【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤/第8回 マイケル・フランティ『Everyone Deserves Music』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

2018.05.28

マイケル・フランティは80年代終盤にデビューしたミュージシャン、というと若干語弊があるユニークな人物です。ロックもファンクも含むスタイルにはスライ・ストーン辺りの影響も感じられますが、フォークもレゲェもヒップホップも登場し、独自の世界を持っています。ラップというより、とてもリズミックな詩の朗読といったヴォーカルを得意とします。その詩の内容はかなり社会的な主張が多く、リベラルな姿勢ですが、イデオロギーではなく、正義の味方という印象が強い人です。

このアルバムが発表された2003年は全く正義のないアメリカによるイラク戦争が始まった年で、ぼくは絶望的な気持ちになっている時にこれを聞いて救われた思いがしました。当時ラジオで何回もかけた曲は「ボム・ザ・ワールド」です。〈You can bomb the world into pieces, but you can’t bomb it into peace〉、つまり爆弾で世界を粉々にすることができても、暴力で世界に平和をもたらすことはできない。極めて真っ当な主張ですが、歌の一行で韻を踏みながら見事に表現したものです。

曲調は柔らかめのロックで、リリカルなギターのフレーズとチェロを強調したストリングズ、ゴスペル風なバック・ヴォーカルが一度でも聞けばすぐに脳裏に焼き付くはずです。後半で繰り返されるPower to the peaceful(ジョン・レノンの言葉をもじって「平和な人々に力を!」)を合唱すればじつに気持ちがよくなるものです。

しかし、残念なことに2003年のアメリカではメディアは全部戦争モードに切り替わっていたので、この曲がラジオで紹介されたとは思えません。マイケル・フランティはその後アクースティック・ギターとヴィデオ・カメラを持ってイラクに旅をし、路上で子供たちに自分の歌を聞かせたり、人々の日常を収めた映像をDVDとして発表しました。

このアルバムでもう一つ特に目立つ曲はタイトル曲の「Everyone Deserves Music(音楽はみんなに等しく値するものだ)」です。社会の底辺で生きる人たちの生活のちょっと気の毒な描写を並べつつ、それでも音楽は宿敵も含めてみんなの心を癒すものだというニュアンスのことをうたいます。白人の母とアフリカン・アメリカンの父の間に1966年に生まれた長身の彼は、迫力あるルックス(長いドレッド・へアとか)にもかかわらず歌声そのものにとてもやさしい雰囲気があり、聞いているとほっとする気持ちになります。

Michael Franti & Spearhead “Everyone Deserves Music” (Boo Boo Wax – 2003)

  1. What I Be
  2. We Don’t Stop
  3. Everyone Deserves Music
  4. Never Too Late
  5. Bomb The World
  6. Pray For Grace
  7. Love, Why Did You Go Away?
  8. Yes I Will
  9. Feelin’ Free (Alternative)
  10. Love Invincible (Alternative)
  11. Bomb The World (Armageddon Version)
  12. Crazy, Crazy, Crazy

 

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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