【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤/第16回 ベティ・ラヴェット『Interpretations: The British Rock Songbook』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

2018.09.24

「英国ロックのソングブックを解釈」というタイトルは確かにその通りです。イギリスのロックの黄金時代から有名なミュージシャンによる主によく知られた曲を選んで、ベティ・ラヴェットがそれを解釈するという趣旨の作品です。しかし、ベティ・ラヴェットという歌手を知らなければこのアルバムの衝撃度は想像できないでしょう。

Bettye LaVette『Interpretations: The British Rock Songbook』 (Anti-/Sony, 2010)

アルバムのきっかけは2008年に遡ります。ザ・フーを讃える特別なトリビュート・コンサートがワシントンDCのケネディ・センターで行われ、その中で「ラヴ・レイン・オーヴァー・ミー」を歌うのにベティが抜擢されましたが、2階席で見ていたピート・タウンゼンドとロジャー・ドールトリーが明らかに度肝を抜かれてしまっている映像を見ると感動せずにはいられません。

ベティ・ラヴェットはそういう歌手です。そのコンサートの音楽監督だったロブ・マシスがそれからこのアルバムを企画したわけですが、どんな企画でもどんなプロデューサーでも、ベティは提案された楽曲の中から自分が歌詞に感情移入できるものだけをジャンルとは全く関係なく選曲するのです。それで歌の順番を変えたり、歌詞の一部を入れ替えたりしますし、ソウル・シンガーの中でも強烈なパワーを秘めたハスキーな声で歌うとどんな有名な曲でも生まれ変わります。

このアルバムを作った時点でベティは64歳でした。16歳でデビューしたのに様々な不運に見舞われた彼女は2005年にジョー・ヘンリーが手がけたI’ve Got My Own Hell To Raiseという作品で注目され、それから定期的にアルバムを発表するようになったのです。誰でも知っている存在とはいえませんが、特にミュージシャンの間では極めて評価が高く、2018年に出たThings Have Changedではボブ・ディランの楽曲を完全に自分のものにしています(本人は「カヴァー」とは言わせません)。

この「インタープレテイションズ」ではビートルズ関係の曲を色々取り上げていますが、個人的にいちばんぐっと来るのはリンゴの「イット・ドーント・カム・イージー」です。本人が軽く流すこの自作曲を聞くと「苦労しないとブルーズは歌えない」という歌詞から何の説得力も感じませんでしたが、テンポを落としてソウル・ブルーズ風に料理したベティの解釈では丸っきり違う曲になります。

アルバムの最後に例の「ラヴ・レイン・オーヴァー・ミー」のライヴ・ヴァージョンも収録されています。映像は、こちらでどうぞ。バックでギターを弾いているのは実はぼくの弟です…。

Bettye LaVette 『Interpretations: The British Rock Songbook』(Anti-/Sony, 2010)

  1. The Word(John Lennon/Paul McCartney)
  2. No Time To Live (Jim Capaldi/Steve Winwood)
  3. Don’t Let Me Be Misunderstood(Bennie Benjamin/Gloria Caldwell/Sol Marcus)
  4. All My Love (John Paul Jones, Robert Plant)
  5. Isn’t It A Pity(George Harrison)
  6. Wish You Were Here(David Gilmour/Roger Waters)
  7. It Don’t Come Easy(Richard Starkey)
  8. Maybe I’m Amazed(Paul McCartney)
  9. Salt Of The Earth(Mick Jagger/Keith Richards)
  10. Nights In White Satin(Justin Hayward)
  11. Why Does Love Got To Be So Sad(Bobby Whitlock/Eric Clapton)
  12. Don’t Let The Sun Go Down On Me(Elton John/Bernie Taupin)
  13. Love Reign O’er Me(Pete Townshend)

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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