【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤/第9回  エイミー・ワインハウス『Back To Black』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

2018.06.11

ドキュメンタリー映画『Amy』(2016年)を見てから、このアルバムの曲は以前とは響き方が決定的に変わりました。今は「お願いだからリハブに行って!!!」と言いたくなりますが、初めて耳にした時の衝撃は忘れられません。「皆がリハブに行けというけど、私は断固お断り、そんな暇があるならレイと過ごした方がよっぽどためになる」。レイとはレイ・チャールズのことで、黄金時代のソウル・ミュージックをヒップホップの時代に甦らせた曲調のカッコよさは格別でした。

Amy Winehouse “Back To Black” (Island – 2006)

この2作目のアルバムの「リハブ」でエイミー・ワインハウスという歌手をぼくは初めて知りました。後から遡ってデビュー作『Frank』(2003年)を聞くと、彼女がジャズを目指していたことが分かります。高く評価されたにしてもまだこれからという印象のそのアルバムより、そのジャズの感性をソウルや60年代のガール・グループを意識したサウンドで生かしたこちらのインパクトが断然強いです。また、ソングライターとしてのエイミーが光ります。「ユー・ノウ・アイム・ノー・グッド」、「涙は勝手に乾く」などは古典的な失恋ソングで、発売当時に23歳だった彼女の成熟振りに驚くものがあります。

残念ながらこのアルバムを作っている時がエイミーのピークでした。彼女の心の中がずたずたになっていたからこそ、こんな名盤が生まれたわけで、一度フラれた男とよりを戻した後は彼の影響でどんどんアルコールとドラッグに溺れて行きました。また「バック・トゥ・ブラック」が大ヒットしたことが災いして、パパラッチが彼女の行動をこれでもかというしつこさで追っかけ回すようになった様は「Amy」を見るとショッキングなほどリアルに伝わります。2011年に彼女が27歳で亡くなったという訃報に触れた時、悲しい気持と同時「ついにこういうことになったか」と感じた人が少なくなかったはずです。

ぼくが「Amy」の字幕監修をした際、それまで日本ではぼくが想像するほどエイミーが聞かれていないと言われ、とても意外でした。それがジャケットによるイメージの影響らしく、そう言われてみると分からなくもないけれど、それではもったいなさすぎます。このアルバムと映画「Amy」をセットにして、ものすごい才能に恵まれ、またその才能に呪われた普通の女の子の悲劇を多くの方に知って欲しいです。これは間違いなく何十年も通用し続ける作品だと思います。

 

Amy Winehouse “Back To Black” (Island – 2006)

  1. Rehab
  2. You Know I’m No Good
  3. Me & Mr Jones
  4. Just Friends
  5. Back To Black
  6. Love Is A Losing Game
  7. Tears Dry On Their Own
  8. Wake Up Alone
  9. Some Unholy War
  10. He Can Only Hold Her

 

 


ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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