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【エイドリアン・ヤング】「俺にとっての音楽の黄金期は68~73年なんだ」

60~70年代に隆盛したソウル・ミュージックを、まるで再興するかのようなサウンドで注目を集めるエイドリアン・ヤング。1998年にヒップホップのプロデューサーとしてキャリアをスタートさせ、近年ではゴーストフェイス・キラーや、ビラルのアルバムをプロデュース。もちろん、自身名義の作品でもその才をいかんなく発揮し、プロデューサーとしてはもちろん、さまざまな楽器を操るプレーヤーとして「理想のサウンド」を追求している。

そのサウンドの「魔力」は、ジェイ・Zやコモンといった“同時代の同業者”をも魅了し、彼らの作品内でサンプリングソースとして引用されたほど。

そんな彼が初来日し、COTTON CLUB(東京都千代田区)にて公演(3月19日~21日)を行う。

今回のインタビューは、松浦俊夫がパーソナリティーを務めるラジオ番組『TOKYO MOON』(InterFM897)とのコラボレーションによるもの。以前よりエイドリアン・ヤングのヴィンテージ感あふれるサウンドに魅了されていたという松浦俊夫が、初来日を控える彼に取材をおこなった。本稿は3月16日(水)に番組内で放送されたインタビューを編集・翻訳したものである。

——子供の頃はどんな環境で育ちましたか?

「素晴らしい音楽、そして素晴らしい人たちに囲まれて育ったよ。いつもレコード屋にたむろしていたね」

——その頃は、どんな音楽が好きだった?

「俺にとっての“最初の音楽”はヒップホップだった。そこでサンプリングされていた音楽にも多大な影響を受けたね。音楽をつくり始めたのは90年代半ばで、まずサンプリングをすることから始まった。でも、そのサンプリング作業が、作曲する能力を制限させていることに気づいたんだ。それからは独学で楽器を覚えて、作曲、アレンジ、プロデュースまでこなせるようになった」

——結果的に、プロデュースだけでなく、さまざまな楽器をこなすマルチ・プレイヤーとしても活躍することになりましたね。

「楽器を使用することで、作曲家としての引き出しが増え、作曲の幅が無限に広がることに気がついた。だからこそ、あらゆる楽器で演奏する決意をし、その術を学んだ。スタジオ内ですべてをコントロールできる自分だけのオーケストラを作りたかったからね」

——映画『Black Dynamite』(2009年・日本未公開)のサウンドトラックを手がけることになったきっかけは何でしょうか?

「監督のスコット・サンダーズは俺の友人なんだ。あの映画で主演を務めたマイケル・ジェイ・ホワイトも、スコット監督と親しくて、彼が最初に『ブラックスプロイテーション映画を作りたい』っていうアイディアを監督に話し、それでスコットが俺をプロジェクトに誘ってくれた。俺がオールドスクールな音を作るエキスパートだということを知っていたからね。しかも、音楽だけでなく映画の編集監督も務めたんだ。スコットとマイケルは、俺を信じて仕事を任せてくれたし、仕上がりにも満足してくれた。映画音楽を制作できただけでなく、編集に携われたことは本当に幸運だったよ。あまり知られていないんだけど、俺はドキュメンタリー映画を何本も撮ってきたんだよ。自分でプロデュースして編集までやっていたくらいさ。特に、70年代のキャラクターを描いた『Black Dynamite』は、まさに俺にとって完璧ともいえるプロジェクトだった」

——あなたは1978年生まれですが、つくる音楽は60年代後半~70年代前半の(あなたが生まれる前の)音楽に大きな影響を受けているように感じます。

「俺にとっての音楽の黄金期は68~73年なんだ。あの頃の音楽はとても実験的だし、まるで音楽の“衛兵交代”のようだった。ジャズはファンクに、ロックンロールはクラシック・プログレッシヴ・ロックに変化していき、サイケデリック・エクスペリエンス(サイケデリックな体験)は世界を席巻していた。社会も実験的な時代だったし、アメリカでは公民権運動が過激化していった。各地で運動家たちが逮捕され、それに反応したアーティストたちが名曲をたくさん生み出していったんだ。だから、この時代のレコードには本当に強い影響を受けたよ。キング・クリムゾンの『In The Court Of The Crimson King』(69年)、マーヴィン・ゲイの『What’s Going On』(71年)、たくさんの名作が生まれたよね」

——まさにその時代のスーパースターに、デルフォニックスがいますが、その中心メンバー、ウィリアム・ハートのアルバム『Adrian Younge Presents The Delfonics』(2013年)を、あなたがプロデュースしましたね。

「彼のアルバムをプロデュースしたいと思ったのは、デルフォニックスというグループがソウル界において特別な存在だからさ。あの時代に、フィリー出身の小さなグループが、初めてグラミー賞を受賞したソウル・グループになったんだからね。彼らは数多くの偉大な功績を残してきているのに、十分なリスペクトを得ていないと感じた。デルフォニックスの曲を挙げろと誰かに質問すると、たいていの場合、スタイリスティックスやオージェイズの曲を挙げるだろうね……。ほとんどの人たちがその違いをわかってないはずだ。俺はとにかく、ウィリアム・ハートとグループへの尊敬の念を形で表したかったのさ」

——その一方で、あなたの最新作では、ステレオラブのレティシア・サディエールを起用しています。きっかけは何だったんですか?

