【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤/第5回 オーケストラ・バオバブ『Specialist In All Styles』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

2018.04.09

西アフリカ最高峰の“アフロ・キューバン楽団”復帰作

元々アフリカから奴隷と共に大西洋を渡った文化が、色々な形で新世界で根付きましたが、キューバで育まれた新しいスタイルの音楽は、ジャズ以前のニュー・オーリンズでも人気を博し、その影響はいまだに世界中で続いています。

1930年代ごろからキューバのレコードがアフリカで発売されるようになり、当然ながら最初からアフリカの人たちには馴染みのサウンドでしたが、アフリカ各地のミュージシャンもキューバの音楽を自分たちの解釈を加えたヴァージョンで演奏するようになっていきました。

Orchestra Baobab “Specialist In All Styles”(World Circuit – 2002)

そのいちばん有名なのがコンゴの「ルンバ」でしょうが、西アフリカのセネガルでもキューバの音楽が大流行し、最も人気のあるバンドはオーケストラ・バオバブでした。複数のヴォーカリストにギター、ベース、サックス、パーカションといった編成で、1970年代のダカールの高級ナイトクラブで彼らの奏でるゆったりとした雰囲気のアフロ・キューバン・サウンドが一世を風靡したものです。

しかし、80年代にはもっと激しいダンス・ビートの音楽が台頭するとオーケストラ・バオバブは一度解散に追い込まれます。その後、ワールド・ミュージックの流れの中で彼らの音楽が遅ればせながらヨーロッパで聞かれるようになり、結局15年ぶりに再結成の運びとなりました。そこで制作されたのがこのアルバム。人気のピークからすでに30年ほど経過していたものの歌と演奏は見事です。

セネガルのグループとはいえ、周りの国のメンバーもいて、ギタリストのバルテレミー・アティソはトーゴ出身です。ダカール大学法学部で勉強中の学生だった彼が最初からバオバブのメンバーとなり、一時期解散した時はトーゴで法律事務所を始めましたが、再結成で声がかかるとすかさずセネガルに戻って大活躍したのです。

朗々と鳴るイサ・シソコのサックスとアティソのギターの組み合わせにどこか懐かしい60年代のポップ・ミュージックの響きがあり、このアルバムが発表された2002年にはすでにブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブによる古き良きスタイルのキューバン・ミュージックが世界中で親しまれていたし、そのサウンドを発展させた感じもありました。本物のキューバの音楽よりも更にこのバオバブ・ヴァージョンが個人的には大好きで、特にこの作品は名盤だと思います。2003年の来日公演も一生忘れない幸せな一時でした。

 

Orchestra Baobab “Specialist In All Styles”(World Circuit – 2002)

  1. Bul Ma Miin
  2. Sutukun
  3. Dée Moo Wóor
  4. Jiin Ma Jiin Ma
  5. Ndongoy Daara
  6. On Verra Ça
  7. Hommage A Tonton Ferrer
  8. El Son Te Llama
  9. Gnawoe

 

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

 

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