【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤/第15回 シェルビー・リン『Just A Little Lovin’』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

2018.09.10

いかにも1960年代のポップ・ディーヴァという印象のダスティ・スプリングフィールドに対するこの一種のトリビュート・アルバムは、1968年生まれのシェルビー・リンが40歳の時に作ったものです。オリジナルではエモーショナルなバラードになっていた「この胸のときめきを」や、70年代にベイ・シティ・ローラーズのカヴァーでもヒットした明るいポップ・ソングの「二人だけのデート」も、テンポを遅めにして、余分な飾りのないミニマルな音作りで、徹底的に切なくまとめた作品です。

Shelby Lynne 『Just A Little Lovin’』(Lost Highway, 2008)

シェルビー・リンは17歳の時にアルコール依存症の父親が目の前で母を撃ち殺し、自殺するというトラウマをずっと抱えている人です。彼女の歌にある影の部分はそれと関係しているかも知れません。アラバマ州で育ち、一時期カントリーの世界で活動していたのですが、2000年に発表された彼女の6作目のアルバム『I Am Shelby Lynne』はロックやソウルの要素もあり、すでにデビューから13年が経過していた2001年のグラミー賞で意外にも新人賞を受賞しました。その後コンスタントにアルバムを出していますが、ダントツこのアルバムが目立つのは曲のよさ、そして解釈の大胆さによるものだと思います。

もう一つ意外なのは、本人によるとこの企画を提案したのがバリー・マニロウだそうです。音数は少ないですが、録音も素晴らしく、かつてはフランク・シナトラをはじめヴォーカルのレコーディングでは伝説の場所となっているLAのキャピトル・スタジオで、名人級のエンジニアのアル・シュミットとプロデューサーのフィル・ラモーンがシンプルで品のいい音を丁寧に録っています。

歌にまとわりつくディーン・パークスのギターのバックも、じつに心がこもっています。 収録曲10曲のうち、タイトル曲を含む4曲はダスティが1969年に出した『Dusty In Memphis』からの選曲です。なかなか難産だったそのアルバムは当時さほどヒットしなかったものの、今は名盤として語られます。シェルビーのヴァージョンをダスティのと聞き比べると、憧れる歌手からインスピレイションを受けながらもすっかり自分の歌に仕上げている彼女に拍手を送りたくなります。「ザ・ルック・オヴ・ラヴ」とか、「ブレックファスト・イン・ベッド」なども、他にも取り上げた人が色々いますが、どの曲もシェルビーの解釈が光ります。

Shelby Lynne 『Just A Little Lovin’』

  1. Just A Little Lovin’(Barry Mann/Cynthia Weil)
  2. Anyone Who Had A Heart(Burt Bacharach/Hal David)
  3. You Don’t Have To Say You Love Me (Guiseppe Donaggio/Simon Napier-Bell/Vicky Wickham/Vito Pallovinci)
  4. I Only Want To Be With You (Ivor Raymonde/Michael Edwin Hawker)
  5. The Look Of Love (Burt Bacharach/Hal David)
  6. Breakfast In Bed (Donnie Fritts/Eddie Hinton Willie And Laura Mae Jones(Tony Joe White)
  7. I Don’t Want To Hear It Anymore (Randy Newman)
  8. Pretend(Shelby Lynne)
  9. How Can I Be Sure (Eddie Brigati/Felix Cavaliere)

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

ピーター・バラカンが監修する
音楽フェスティヴァル
LIVE MAGIC!
10月20日(土)〜21日(日)
恵比寿ガーデンプレイスにて開催
https://www.livemagic.jp/

※記事内のカタカナ表記について。仮名づかいは著者の解釈を尊重して掲載しているため、一般的な表記および、他ページ(同サイト内)の表記と異なる場合があります。

関連記事


PICKUP EVENTオススメのイベント