2005年11月という驚く早さで発表されました。

Various Artists 『Our New Orleans』(Nonsuch Records/2005)

 冒頭を飾るのはニュー・オーリンズを代表するアラン・トゥーサント。自分のレコーディング・スタジオが洪水で全滅となった彼はニューヨークへ移り、このアルバムのために吹き込んだのが自作の「イェス・ウィー・キャン・キャン」。ポインター・シスターズのヴァージョンで70年代に大ヒットしたこれは肯定主義の賛歌とも言える曲で、作った本人が初めて録音したのです。優しさの中に強靭な精神が伝わり、復興への意志が強く現れる演奏です。

 街の象徴となっているダーティ・ダズン・ブラス・バンドは彼らの代表曲「私の足よ、今こそしっかり!」を改めてここでやるといつもとは異なったニュアンスを帯びてきます。同じようにニュー・オーリンズの音楽について知らない人でも知っている「聖者の行進」は、ここでいつもはファンキーなピアノを弾くエディ・ボーがゆったりしたテンポで「聖者たちが行進するとき、私もその仲間に入りたい」と歌い、少し物悲しい雰囲気になります。

 「この素晴らしき世界」はニュー・オーリンズというよりルイ・アームストロングと切っても切れない曲です。ここではニュー・オーリンズの音楽シーンを裏方として支えてきた編曲家のウォーデル・ケゼールグのオーケストラが演奏し、アームストロングの代りにアルト・サックス奏者ドナルド・ハリスンが素直に美しくこのメロディを聞かせます。

 このアルバムのお陰で初めて知ったミュージシャンもいます。特に心を打たれたのがダヴェル・クローフォードです。ピアニストで歌手の彼が歌う自作の曲「川のそばで集まる」はほとんど賛美歌のように聞こえるゴスペル的な感じで、静かながらとてもエモーショナルな演奏です。

 ベネフィットとしての効果がどうだったかな。とにかくこの手のアルバムとしてはぴかイチの出来です。

 

Various Artists 『Our New Orleans』(Nonsuch Records/2005)

1.Allen Toussaint “Yes We Can Can”

2.Dr. John “World I Never Made”

3.Irma Thomas “Back Water Blues”

4.Davell Crawford “Gather By The River”

5.Buckwheat Zydeco “Cryin’ In The Streets”

6.Dr. Michael White “Canal Street Blues”

7.The Wild Magnolias “Brother John Is Gone/Herc-Jolly- John”

8.Eddie Bo “When The Saints Go Marching In”

9.Dirty Dozen Brass Band “My Feet Can’t Fail Me Now”

10.Carol Fran “Tou’ Les Jours C’est Pas La Meme”

11.BeauSoleil “L’ouragon”

12.Preservation Hall Jazz Band “Do You Know What It Means To Miss New Orleans”

13.Charlie Miller “Prayer For New Orleans”

14.Wardell Quezergue Orchestra(featuring Donald Harrison)”What a Wonderful World”

15.Allen Toussaint “Tipitina And Me”

16.Randy Newman, Louisiana Philharmonic Orchestra “Louisiana 1927”

 

 

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
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