【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤/第30回 トリオ・ダ・カリ&クロノス・クァルテット『Ladilikan』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

2019.04.22

西アフリカの伝統音楽と弦楽四重奏団の共演? おそらく誰でも「そんなバカな…」と反応するものだと思います。ぼくもこのCDを聞くまでは大した期待を持っていませんでした。ただ、レーベルはマリの音楽を長年にわたって真面目に紹介しているワールド・サーキットですし、弦楽四重奏団は結成された1973年からずっと型破りな活動を続けているクロノス・カルテットですから、やはり好奇心は湧くものです。

Trio Da Kali & Kronos Quartet『Ladilikan』(World Circuit, 2017)

クロノスと共演しているのはマリの3人のミュージシャンです。ヴォーカルのハワ・カセ・マディ・ジャバテはマリを代表する歌手、カセ・マディ・ジャバテの娘。バラフォン(元祖マリンバのような鍵盤打楽器)を演奏するフォデ・ラサナ・ジャバテは40代後半で、マリで最も評価の高いバラフォン奏者。そしてママドゥ・クヤテはベイス・ンゴーニを演奏します。マリの素朴な弦楽器であるンゴーニといえばママドゥの父親バセクー・クヤテはその第一人者ですが、彼のグループ、ンゴーニ・バのメンバーとしても活動しているママドゥはベイシストの役割を果たします。

これは本当の意味の共演になっていますが、大部分の曲はマリのレパートリです。トリオ・ダ・カリは激動の時代の中で伝統の音楽を守ることを使命にしている人たちです。バラフォンが流麗にリードするメロディをクロノスの4人がぴったりと重ねるラインはドキドキする美しさがあります。その上に乗るハワの太く力強い声にはソウルやブルーズの雰囲気もあり、オペラ歌手のパワーもあります。

クロノスのリーダーのデイヴィッド・ハリントンはこのアルバムの録音の5年前にハワに会っていました。初めて彼女の声を聞いた時、彼が大好きだった伝説のゴスペル・シンガー、マヘイリア・ジャクスンの若い頃(1930年代後半)の歌「God Shall Wipe All Tears Away」をぜひともその声で聞きたいと思って、マヘイリアのことを知らなかったハワのために英語の歌詞をマリのバンバラ語に訳しました。オリジナルでは伴奏を務める賛美歌のようなオルガンの音を、クロノスの4人が和音をアンサンブルで作ってその通りに見事に再現しています。

アルバム全体をワールド・サーキットのニック・ゴールド、ハリントン氏、そしてマリの音楽の多くの力作を生み出している著名な民族音楽学者ルーシー・デュランがプロデュースしています。これは歴史に残る名盤です。

Trio Da Kali & Kronos Quartet『Ladilikan』(World Circuit, 2017)

  1. Tita
  2. Kanimba
  3. Eh Ya Ye
  4. Garaba Mama
  5. God Shall Wipe All Tears Away
  6. Samuel
  7. Lila Bambo
  8. Kene Bo
  9. Ladilikan
  10. Sunjata

 

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

※記事内のカタカナ表記について。仮名づかいは著者の解釈を尊重して掲載しているため、一般的な表記および、他ページ(同サイト内)の表記と異なる場合があります。

関連記事