2019.06.10

【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤/第33回 ルーシー・フォスター『Let It Burn』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

ぼくがキュレイターを務めるフェスティヴァル、Live Magicを開催するにあたって、毎年さまざまな出演者を検討し、その中から絞り込んだ何組かと交渉してライン・アップを決めて行きますが、いろいろな理由で実現しないケイスももちろんあります。これはしかたのないことではありますが、いまだに悔しく感じるのはルーシー・フォスターかな。

彼女のことを最初に知ったのは、当時鎌倉でバッファロー・レコードという零細インディ・レーベルを営んでいた友だちのダグ・オルソップが、ルーシーのアルバムを日本で発売したことがきっかけでした。そしてその後、彼女の来日公演があって、横浜のサムズ・アップで見たそのライヴは実に素晴らしかったです。

決して有名な歌手というわけではありません。しかし、ソウルとブルーズとゴスペルが混ざった古典的な歌のうまさと、心から湧き出る誠実さの前で聞く人は誰でもまいってしまいます。聞いた話によるとアメリカでフェスティヴァルに出演する時、それまで彼女のことを知らなかった観客にCDがバンバン売れるそうです。

Ruthie Foster『Let It Burn』(Blue Corn Music/2011)

ルーシーはテクサス州で1964年生まれ、ゴスペルを歌いながら育った人です。ポップ畑のオファーを断ってずっと地道にルーツ寄りの活動を続けています。この『Let It Burn』は彼女にとって8作目のアルバムです。 ニュー・オーリンズで録音され、元ミーターズのベーシスト、ジョージ・ポーターとドラムズのラセル・バティストを含むミュージシャンたちの紡ぐグルーヴも素晴らしいですが、選曲も際立っています。

当時まだ新曲だったアデルやブラック・キーズの作品はやや意外でしたが、ルーシーの解釈で全く不自然に感じません。ジョニー・キャッシュの「Ring Of Fire」はしっとりとしたソウル・バラードとして生まれ変わりますし、ザ・バンドの「It Makes No Difference」ではアイク・スタブルフィールドのハモンド・オルガンとルーシーのヴォーカルのやりとりにうっとりします。

名曲「You Don’t Miss Your Water」を作者のウィリアム・ベルをゲストにデュエットで歌い、また大ヴェテランのゴスペル・グループ、ブラインド・ボイズ・オヴ・アラバマが4曲で共演します。そのうち、軽くファンキーに弾む「Long Time Gone」は、デイヴィッド・クロズビーがCS&Nのデビュー・アルバムのために作ったオリジナル・ヴァージョンとも違った雰囲気を帯びて説得力があります。

このアルバムはグラミー賞のブルーズ部門でノミネイトされるほど高い評価を受けました。 Live Magicがいつかルーシーを迎えられるフェスティヴァルに育つように努力します!

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Ruthie Foster『Let It Burn』(Blue Corn Music/2011)
  1. Welcome Home (Ruthie Foster)
  2. Set Fire To The Rain (Adele Adkins, Fraser T Smith)
  3. This Time (David Hidalgo, Louie Perez)
  4. You Don’t Miss Your Water (William Bell)
  5. Everlasting Light (Daniel Auerbach, Patrick Carney)
  6. Lord Remember Me (Ruthie Foster)
  7. Ring Of Fire (June Carter, Merle Kilgore)
  8. Aim For The Heart (Jon Tiven, Ruthie Foster, Sally Tiven)
  9. It Makes No Difference (Robbie Robertson)
  10. Long Time Gone (David Crosby)
  11. Don’t Want To Know (John Martyn)
  12. If I Had A Hammer (Lee Hays, Pete Seeger)
  13. The Titanic (Traditional)
ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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