【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤/第7回 ヴァン・モリスン『Duets: Re-Working The Catalogue』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

2018.05.14

ヴァン・モリスンが70歳になる2015年にレコード会社を移籍して、この意欲作を発表しました。過去に30枚以上のアルバムを出してきた彼は自分のことをよく職人のように話し「生計を立てるためにレコードを出し続けている」と、今ひとつ夢のない現実的なことを言います。

その多く出しているアルバムの中には、ヒットした有名なものもあればコアのファン以外にはほとんど認識されないものも少なくないので、不当に注目を浴びなかった良質な楽曲だと本人が思う16曲を選んで、自分の好きな歌手たちとのデュエットの形でもう一度聞いてもらおう、という企画です。

Van Morrison “Duets: Re-Working The Catalogue”

アルバム・タイトルにある「カタログ」というのは持ち歌の全部を総合的にさす一種の業界用語で、それを「リワーク」とは改めて活用するということです。アルバム・タイトルとしては妙に事務的な感じですが、中身は素晴らしい。

個人的には昔からヴァンが大好きなのでアルバムはすべて持っていますが、それでもやはり忘れてしまっている曲があります。ここでジョス・ストーンと一緒に取り上げている「ワイルド・ハニー」は80年の『コモン・ワン』という比較的地味な作品に埋もれていたソウルフルな曲ですが、ヴァンより40歳以上も年下のジョスはコブシを効かせすぎずとても気持ちよく共演しています。

逆にぼくもヴァンと同様にもっと注目されるべきだと思ったのは「ジ・イターナル・カンザス・シティ」でした。77年のあまり評判のよくない「ア・ピリオド・オヴ・トランジション」(過渡期)という作品の中で光り輝く曲で、黄金時代のジャズの町を夢見るような内容ですが、この曲の相手に誘われたグレゴリー・ポーターは見事な人選で、後にこの二人による共演のコンサートも開催されるほど相性が良かったようです。

ボビー・ウォマックやメイヴィス・ステイプルズなどの大御所の他に、ヴァンがデビューした60年代半ばのイギリスで彼と同じようにアメリカのブラック・ミュージックを鋭い感性で消化していたジョージィ・フェイム、スティーヴ・ウィンウッド、クリス・ファーローといった人たちの参加はやはり嬉しいです。またその次世代に当たるマーク・ノプフラーが一緒に歌う「アイリッシュ・ハートビート」(83年のオリジナルと88年のチーフタンズとの共演に続く3つ目のヴァージョン)の抑制した感情がしっくり来ます。

制作の動機はどうであれ、非常に満足感の高いアルバムで、ヴァン・モリスンを知らない人のための入り口としてもお薦めです。

 

Van Morrison “Duets: Re-Working The Catalogue” (RCA – 2015)

  1. Some Peace Of Mind (w. Bobby Womack)
  2. If I Ever Needed Someone (w. Mavis Staples)
  3. Higher Than The World (w. George Benson)
  4. Wild Honey (w. Joss Stone)
  5. Whatever Happened to P.J. Proby (w. P.J. Proby)
  6. Carrying A Torch (w. Clare Teal)
  7. The Eternal Kansas City (w. Gregory Porter)
  8. Streets of Arklow (w. Mick Hucknall)
  9. 9.These Are The Days (w. Natalie Cole)
  10. Get On With The Show (w. Georgie Fame)
  11. Rough God Goes Riding (w. Shana Morrison)
  12. Fire In The Belly (w. Steve Winwood)
  13. Born To Sing (w. Chris Farlowe)
  14. Irish Heartbeat (w. Mark Knopfler)
  15. Real Real Gone (w. Michael Bublé)
  16. How Can A Poor Boy? (w. Taj Mahal)

 

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

 

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