ARBAN

【DJ Mitsu the Beats】テーマはフェンダー・ローズ 激変する生活のなかで生まれたビート作品

「ひと言で言うならば“癒し”ですね」。電子ピアノを代表するフェンダー・ローズの魅力を語るのは、世界の音楽好きにも名を轟かせるレーベルJazzy Sportのアーティストとして、これまで自身のグループであるGAGLEやソロなどで様々な作品をリリースしてきた、DJ Mitsu the Beats。その彼の最新作として昨年12月にリリースされた『Beat Installments Vol.3 – Rhodes Special -』は、タイトルの通りフェンダー・ローズをテーマに、全曲インストゥルメンタルながらもDJ Mitsu the Beatsならではの音の世界観を見事にパッケージした名盤だ。このアルバムの話を軸に、DJ Mitsu the Beatsにとっての2015年、そして2016年の展望を語ってもらった。

——アルバムの話に入る前に、まずは2015年を振り返ってみてどんな一年でしたか?

「9月に子どもが産まれて生活が激変しましたね。陣痛から4日間、さらに子どもが産まれてからも5日間、僕もずっと病室に泊まって、そこで曲作りもして。看護士さんからも、“この人、毎日病室にいるし、曲作りしてるし、何なんだろう?”って顔で見られてましたね。そこから、家にいないとき以外は子育ても半々で。もちろん、奥さんのほうが負担は大きいんですけども、夜中に寝かしつけとかもやったり」

——子どもができて、曲の作り方が変わったとかはありますか?

「あるかもしれないですね。子どもを近くで見てなきゃいけないので、パソコン一台で作ることがより多くなったっていうか。パソコンでPro Toolsを立ち上げて、子どもの様子伺いながら作ったり。音を取り込むときは一気に取り込んだりとか、そういう手順とかは変わったかもしれないですね。でもマイナスではないんで、むしろポジティブに捉えています。こんな状況でもできるんだって。あとは、個人的なリリースをBandcampでやってみたりとか。ダイレクトに反応がどう返ってくるのかな?ってチャレンジさせてもらったりとかしたのが2015年でしたね」

——では、アルバムの話に移りたいのですが、まず、『Beat Installments』というシリーズはミツ君にとって、どういう位置付けの作品でしょうか?

「『Beat Installments』は僕のライフワークとして作り続けているビートを形にして出しているシリーズですね。あと、やり始めた頃にちょうどビート・テープとかも流行っていたんで、そういう位置付けで自分のデモ代わりというか、自己紹介というか。出した後に、収録したビートを何に使っても良いと思って作っていて。実際、2作目の中からGAGLEでも1曲使われたりとかもあるんで、もっとそうなっていけば良いなと」

——これまでもローズをテーマにミックスCDを作ったりもしてますが、フェンダー・ローズを好きになったきっかけはどの辺りからでしょうか?

「最初に聴いたのはピート・ロックとかじゃないかな。もともとピート・ロックやヒップホップの作品でフェンダー・ローズをサンプリングしている曲が好きで。じゃあ、このウワモノは何なんだろう?って調べたらフェンダー・ローズだった。それからずっとフェンダー・ローズが好きで。そこからアーマッド・ジャマルとか、フェンダー・ローズが入っているジャズがあれば買うっていう流れができてきて」

——ピート・ロック以外で印象的なフェンダー・ローズ使いのヒップホップ・プロデューサーといえば?

「やっぱりJ・ディラですね。あとはジャジー・ヒップホップの初期のアーティストもよくサンプリングしていましたね」

——先ほどアーマッド・ジャマルの名前が出ましたが、ほかにジャズのアーティストでフェンダー・ローズといえば誰が好きですか?

「レス・マッキャンですね。彼はピアニストなんですけども、フェンダー・ローズの作品もかなり出していて。最初にJazzy SportのMasaya Fantasistaに教えてもらって。その辺のフュージョン・ジャズ系の人たちはフェンダー・ローズをけっこう使ってて。キース・ジャレットとかチコ・ハミルトンとか。あと、ビル・エヴァンスもローズのアルバムを出してたし。最初は、そういう定番のジャズ・ピアニストがローズを弾いているアルバムを買ってましたね」

——作品的には何年頃のものが多いんでしょうか?

「70年代に入ってからですね。特に僕のゴールデンイヤーは76年で。たまたま自分が産まれた年っていうのもあるんですけど、すごく好きなアルバムとかのジャケットの裏を見ると、だいたい76年だったりするんですよ。ただ、ジャズ好きな人からすると、ジャズ・フュージョンになりかけている頃のは評価が低いようですね。でも、ヒップホップ側からすると最高の年っていうか」

——ローズの魅力って何でしょうか?

