【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤/第14回 Joni Mitchell『Shine』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

2018.08.28

2000年前後にかつてのヒット曲などをオーケストラ風に再現したアルバムなどがあったものの、もうジョーニ・ミチェルの新作が聞けるとは、正直思っていませんでした。とっくに音楽業界に嫌気が差していた彼女はもうレコードを作るのをやめて、絵描きとして活動すると宣言したほどでした。

2007年に64歳となった彼女の声は若い頃と比べたらかなり低くなっていますが、それが逆に年相応の落ち着きがあって、またこのアルバムに収録されているそうとうきついメッセージ(拝金主義や環境破壊など)の曲によく合うドスの利いたエッジを与えています。

Joni Mitchell “Shine”(Hear Music, 2007)

70年代半ばにヒット曲を作るのを辞めたジョーニの最も有名な曲のひとつは「ビッグ・イェロー・タクシー」です。ゴキゲンな雰囲気ときれいなメロディに騙された多くのリスナーはおそらくこれが環境破壊を痛烈な皮肉で斬った唄だと気づかずにいたでしょう。この曲をここでもっとミニマルな感じで再演していますが、本人のリズミカルなギターと気持ちよく跳ねるアコーディオンにもかかわらず、印象は地味です。また最近のボブ・ディランのように皆がよく知っているあのメロディを大きく崩しながら歌っているので、逆に頭の中で昔のヒット・ヴァージョンを想像しながら聴くものです。

個人的にいちばん気に入っているのはアルバムのタイトル曲「シャイン」です。Let your little light shineという繰り返しのフレーズでいうyouはたぶん神だと思います。そんな神の光に照らされてほしいとジョーニが願っているのは、まるで賭博のようなことを平気でやるウォール街だったり、引き上げた網に何も入っていない漁師たち(魚の乱獲は彼らの責任でもあるでしょう)、フランケンスタインのモンスターのように恐ろしい方向に化けてしまった科学技術、携帯電話で話しながら赤信号をつい無視してしまうドライヴァーたち、神の名の下で行われる大量破壊…などなどです。

淡々と並べたこれらのイメ−ジを、シンプルなエレクトリック・ピアノを弾きながら歌う彼女は絶望的な世の中に警鐘を鳴らしつつも、不思議と一筋の希望も感じさせます。一種の祈りのように聞こえる曲です。

残念ながらこの作品に続くものはなく、2015年の脳動脈瘤のため先が危ぶまれたジョーニはとりあえず回復はしているようですが、この「シャイン」が最後のアルバムとなっても十分な内容です。

Joni Mitchell『Shine』

  1. One Week Last Summer
  2. This Place
  3. If I Had A Heart
  4. Hana
  5. Bad Dreams
  6. Big Yellow Taxi(2007)
  7. Night Of The Iguana
  8. Strong And Wrong
  9. Shine
  10. If(Rudyard Kipling/Joni Mitchell)

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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