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アナログとデジタルを融合するハイレゾ対応レコードプレーヤー【ARBAN的オーディオ案内 vol.4】

アナログレコード再評価の波に乗って、昨年の発売以来コンスタントに売れ続けているレコードプレーヤーがソニーのPS-HX500である。本機最大の特徴は、高品位なアナログレコード再生と、その音をDSD 5.6MHzなどのハイレゾ(注1)フォーマットでPCに録音・保存ができること。近年、DSD音源の配信も活発化するなか、所有のアナログ盤をハイレゾ化できるのは大きな魅力だ。

注1:ハイレゾリューションオーディオの略。CDのサンプリング周波数または、量子化ビット数を超えて、音の解像度や情報量を高めたデジタルオーディオのこと。

今回、話を伺うのは、件のPS-HX500の設計をはじめ数々のソニーのコンポーネントオーディオの開発に携わってきた灘和夫氏。そして、アナログレコードプレーヤーをはじめとするコンポーネントオーディオの商品企画を手がける本橋典之氏。東京・ソニーシティ大崎の試聴室にて、まずは、このプレーヤーの“音”を聞くことから始まった。試聴用として編集部が持参したのは、マイルス・デイビス『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』。

リマスターCDよりも当時のアナログ!

——モノラル作品であることを忘れてしまうほど、定位感もあって、音像もしっかり聴き取ることができました。昔の技術であっても、ちゃんと録音されていたんだなぁと再認識させられました。

 そう言っていただけたので、まず安心しました(笑)。わずかな音質の差も分かるようにケアされた設計者用の試聴室なので、デジタル音源には無いパチパチ音や、盤面をこするノイズも聞こえてきます。でも、そうしたものも個性として捉え、アナログレコードの良さを再認識していただくことが最大の目的でした。

——やっぱり音にもトレンドがあって、その時代の洗礼を受けてしまうのですね。

 自分も100年近く前のレコードを聴かせていただく機会があったのですが、意外なほどしっかり録音されていることが分かりました。再生しなくても磁気的に劣化してしまう録音テープと違って、音の波形を溝の形にして残せるアナログレコードは、何十年経っても劣化しないのです。

説明書に沿って調整を行えば、そのままの状態でベストな再生を可能にする、シェル一体型ストレートトーンアーム。シンプルな黒い直方体の中に、ヘッドシェルを含めたいくつかの円形パーツがアクセントになったデザインも近未来的で洗練された印象を与える。

——50年代当時のアナログ盤と80年代にリマスタリングしたCDでは、同じマイルスでも微妙に違う。特に80年代のCDはリバーブがこってりかかっていますが、あれは当時のトレンドなのですね。

 いくらリマスタリングによって音を持ち上げたり加工したりしても、マスターテープそのものが劣化していたら本来の音とは違うものになってしまいます。特にARBAN読者がお好きなジャズが顕著だと思いますが、リマスターされたCDの音よりも、当時の技術でレコード化された音の方に魅力を感じるということが多々ありますから。

——全くおっしゃる通りです。やっぱり、若いマスターから起こした方がいいですね。多くのレコードコレクターが、高価であってもオリジナルプレスを探し求めるのは、ある意味で正しいことなのかもしれませんね。

今回の試聴用に選んだレコードは、前述のマイルスのほか、先日にアナログ盤でも再発された笠井紀美子『バタフライ』(1979年)。ほか、ジャミーラ・ウッズ『ヘヴン』(2016年)。ダイアナ・クラール『ウォールフラワー』(2015年)などを試聴。

——打ち込みの音楽を経過した世代の耳でアナログレコードを作ると、必然的に音のバランス感が違ってくるのですね。だから、アナログ盤をリリースしている最近のミュージシャンの作品は面白いものが多いですし、いい音だなぁと感心させられます。

 先ほどの(試聴用にかけた)ダイアナ・クラールもそうですが、現在活躍しているミュージシャンが、積極的にアナログレコードで新作を発表しています。現代の技術で録音したアナログレコードが、若いリスナーにも受け入れられている現象は、オーディオメーカーの我々としても新鮮です。

本橋 ご存知の通り、CDの普及に伴って80年代以降アナログレコードの売り上げがどんどん下がっていきました。ところが世界市場を見ると、2008年からジワジワと伸び始め、年を追うごとに伸びています。これまでは年配層が中心でしたが、若い人にもレコードが受け入れられていることが大きな原因となっています。

なぜDSDフォーマットなのか?

