【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤/第12回 ニック・ロウ『At My Age』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

2018.07.23

パンク・ロック以後のイギリスでエルヴィス・コステロのプロデューサーとして、また自作やロックパイルで「パワー・ポップ」というイメージで語られていたニック・ロウは、次第に深味のあるソングライターとしての顔を見せるようになりました。

1949年生まれの彼はカントリーやロカビリーにも精通していますが、それはおそらくリアル・タイムで体験したものではなく、後からレコードを通じて研究したはずです。しかし、最近は不思議なほどアメリカ南部でかつて作られていた音楽を継承している印象が強く、全く違和感なくその世界を感じさせます。

Nick Lowe『At My Age』(Proper–2017)

この辺の音楽では白人が歌えばカントリーになり、黒人が歌うとソウルになる曲が沢山ありますが、ここで聞くニック・ロウはまさにその雰囲気を醸し出します。伝説のソウル歌手ソロモン・バークに書き下ろした”The Other Side Of The Coin”を聞けばそれがよく分かります。

でも、彼は間違いなくイギリス人です。作詞家としての感覚にはイギリス人が得意とする、というか、国民性といった方がいいかも知れない自嘲的な面があり、かなりシリアスな内容の曲でもユーモアが感じられます。アルバム・タイトルの“At My Age”はまさにそういうもので、“もうオッサンなんだから”というニュアンスですが、逆に年相応の奥深さが出ています。曲のタイトル”Love’s Got A Lot To Answer For”(愛は説明責任が重大だ)はTシャツを飾ったほどです。

どんな曲もさらりと自然体で、全く力まずに歌いこなすので、聞いた印象は軽いです。編曲は若干古めですし、曲によって柔らかな感じのホーン・セクションがついても全体的に落ち着いた作りです。このアルバムで個人的にいちばん好きな曲は”Hope For Us All”です。ゆったりとしたカントリー・ソウル風のノリで、恋をしたことで周りから変わったと言われる男は「こんなぼくにも好きな人が現れるんだから、皆に希望があるよ」と歌うわけですが、淡々としたこの歌が実にぐっと来ます。

また自分のことをfeckless(主体性のない、無責任)な男だというのですが、こんな形容詞を歌詞で使うのは他に例を知りません。(因みに最近このfecklessという単語は全く関係ないところで物議を醸していました。興味のある方は検索してみてください)。

このところ来日は一人でのギターの弾き語りが多くなったニック・ロウですが、このアルバムの編成で聞きたい!

Nick Lowe『At My Age』(Proper–2017)
1. A Better Man(Nick Lowe)
2. Long Limbed Girl(Nick Lowe)
3. I Trained Her To Love Me(Nick Lowe, Robert Trehern)
4. The Club(Nick Lowe)
5. Hope For Us All(Nick Lowe)
6. People Change(Nick Lowe)
7. The Man In Love(Nick Lowe)
8. Love’s Got A Lot To Answer For(Nick Lowe)
9. Rome Wasn’t Built In A Day(Nick Lowe)
10. Not Too Long Ago(Joe Stampley, Merle Kilgore)
11. The Other Side Of The Coin(Nick Lowe)
12. Feel Again(John M Virgin)

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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