【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤/第20回 エアロン・ネヴィル『I Know I’ve Been Changed』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

2018.11.27

ソウル・ミュージックのコブシのことを英語でmelismaと言います。Meliというのはギリシャ語でいう“はちみつ”のことですが、ヴィブラートが繊細に揺れるエアロン・ネヴィルの歌を聞くとまさにはちみつがとろりと咽に流れる心地よさがあります。

1941年にニュー・オーリンズで生まれた彼は60年にデビューし、このアルバムを出した時点ではすでに50年のキャリアになっていました。彼の幼少期はゴスペル・ミュージックの黄金時代に重なる時期ですが、ここでは祖母の膝に乗っていた幼いエアロンの耳に何度も入って、彼の音楽を形成するのに大きな役割を果たした素朴なトラディショナル・ゴスペルの曲ばかりを特集しています。

Aaron Neville “I Know I’ve Been Changed”(EMI Gospel, 2010)

プロデューサーのジョー・ヘンリーは2000年代に入ってからソロモン・バークやベティ・ラヴェットなど、ヴェテランのソウル・シンガーの優れた新作を手がけるシンガー・ソングライターです。LAの外れにある家の地下をスタジオにし、そこに彼が集めるミュージシャンは次第に多くのセッションで活動するようになって行ったのです。

特にドラマーのジェイ・ベルローズはやさしく跳ねるビートの名人です。ここでは彼の他にエアロンのキャリアにプロデューサー、そしてソングライターとして深く関係してきたアラン・トゥーサントはゴスペルとR&Bの両方の要素を備えた、静かに力強いピアノを添えています。また素晴らしいギター職人グレッグ・リースのドブロなどのルーツ色の濃いギターはアルバムの隠し味になっています。

このアルバムから「I’m So Glad(Trouble Don’t Last)」をラジオで何度となくかけています。嫌なことばかり続くように感じる時があるこの時代に、多少無理にでもそういう嫌なことはいつか終わる、というメッセージを自分にも言い聞かせると少しは気分が晴れます。きっとこういうゴスペルの曲はそのために作られたものに違いないです。そしてエアロンのあまりにも見事なコブシで歌われるとその説得力と声そのものの美しさにうっとりします。

ゴスペルの美声といえば、彼が若い頃に影響を受けたサム・クックの名曲が日本国内盤のボーナス・トラックとして収録されているので、お薦めです。 それにしても、ジョー・ヘンリーにこのアルバムが大好きだと伝えたら彼は喜びながらも、アメリカでは誰も知らない作品だと嘆いていました。

 

Aaron Neville “I Know I’ve Been Changed”(EMI Gospel, 2010)

  1. Stand By Me
  2. I Know I’ve Been Changed
  3. I’ve Done Up My Mind
  4. I Am A Pilgrim
  5. Don’t Let Him Ride
  6. You’ve Got To Move
  7. Oh Freedom
  8. Tell Me What Kind Of Man Jesus Is
  9. I Want To Live So God Can Use Me
  10. Meetin’ At The Building
  11. I’m So Glad(Trouble Don’t Last)
  12. There’s A God Somewhere Touch The Hem Of His Garment*(Sam Cooke)

* 日本盤ボーナス・トラック

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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