【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤/第4回  デレク・トラックス・バンド『Songlines』

文/ピーター・バラカン  写真/西田周平

2018.03.26

第4回

“オールド・スクールな演奏”と斬新な感性

一生忘れないような衝撃的な音楽体験はどちらかといえば青春時代に多いものですが、デレク・トラックス・バンドを渋谷のクラブ・クアトロで見た2004年5月20日は自分にとって久しくなかった極楽の2時間でした。「天才のスライド・ギタリスト」という表現はどこか物足りないもので、彼のギターから放たれる超越的な精神性、そしてこのバンド全体のとてつもない幸福感は抜けています。当時52歳だったぼくはもっと若ければすべてを投げ打って彼らのスタッフにでもなりたいと思うほど深く惚れ込んだものでした。

Derek Trucks Band “Songlines (CD) + Songlines Live (DVD) (Sony – 2006)

2006年で27歳となったデレクは伯父がオールマン・ブラザーズ・バンドのドラマーということもあって、物心がついた頃からオールマン、エリック・クラプトン、マッド・ドッグズ・アンド・イングリッシュメンなどが日常的に耳に入る少年で、9歳から人前で演奏するようになっていた珍しい例です。ブルーズ、ソウル、ゴスペル、ジャズ、インドの音楽などいくつものジャンルにまたがる活動が続き、このアルバムが出た時はすでにヴェテラン選手でしたが、それまで主にインストルメンタルだったこのグループに正式メンバーとして迎えられたマイク・マティスンはこの「ソングラインズ」からの参加となりました。

徹底的に「オールド・スクール」な演奏をするデレクたちは一切コンピューターのお世話にならず、キーボードとフルートを担当するコーフィ・バーブリッジュがこなす楽器の中で最も新しいのは70年代に流行ったクラヴィネット。それ以外はハモンド・オルガンとエレクトリック・ピアノが中心なので、21世紀のバンドとは思えないかも知れません。

しかし感性は斬新で、パキスタンの大歌手ヌスラット・ファテ・アリ・ハーンの持ち歌「Sahib Teri Bandi/Maki Madni」を10分ほどのインストルメンタルのメドリーで演奏したのは画期的でした。この曲のギターと一緒にとりわけ感動したのは「I Wish I Knew(How It Would Feel To Be Free)」。主にニーナ・シモーンの歌で知られるこのゴスペル調の曲をぼくはこのアルバムで出会ったもので、心臓が破裂するのではないかと思うほどデレクのスライド・ギターに感激したのです。

アルバム発表後に出たライヴのDVDと一時期国内盤で2枚組のセットになっていたので、それがいちばんお薦めですが、入手しにくい場合は別々にどうぞ。とにかく名盤です。

 

 

Derek Trucks Band “Songlines (CD) + Songlines Live (DVD) (Sony – 2006)
CD

  1. Volunteered Slavery (Roland Kirk)
  2. I’ll Find My Way (Derek Trucks/Jay Joyce)
  3. Crow Jane (Skip James)
  4. Sahib Teri Bandi/Maki Madni (Nusrat Fateh Ali Khan)
  5. Chevrolet (Lonnie Young/Ed Young)
  6. Sailing On (Toots Hibbert)
  7. Revolution (Jay Joyce)
  8. I’d Rather Be Blind, Crippled and Crazy (Darryl Carter/Charles Hodges/Don Robey)
  9. All I Do (Derek Trucks/Mike Mattison/Todd Smallie/Yonrico Scott/Kofi Burbridge)
  10. Mahjoun (Derek Trucks)
  11. Greensleeves (traditional)
  12. I Wish I Knew (How It Would Feel To Be Free) (Dick Dallas/Billy Taylor)
  13. This Sky (Derek Trucks/Mike Mattison/Jay Joyce)

DVD

  1. Joyful Noise (Kofi Burbridge/Javier Colon/Yonrico Scott/Todd Smallie/Derek Trucks)
  2. Crow Jane (Skip James)
  3. Sahib Teri Bandi/Maki Madni (Nusrat Fateh Ali Khan)
  4. Volunteered Slavery (Roland Kirk)
  5. I’ll Find My Way (Derek Trucks/Jay Joyce)
  6. I Wish I Knew (How It Would Feel To Be Free) (Dick Dallas/Billy Taylor)
  7. Key To The Highway (Charles Segar/Big Bill Broonzy)
  8. I’d Rather Be Blind, Crippled and Crazy (Darryl Carter/Charles Hodges/Don Robey)
  9. All I Do (Derek Trucks/Mike Mattison/Todd Smallie/Yonrico Scott/Kofi Burbridge)
  10. Mahjoun/Greensleeves (Derek Trucks/traditonal)
  11. Sailing On (Toots Hibbert)
  12. Chevrolet (Lonnie Young/Ed Young)
  13. Soul Serenade (Curtis Ousley/Luther Dixon)
  14. For My Brother (Derek Trucks)
  15. Feel So Bad (Chuck Willis)
  16. Let’s Go Get Stoned (Nickolas Ashford/Valerie Simpson/Josephine Armstead)
  17. Voices Inside (Everything Is Everything)/Fat Mama
  18. Anyday (Eric Clapton/Bobby Whitlock)
  19. Maybe Your Baby (Stevie Wonder)
  20. Up Above My Head (Sister Rosetta Tharpe)

 

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

 

※記事内のカタカナ表記について。仮名づかいは著者の解釈を尊重して掲載しているため、一般的な表記および、他ページ(同サイト内)の表記と異なる場合があります。