【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤/第19回 ジェリー・ゴンサレス『Jerry Gonzalez y Los Piratas del Flamenco』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

2018.11.12

インターFMが開局した1996年から10年間、ぼくが担当していた日曜日放送の番組「バラカン・ビート」を100%英語でやっていました。当然英語圏のリスナーが多く、2002年のある日、イギリス人の方からこのアルバムに関する雑誌の紹介記事をメイルでいただきました。

ラテン・ジャズの世界で知られるトランペット奏者ジェリー・ゴンサレスがスペインのツアー先で出会ったスペインのジプシーたちと意気投合して、ジャズとフラメンコの混ざった作品を作ったとのことで、どうしても聞きたくなったのでインタネットで検索したものの、スペイン盤のCDしかなく、買えるのはスペインの通販サイトのみでした。予想に反してスムーズに届いたそのアルバムは十分期待に応えるもので、番組で何度かかけたし、今も愛聴盤です。

Jerry Gonzalez “Jerry Gonzalez y Los Piratas del Flamenco”(Lola, 2002)

かなりミニマルな音楽で、ジェリー・ゴンサレスのミュートしたトランペットとコンガ(珍しく両方でプロ級の才能の持ち主です)の他、ニーニョ・ホセレのフラメンコ・ギター、それに少しのパーカションとフラメンコに付き物の手拍子、そして2曲でエル・シガーラの歌が入るほどです。その歌に絡むジェリーの切ないトランペットは若いころのマイルズ・デイヴィスを思わせるところがありますが、オーケストラルな規模の「スケッチズ・オヴ・スペイン」と違ってこちらはあくまで淡々としています。

1949年生まれのジェリーは幼少期を過ごしたニューヨークのブロンクスでずっとラテン・ジャズに触れていたのですが、モダン・ジャズもリアル・タイムで聞いていて、特にセロニアス・マンクの曲を頻繁に演奏します。このアルバムでも「マンクス・ムード」を「Monk’s Soniquete」とタイトルを改め、複雑な手拍子をバックに多重録音した複数のトランペットが会話するフラメンコ風に解釈。またチャーリー・パーカーの名曲「ドナ・リー」(ここでは「Donnali」)を、たぶんジャコ・パストリアスのヴァージョンにもちょっとヒントを得て、ゆったりとしたフラメンコ・ファンクといった印象を与える演奏で取り上げています。

ジェリーのコンガとイスラエル・スアレスのパーカションだけが対話する「Al Abordaje」を聞いていると皆の音楽のルーツがアフリカにあることを改めて意識させられます。 このアルバムを作った後、ジェリー・ゴンサレスはずっとマドリッドを拠点にしました。大変残念なことに2018年10月に家の火事で煙を吸い込んで窒息死しました。69歳でした。

 

Jerry Gonzalez “Jerry Gonzalez y Los Piratas del Flamenco”(Lola, 2002)

  1. Huba Un Lugar(traditional)
  2. Rosa Para Julia(J.González, Niño Josele, Javier Limon)
  3. En El Corazón De Pescaderias(J.González, Niño Josele)
  4. Gitanos De La Cava(Niño Josele, Javier Limon, Diego “El Cigala”)
  5. Pirata De Lucia(J.González, Niño Josele)
  6. Donnalli(Charlie Parker)
  7. Monk’s Soniquete(Thelonious Monk)
  8. Al Abordaje(J.González, Israel Suárez “Piraña”)
  9. Obsesión(Pedro Flores)

 

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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