【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤/第28回 スタイナー・ラクネス『Stillhouse』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

2019.03.25

ウッド・ベース奏者スタイナー・ラクネスの存在を知ったのは、彼と同じノルウェイ出身のサーミ民族の女性ヴォーカリスト、インガ・ユーソとのデュオだったと思います。ネイティヴ・アメリカンやアイヌの歌とも共通点が感じられるサーミの「ヨイク」と、スタイナーのベースだけという超ミニマルな音楽は一度聞いたら二度と忘れない強烈な印象でした。

元々ジャズの世界で活動していた彼はあるフェスティヴァルで何でも自由にやっていいソロ公演を依頼されたことがきっかけで、このアルバムで聞くような音楽を考え出したのです。それは平たく言えばアメリカーナと呼ぶような曲を英語で歌いながら、基本的に自分のウッド・ベースだけで伴奏するというものですが、実際に聞かなければ想像しがたいほど魅力のある音楽です。

Steinar Raknes 『Stillhouse』(Reckless, 2012)

スタイナーの歌声は低くて若干かすれています。トム・ウェイツと比較するのはちょっと大げさですが、時々その雰囲気に近いです。取り上げている曲に幅があり、選曲はまたとても面白いです。

例えばプリンスの「キス」はオリジナルの弾むようなファンクとは全く違う、淡々と同じ音をずっと繰り返すベース・ラインに乗って、プリンスのファルセットと正反対の低いつぶやきで相手の女性を説得します。初めて聴いたとき思わず手を叩くような快挙で、当時やっていた「バラカン・モーニング」でソング・オヴ・ザ・ウィークにしたらリスナーからの反響もとてもよかったです。

アルバムのタイトル曲にもなっているギリアン・ウェルチの「テア・マイ・スティルハウス・ダウン」は、密造酒のために人生を棒に振った年寄りが、死んだあと俺の酒小屋を壊しちまえと歌うものですが、これを含む数曲で、ウィリー・ネルスンの長年の相棒として知られるハーモニカ奏者ミキー・ラファエルが登場し、絶妙の味を出しています。「世界で最大と最小の楽器のコラボレイション」をミキーがそうとう楽しんだようで、その後もスタイナーと共演し続けています。

ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーン、ザ・バンド、ジョン・プラインなど、どれをとっても充実した解釈をしていますが、ジョーニ・ミチェルの「ウッドストック」は、1969年当時まだ生まれていなかったスタイナーがこのヒッピー時代の賛歌を歌うと妙な孤独感が漂います。またそれがしっくり来るのも面白いところです。何回聞いても飽きないアルバムです。

Steinar Raknes 『Stillhouse』(Reckless, 2012)

  1. Killing The Blues (Rowland Salley)
  2. Corrina, Corrina (Bob Dylan)
  3. Tear My Stillhouse Down (Gillian Welch)
  4. Memories Of Her (Steinar Raknes)
  5. Twilight (J.R. Robertson)
  6. Kiss (Prince)
  7. I´m On Fire (Bruce Springsteen)
  8. Sitting On The Top Of The World (Walter Vinson/Lonnie Chatman)
  9. Time To Go (Steinar Raknes)
  10. Woodstock (Joni Mitchell)
  11. Speed Of The Sound Of Loneliness (John Prine)
  12. Morning Song For Sally (Jeff Walker)
  13. Down The Drain (Steinar Raknes)
  14. Walkin’ (Steinar Raknes)

 

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

※記事内のカタカナ表記について。仮名づかいは著者の解釈を尊重して掲載しているため、一般的な表記および、他ページ(同サイト内)の表記と異なる場合があります。

関連記事