【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤/第24回 ベン・シドラン『Dylan Different』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

2019.01.28

ボブ・ディランほど多くのミュージシャンが楽曲を取り上げたソングライターはいないでしょう。ビートルズを除けば。しかも実に様々なジャンルの人が彼の曲を歌います。ポピュラー音楽のスタンダードと化しているディランの曲も多いですが、本人がコンサートで歌う時は編曲ががらりと変わるので、コード進行や歌詞をよほどよく知っている人以外はなかなかついて行けないものです。

ここでディランの曲を特集しているベン・シドランはディランより2歳年下の1943年生まれ。また、ベンが拠点とする中西部のウィスコンシン州マディソンはディランの故郷ミネソタ州にほど近いところです。二人ともビート世代の草分け的作家ジャック・ケルアックに憧れた同士(二人の面識はない)ですが、ディランはロックンロールやフォーク・ミュージックへ、ベンはジャズやリズム・アンド・ブルーズへと音楽の好みが若干枝分かれして行きます。

ベンは学者肌で、60年代にイギリスのサセックス大学で社会学の博士号を取得。その論文は「Black Music」というタイトルで本として出版されました。70年代からソロ・アーティストとして音楽活動を本格的に開始し、モーズ・アリスンに影響を受けた呟きスタイルのヴォーカルで、洗練された知的シンガー・ソングライターとして知られるようになりました。圧倒的に自作のレパートリーが多く、ジャズの曲を演奏することもありますが、ディランの曲ばかりのアルバムを発表するとはやや意外でした。

Ben Sidran『Dylan Different』(Nardis 2009)

しかし、これは快挙です。ボブ・ディランの歌詞は場合によって本人が歌うよりも他の人の歌で聞く方がその意味がすんなりと耳は入り込みます。ジェリー・ガルシアがそのいい例で、ディラン自身もジェリーの解釈を好むそうです。

ベン・シドランのこのアルバムも、ディランのよく知られた曲に新鮮な空気を吹き込んでいます。主にエレクトリック・ピアノを使うことで全体にクールな雰囲気を帯びさせ、それぞれの曲のテンポを変えて、メロディックなリフをつけることで聞き手の予想を次々と裏切って行きます。ゆったりしたジャズ・ファンクのラップに化ける「ハイウェイ61・リーヴィジテッド」とか、スロー・ブルーズのように生まれ変わる「オール・アイ・リアリー・ウォント・トゥ・ドゥー」など、繰り返し聞いても飽きない静かな力作です。

最後を飾る「ブローイン・イン・ザ・ウィンド」だけはさすがにほぼ原曲通りに演奏します。ベンもこれが原体験だったに違いないです。

Ben Sidran『Dylan Different』(Nardis 2009)

  1. Everything Is Broken
  2. Highway 61 Revisited
  3. Tangled Up In Blue
  4. Gotta Serve Somebody
  5. Rainy Day Woman # 12 & 35
  6. Ballad Of A Thin Man
  7. Maggie’s Farm
  8. Knockin’ On Heaven’s Door
  9. Subterranean Homesick Blues
  10. On The Road Again
  11. All I Really Want To Do
  12. Blowin’ In The Wind

 

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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