【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤/第10回 マデリン・ペルー『Careless Love』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

2018.06.25

女性歌手でビリー・ホリデイに比較される人が無数にいるのでアルバム評などでそういった文章を見るといつもマユツバですが、マデリン・ペルーの場合は本当に誰でも言いたくなるほど似たところがあります。本人も当然無意識ではないはずです。しかし物真似の類いには聞こえません。気だるさと切ない感じが共通していますが、ビリーのようにメロディを極端に崩すことを、マデリンはしません。

Madeleine Peyroux『Careless Love』(Rounder – 2004)

1996年に出したデビュー・アルバムが話題になりましたが、その後何の説明もなく8年も活動を休止した彼女は、忘れた頃にこの2作目を発表したとき、レーベルもプロデューサーも変わっていました。こちらを手がけたラリー・クラインはベース奏者でもあり、またジョーニ・ミチェルの元夫でもある人で、女性ヴォーカリストのプロデューサーとして定評があります。

彼が集めた一流のミュージシャンは奇抜な演奏をしなくても、聞き手の印象に深く残る素晴らしいサウンドを作っています。特にキーボードを担当するラリー・ゴールディングズのオルガンとエレクトリック・ピアノ、ギターのディーン・パークス、そしてドラムズのジェイ・ベルローズの貢献度が高いです。

マデリンはあまり作曲をしない歌手で、持っている雰囲気はジャズ寄りですが、いろいろなジャンルの曲を巧くこなします。ここではレナード・コエンやボブ・ディランの曲の他にハンク・ウィリアムズも取り上げており、ビリー・ホリデイが歌ってもおかしくないスタンダードもいくつかやっています。

タイトル曲「Careless Love」は100年ほど前に遡る一種のフォーク・ソングといっていいもので、ビリー・ホリデイのインスピレイションともなったベシー・スミスのヴァージョンが有名です。そして1曲だけこのアルバムのために書き下ろされた「Don’t Wait Too Long」は、ノーラ・ジョーンズの大ヒット曲「ドント・ノウ・ワイ」を作ったジェシー・ハリスがラリー・クラインと共作した曲です。マデリンにぴったりのこの曲をいまだにどこかで耳にするたびに惚れ惚れしてしまう。

ある意味で今の時代にずれた感性の持ち主なので、優れたアルバムを作ってもそれほど騒がれないけれど、マデリンは今も地道に活動を続けています。ライヴでは驚くほどシャイな彼女はリズム・ギターを自分で弾きながら歌いますが、リズム感もよく、洒落た感じです。

Madeleine Peyroux『Careless Love』(Rounder – 2004)

  1. Dance Me To The End Of Love(Leonard Cohen)
  2. Don’t Wait Too Long(Jesse Harris/Larry Klein)
  3. Don’t Cry Baby(Saul Bernie/James P. Johnson/Stella Unger)
  4. You’re Gonna Make Me Lonesome When You Go(Bob Dylan)
  5. Between The Bars(Elliott Smith)
  6. No More(Bob Russell)
  7. Lonesome Road(Gene Austin/Nat Shilkret)
  8. J’Ai Deux Amours(Vincent Scotto/Henri Varna)
  9. Weary Blues(Hank Williams)
  10. I’ll Look Around(George Cory/Douglas Cross)
  11. Careless Love(W.C. Handy/Martha E. Koenig/Spencer Williams)
  12. This Is Heaven To Me(Frank Reardon/Ernest Schweikert)

 

ピーター・バラカン/Peter Barakan1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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