【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤/第22回 サチャル・スタジオ・オーケストラ『Sachal Jazz』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

2018.12.25

まずこの映像を見てください。

ぼくはこれでこのバンドのことを知りました。最初は一瞬何かのパロディかと思って、メンバーのオッサンぶりにちょっと笑っちゃいましたが、演奏があまりにも見事なのでその笑いもすぐに感激に変わりました。

彼らはバンドというよりパキスタンの都会ラホールにあるサチャル・スタジオに所属するミュージシャンです。スタジオ・ミュージシャンというのはどこの国でもオッサンっぽい人が多く、ルックスがよければ舞台に出る仕事を選ぶと思います。 2017年に発表されたドキュメンタリーのDVD「ソング・オブ・ラホール」を見れば彼らのバックグラウンドが分かります。

パキスタンにはインドと同じように映画音楽の活発なシーンがあり、このスタジオもとても忙しい毎日を過ごしていたのですが、ポピュラー音楽を宗教上の理由で弾圧したタリバンが実権を握っていたしばらくの間、このシーンはいきなりなくなりました。その後禁止措置が再び解かれましたが、国内の音楽シーンに元気はあまり戻らず、仕事に困っていました。

そこでこのサチャル・スタジオのプロデューサーは実験的に西洋のジャズやボサ・ノヴァなどの有名な曲をインド風に料理してやってみることを提案したわけですが、それでできたのがこのアルバムです。 一歩でも間違えれば限りなくダサいものになりかねないこの実験は演奏力が素晴らしいので逆に大成功となりました。

Sachal Studios Orchestra “Sachal Jazz”(Sachal Music, 2011)

冒頭の「Take Five」はオリジナルを作ったデイヴ・ブルーベックも大絶賛したほどです。スローの「デサフィナード」は、ややムード・ミュージック然とした雰囲気もありますが、女性ヴォーカルやバンスリ(インドの笛)が実にソウルフルで美しいです。

続く「マウンテン・ダンス」のオリジナルはデイヴ・グルーシンの曲で、本人のヴァージョンはおそらくラジオなどで耳にしたことがあったはずですが、特に印象に残っていたわけではなく、このアルバムで知ったようなものです。シタールで演奏されるシンコペイトされたメロディとそれを支えるタブラのリズムがゴキゲンで、それにストリングズが絡むと、往年の西部劇の壮大な風景が頭に浮かんできますが、それでも違和感がないのがちょっと不思議なぐらいです。「イパネマの娘」などよりもう少し選曲の冒険があってもよかったかも知れませんが、このままでも大変楽しめる作品です。

Sachal Studios Orchestra “Sachal Jazz”(Sachal Music, 2011)

  1. Take Five(Dave Brubeck/Paul Desmond)
  2. Desafinado(Antônio Carlos Jobim/Newton Mendonça)
  3. Mountain Dance(Raga)(Dave Grusin)
  4. Garota De Ipanema(Antônio Carlos Jobim/Vinicius de Moraes)
  5. Misty(Erroll Garner)
  6. Samba De Verao(Norman Gimble/Marcos Valle Kostenbaden)
  7. This Guy’s In Love With You(Burt Bacharach/Hal David)
  8. Garota De Ipanema(Raga)(Antônio Carlos Jobim/Vinicius de Moraes)

 

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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