【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤 /第3回 チャールズ・ロイド&ザ・マーヴェルズ『I Long To See You』

文/ピーター・バラカン

2018.03.13

第3回

達人たちの演奏で“平和と安らぎ”について考える

2018年3月15日に80歳の誕生日を迎えるチャールズ・ロイド。彼は、ぼくが高校生だった1960年代の後半、ピアノでキース・ジャレット、ドラムズでジャック・ディジョネットという新人たちを含むカルテットで、ロックを聞いて育ったぼくらの世代にも響くジャズ・ミュージシャンでした。

最近もてはやされている感のある「スピリチュアル・ジャズ」の要素をすでにあの頃持っていましたし、その後、長年瞑想を行ってきた関係もあってか、彼の演奏から深い落ち着きを得ることがあります。60年代のフリー・ジャズの流れを汲んでもおり、また、生まれ育ったメンフィス特有のブルーズやゴスペルのルーツも色濃く残っている彼の複雑な音楽性がこのアルバムにぎっしりと詰まっています。

Charles Lloyd & The Marvels『I Long To See You』(Blue Note/2016)

ここ数年ずっと彼と共に活動しているベースのルーベン・ロジャーズとドラムズのエリック・ハーランドという優れたリズム・セクションは本人の半分ほどの年齢。彼らの他に2人のギタリスト、ビル・フリゼルとグレッグ・リースを指す今回の「マーヴェルズ」はロイドにとって初めての組み合わせです。60代のこの2人はそれぞれあらゆるジャンルの音楽を見事にこなす名人で、ビル・フリゼルはジャズ畑で有名ですが、グレッグ・リースは専らスティール・ギター奏者として知られるプレイヤーです。

全体的にゆったりとしたムードが続き、聞いていると自分の呼吸がゆっくりになっていることに気づくほどです。アルバム・タイトルの”I Long To See You”が歌詞の一節となっているShenandoahではギターが絶妙に絡み合う中でロイドのテナー・サックスは、エアロン・ネヴィルのようなコブシでソフトに美しく転がります。

冒頭を飾るボブ・ディランの「戦争の親玉」が暗に示唆するメッセージ性が、2曲の黒人霊歌とウィリー・ネルソンがゲストで歌う反戦歌「Last Night I Had the Strangest Dream」にも現れています。ノーラ・ジョーンズがフィーチャーされる「You Are So Beautiful」は止まりそうなほどのスロー・テンポで展開し、じっくりと心に沁みます。

チャールズ・ロイドのオリジナル曲もあります。フルートで演奏される「Of Course, Of Course」は彼の初ソロ作。「Sombrero Sam」はぼくが彼のことを知るきっかけだった「Dream Weaver」の再録音です。そしてこの美作を締めくくる16分の「Barche Lamsel」はチベットの祈りが基となっていて、目を閉じて頭の中でヒマラヤ山脈のちょっと幻想的なロード・ムーヴィーを想像してしまいます。

 

 

 

Charles Lloyd & The Marvels『I Long To See You』Blue Note/2016

  1. Masters Of War (Bob Dylan)
  2. Of Course, Of Course (Charles Lloyd)
  3. La Llorona (traditional)
  4. Shenandoah (traditional)
  5. Sombrero Sam (Charles Lloyd)
  6. All My Trials (traditional)
  7. Last Night I Had the Strangest Dream (featuring Willie Nelson) (Ed McCurdy)
  8. Abide With Me (traditional)
  9. You Are So Beautiful (featuring Norah Jones) (Bruce Fisher/Billy Preston)
  10. Barche Lamsel (Charles Lloyd)

 

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

 

※記事内のカタカナ表記について。仮名づかいは著者の解釈を尊重して掲載しているため、一般的な表記および、他ページ(同サイト内)の表記と異なる場合があります。


PICKUP EVENTオススメのイベント