——ここまで、単純に試聴だけしてきましたが、このプレーヤーの最大の特徴は「レコードから直接、DSDで録音できる」という点です。しかも、本体にはUSB端子を装備している。ちなみに、アナログレコードの音をDSDフォーマットの音声ファイルに生成することは、技術的に難しいことだったのでしょうか?

本橋 ソニーはDSDのフォーマット提唱者でもあるので、ウチだからできた技術とも言えます。アナログレコードの音に限りなく忠実なDSDフォーマットなら、数十年前のレコードであっても、時を超えて音楽を保存することができ、気軽に外へ持ち出せることができるようになったのです。

 十数年ほど前からアメリカとヨーロッパで盛り上がってきた“USBターンテーブル”というジャンルがありますが、我々もこのジャンルを立ち上げたメーカーだと自負しています。アナログ音声をハイレゾで記録したいというお客様の要望の高まりを受けて、最新のDSDフォーマットで録音できるという付加価値を持たせました。

無料でダウンロードできる専用ソフトウェアでPC上に録音する。取り込みは収録時間と等倍で行う。前後の余計な無音部分をカットしたり、曲ごとに分割したり、簡単に編集することが可能。

——レコードプレーヤーとして求められる高品位な再生ができ、なおかつDSDフォーマットで録音できる。しかもこの価格帯というのは驚きです。

 あれこれ機能を持たせて難しい製品になることを避け、どんなリスナーにも納得してもらえる音質とシンプルな操作性を、お求めやすい価格に落とし込みました。DJ的な使い方はできませんし、カートリッジ交換もできないのですが、マニュアルに沿って設置していただいた状態で高品位な再生ができるように手堅くまとめています。

——あれこれとオプションを用意せず、まずは再生機としての性能を最優先したと。

 初めてレコードに触れる人も、久しぶりにレコードを聴いてみようという人にも“やっぱりレコードっていいね!”と実感してもらいたかったからです。ちなみにフォノイコライザーアンプを内蔵しているので、赤白のケーブルをアンプに繋げるだけで大丈夫です。もちろん、磨耗した針は交換可能です。

CDはもはや過去の遺物になる?!

——カセットテープ、CD、MD、DAT…と、録音メディアは時代とともに変わってきましたが、レコードだけは100年以上も変わっていない特殊な存在ですね。改めて考えると、今後CDはなくなってしまう可能性があるのでしょうか?

 個人的にもなくなって欲しくないですね。やっぱり音源の種類はたくさんあった方が、その分楽しみ方も増えますから。今後も音質の良さを実感できる一定のクオリティを保った音源としてCDは残って行くでしょうね。

本橋 シャキッとした音像やトルクのある感じなど、CDにはCDの良さがあります。むしろ重要なことは、音楽の作り手が録音フォーマットをどのように考え、売っていくのかでしょう。新しい世代のミュージシャンとリスナーが、改めてアナログレコードを評価し、それまでのアナログファンからも、本機が評価されているのは非常にありがたいことです。

アナログレコードの持つポテンシャルを最大限に引き出し、ハイレゾ音源として録音することができるPS-HX500は、まさにアナログとデジタルが融合していく現在を象徴している一台と言えるだろう。単純にアナログとデジタルの優位性を競うのではなく、それぞれの録音フォーマットにおける長所を個性として捉えて楽しむ。こうしたオーディオの付き合い方こそが、本当の豊かさなのではないだろうか。

 

安定したトレースを実現する新設計のストレートトーンアーム、強度と重量のバランスに優れたアルミダイキャスト製プラッター(回転盤)、独自開発による厚さ約5mmのラバーマット、音響機器に最適な高密度MDFキャビネットを採用。ステレオレコードプレーヤーPS-HX500。実勢価格5万4880円

https://www.sony.jp/audio/products/PS-HX500/

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