「人生のなかで叶えたい夢のひとつが、ロサンゼルスにある俺のスタジオに彼女を招くことだった。彼女はロンドンに住んでいるからね。でも、驚いたことに即答で承諾してスタジオまで来てくれて、一緒に仕事をしてくれた。それで新しい歴史が生まれたのさ。彼女は俺がもっとも好きな女性ボーカルのひとりなんだ。素敵な友人であると同時に、尊敬する人でもある。本当に素晴らしいボーカルだったし、一緒にコラボレートできて最高だったよ。これからもまた一緒にやるつもりさ」

——ジェイ・Zの「Picasso Baby」で、あなたの「Siren」がサンプリングされて話題となりました。それ以来、自分への評価が変わったと感じますか?

「本当に嬉しかったよ! 俺のありのままの音楽がメインストリームになるきっかけを常に求めていたから。しかも、ジェイ・Zが最高のヴァースを乗せてくれたしね」

——プロデューサーとしてビラルと一緒に仕事をするきっかけもお聞きしたいのですが。

「彼は素晴らしいシンガーで、前々から気になっていた。で、知り合いを介して初めて会ったときに、俺が『一緒に仕事がしたい』と話したら、彼も『同感だ!』と言ってくれたんだ。それでスタジオに入って、その日から一緒に曲作りを始めたよ(笑)。相性の良さも感じたけど、まるで兄弟のように仲良くなって、今ではかけがえのない親友のひとりさ」

——あなたの作品のタイトルには“Adrian Younge Presents”とつけられていますが、理由があるのでしょうか?

「ブランドとして知ってもらうためさ。“Adrian Younge Presents”とついたアルバムは、収録しているすべての楽曲を俺自身がプロデュースしている証明でもある。俺の名前を耳にしたり、文字で見かけたら、クオリティの高さを期待してもらいたいという気持ちが込められているんだ。試聴しなくても『買いたい!』と思ってもらいたいのさ。俺はオートクチュールな音を作るように心がけているし、リスナーが俺の音楽を聴いて、手作りの雰囲気を感じてもらいたいんだ」

——あなたはエンターテイメント法の教授という顔も持っていますよね。

「アメリカの大学で数年間、エンターテイメント法の教授をしていた。エンターテイメント関連の法律に基づく契約書のことや共有財産などについて教えていたんだ。いまは音楽の仕事が忙しくて教えてはいないけどね。素晴らしい経験だったし、音楽が好きなことと同じくらい、法律の世界に身を置くことも好きだった。本を読んだり、新しいことを学び続けることが大好きだからね。それに、法律がバックグラウンドにあるアーティストでいることは素晴らしいことなんだよ。他のミュージシャンたちよりもビジネス面を理解できるからね」

——奥様が経営している、美容院兼中古レコードショップのThe Art form Studioについて教えてください。

「ロサンゼルスで俺と妻が共同経営する美容院とレコードショップだね。女性も男性も気軽に入ってヘアをカットしたり整えたりしながら、俺が厳選したレコードを購入できるお店さ。いまはレコード店のほとんどがなくなってしまったし、音楽をメールなどでトレードするようになっているからこそ、とても特別な場所なんだ。いまでも俺は、店に行ってレコードを発掘することの大切さを感じている。発掘したレコードのことを人と語り合う大切さもね。音楽は俺にとって特別なものだし、ヘアスタイルとレコードの融合ってとてもユニークだけど、同時に自然な形だと思ってる。スタイリングも音楽もアートだからね」

——日本人のシンガーをプロデュースしたいと思いますか?

「思ってるよ! 日本に行きたいと思っていた理由のひとつは、日本にどんな音楽があるのかを知りたかったからなんだ。友人のDJ SARASAが紹介してくれるものはいつも気に入ってた。彼女は本当に賢い子だし、アーティスティックなマインドも、俺が『ドープだ!』と思うものを探し出してくれる能力も、まさに超人的だよ(笑)。俺が東京にいる間に、彼女や他の誰かが、一緒に仕事すべき人を紹介してくれると嬉しいな」

——日本公演の見どころを教えてください。

「COTTON CLUBで俺のバンド、ヴェニス・ドーンと演奏するわけだけど、最高の経験になることを祈ってる。俺たちのパフォーマンスが持つ、ソウルフルで、サイケデリックで、シネマティックなサウンドを観客の人たちは経験できるはずさ。ジェットコースターに乗っているような気分を味わえると思うよ。アップ、ダウン、ファースト、スロウ、そしてエモーショナル。俺たちはみんなの心に響くような演奏をしたいと常に心がけている。ショーを観て、涙を流すほど感動してくれる人たちを俺たちは見たいと思っている。常により良いものを届けようと努力するし、その情熱を感じてもらえるはずだ。前よりも良く、今よりも良く。そして毎回、これが最期のショーだ、という気持ちでステージに立っているんだ。ぜひ、俺たちのショーを観に来てほしい。俺たちが心を込めて贈るよ。多くの人に楽しんでもらうことが俺たちにとっての喜びだから」

– 来日公演概要 –
タイトル:ADRIAN YOUNGE
開催日:2016年3月19日(土)~21日(月)
会場:COTTON CLUB
時間:[1st] OPEN 16:00/START 17:00  [2nd] OPEN 18:30/START 20:00
料金:[自由席] テーブル席 6,800円 [指定席] BOX A(4名席)9,000円、BOX B(2名席)8,500円、BOX S(2名席)8,500円、SEAT C(2名席)8,000円
http://goo.gl/Q1wKJz

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