2019.01.14

【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤/第23回 モーズ・アリスン『The Way Of The World』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

1950年代後半に活動を開始し、60年代にはヴァン・モリスンやジョージィ・フェイムなど特にイギリスのブルーズ好きの若い歌手たちに計り知れない影響を与えたモーズ・アリスンは、ジャズとブルーズの間のところを独自の歌とピアノで開拓し、ランディ・ニューマンにも通じる皮肉で世の不条理を痛快に切って行きました。

しかし、一般大衆にはあまり聞かれることなく、時代と共にレコードの売り上げも落ちて行ったのです。ライヴ活動は続けながらも新作を10年以上発表していない時期にシンガー・ソングライターでプロデューサーのジョー・ヘンリーからのレコーディングのオファーを断り続けていました。また更に売れないアルバムを世に出すのは何のためか、と。

でも、まだモーズの中には人に聞かせるべき作品が潜んでいるに違いないとジョーが確信し、数年にわたってモーズの奥さんと連絡を取り合い、ついにモーズを説得しました。すでに82歳となっていたモーズはジョーの西海岸のスタジオに出向き、彼のために集まった一流のミュージシャンたちと共に5日間でこのアルバムを仕上げました。

Mose Allison『The Way Of The World』(Anti-  2010)

オープニングからクスッと笑わせます。リトル・ウォルターの往年のヒット曲「マイ・ベイブ」を「マイ・ブレイン」と替え歌にし、年をとった自分の脳の細胞が1時間に1200個も失われていると呟きながら、昔と変わらない理知的なピアノをリズミックに聞かせます。

個人的に最も好きな曲はModest Proposal(直訳すれば「ちょっとした提案」)です。その提案というのは、神に休暇を与えること。すべての仕掛け人で何でも責任を負い、四六時中、人類の呼びかけに応じなければならないのできっとクタクタに疲れているはずだ。我々に理性を与えてくれたのも神なので、その理性をちゃんと活用して、神を休ませてたまには自分たちで物事を考えればいいではないか。ゴッド、エホヴァ、アッラーと3つの一神教の神を等しく扱い、不公平さがないようにも気を配ったこの曲は実に痛快です。

このアルバムの発売から2年経った2012年にモーズは初来日を果たしましたが、残念ながらその頃には本当に脳の衰えが進んでいて、歌詞を忘れたり、ピアノがちょっとおぼつかなかったりしました。2016年に死去した彼はトランプ時代の到来を経験せずにこの世を去ったのですが、モーズの精神を引き継ぐ存在が今こそ必要です!

Mose Allison『The Way Of The World』

  1. My Brain(Mose Allison)
  2. I Know You Didn’t Mean It(Mose Allison)
  3. Everybody Thinks You’re An Angel(Amy Allison)
  4. Let It Come Down(Mose Allison)
  5. Modest Proposal(Mose Allison)
  6. Crush(Mose Allison)
  7. Some Right, Some Wrong(Roosevelt Sykes)
  8. The Way Of The World(Joe Henry, Mose Allison)
  9. Ask Me Nice(Mose Allison)
  10. Once In A While(Bud Green, Michael Edwards)
  11. I’m Alright(Loudon Wainwright III)
  12. This New Situation(Buddy Johnson)

 

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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