「ひと言で言うならば“癒し”ですね。これもMasaya Fantasistaに教えてもらったんですけど、実際にフェンダー・ローズが脳にリラックス効果を与えるようです。その研究をしているアーティストもいて、その人が出したフェンダー・ローズを使ったアルバムもあるんですよ。倍音効果なのか何なのかわらないですけど、響きが好きですね。たいして弾けなくても、今でも家でポロンって弾いてみたりして。僕はずっとピアノはやっていて、今はもうソロとかは弾けないんですけど、コードを押さえた時の音色の感じがすごく癒されたりしますね」

——今回のアルバムの曲はどうやって作っていったんでしょうか?

「サンプルと、あと自分で弾いたフェンダー・ローズのフレーズも入ってます。サンプルはライブラリーものとか、著作権がフリーなものを選んだりしてますね。そもそもライブラリーとか大好きなんで、そこで良い音源があるなら、それを使っちゃえば良いなって」

——ちなみに今はどういう機材で作ってますか?

「サンプリングする場合はMPC(サンプラー)に録ってたんですけど、今はFirefaceっていうインターフェイスでパソコンに直接取り込んで、Pro Tools内に数秒のサンプルを合計5時間分くらい保存してます。それをPro Toolsで打ち込むか、MASCHINEで打ち込むか。あとは手弾きでローズか、MoogのLittle Phttyで打ち込むとか。MPCっぽいサンプルを切りたいときはMASCHINEを使ったりしていますけど、パソコン内のファイルを動かしているだけで、MIDI鍵盤みたいな使い方です。ただ長年、MPCとかで打ち込んできたグルーヴを覚えているんで、どんな環境でも同じように作れるっていうのはありますね。あと、今回の『Beat Installments Vol.3』からNative InstrumentsのD2っていう機材を使っています。TRAKTOR用にStemsっていう新しいファイルのフォーマットがあって、形式的にはMP4なんですけども、中身が4トラックに分かれていて。例えばベース、スネア、キック、ボーカルとかいろいろ分けて、それをフェーダーでその場で抜き差しもできるんですよ。それをD2のフェーダーを使ってエフェクトをかけたり、ボーカルだけにしたりとか、自由にできるようになってて」

——それは、もともとはDJプレイ用とかに使うもの?

「はい。でも、僕は曲のミックスが終わった後に、トラックを分けて飛ばしたりしています。よく聴いてもらえると、スネアをすごく連打してたり音を変化させているのは、すべてD2でリアルタイムでやっていて。作業が倍になったんで大変だけど面白さが出るというか。本当はそれを元のトラックでDJがやることなんですけど、それを作品に入れちゃっても良いかなって感じでやってみました」

——今回のアルバムの中でキーになっている曲があれば教えてください。

「アルバムの3曲目の「forest hill」なんですけど、このアルバムをそういったコンセプトでやろうとしたきっかけになった曲で。これがそのD2で遊んでみて、声の飛ばしとか、これだったら面白い感じでできるなと思った曲だったんで、そういう意味でのキー曲ですね。サンプルの切り方もすごく上手くいったし、自分が結構好きな感じです」

——アルバム全体ができた上での感想は?

「まずは周りの反応が違うんですよ。『Beat Installments』の1、2は単純にビートが好きな人が後で気付いて買ってくれたみたいだったんですが、今回は“予約した”、“すごい楽しみにしている”とか、すごく言われるんですよね。フェンダー・ローズって一本筋が通っているのが人にも引っかかるのか、手応えが今までの作品とはまるで違う。あと、ジャケットも今回、ZEDZ(オランダ出身のグラフィティ・ライター)にやってもらって。普通のグラフィティじゃなくて、デザイン的にもすごく合うし。LPも同時発売なんですけど、アナログで持っていたい感がすごく強いものになりましたね」

——最後に2016年の活動について聞かせてください。

「ソロとGAGLEの両方、今進んでいて。ソロは前作『Universal Force』を出してから、3、4年取り組んでいて、時間がかかってしまっているんですけど。今、3曲ほどできていて、それをEPなのかアルバムなのか分からないけど2016年の前半に出したいですね。GAGLEのアルバム制作は、デモが半分くらい終わっているから夏までには出せたらなって。すでに、1曲は松竹梅レコーズから「Grand Gainers」って7インチで出したのと、「Appi Jazzy Sport 2016」用に7インチをもう1枚作っていて。その後にアルバムってなると思うんですけど、今までとはまったく違う感じで、かなり面白いアルバムになると思います」

– リリース情報 –

タイトル:Beat Installments Vol.3 – Rhodes Special –
アーティスト:DJ Mitsu the Beats
発売日:2015年12月19日(土)
価格:1,800円(税別)

■AMAZON
http://goo.gl/7hiZs2

■iTunes
https://goo.gl/fTqric

ARBANオリジナルサイトへ
モバイルバージョンを終了