【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤/第35回 ジョン・ハモンド『Wicked Grin』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

2019.07.08

ジョン・ハモンドの父親もジョン・ハモンド。ポピュラー音楽の歴史の中で最も偉大なレコード・プロデューサーの一人として、ビリー・ホリデイからボブ・ディランまで何人もの大物アーティストを発掘した人でした。ロバート・ジョンスンの最初のLPを1961年に企画したのも彼でした。

その翌年にデビューした息子のジョン・ハモンドは、ロバート・ジョンスンに代表されるようなディープなブルーズを得意とします。当時イギリスではちょうどローリング・ストーンズがデビューするころで、エリック・クラプトンはまだヤードバーズでやっていたし、戦前のブルーズに注目する白人はまだ非常に少なかったです。そこはさすがに家庭環境の影響もあったでしょう。

しかし、一生懸命ブルーズを研究して真面目にそのサウンドを再現していた彼の音楽にはぼくはあまり興味を持てませんでした。どうしてもオリジナルには勝てないような印象があって、さほど注目していなかった、というのが正直なところです。

John Hammond『Wicked Grin』(Virgin/PointBlank 2001)

そこでこれです! すでに40年に近い活動歴を持っていたハモンドはトム・ウェイツの曲ばかりを取り上げたこのアルバム(最後の曲だけトラディショナルなスピリチュアルです)を出すことで、59歳で突然カッコいいイメージに変わりました。 ウェイツ自身がプロデューサーとして関わっていて、このアルバムのために2曲書き下ろしていますし、数曲でギターを弾いています。

またトム・ウェイツのレコードでも演奏するベースのラリー・テイラーやハーモニカのチャーリー・マスルワイト、ダグ・サームの歴代のバンドでキーボードを担当していたオーギー・マヤーズが参加することで、全員白人ではありますが、本格的なブルーズの雰囲気が濃厚に出ています。 トム・ウェイツ自身の音楽にもあるような、ややアナーキックな感じ。つまりあまりリハーサルせずに新鮮味を第一優先している感じがいいです。

語呂のよさを武器にして、歌詞の具体的な意味が今一つ分からないトム・ウェイツの曲は、元々ブルーズによく似合う土臭さがあるし、もしトムの歌声(と言っていいかな?)をあまりにも壊れすぎていて好きになれない人でも、ジョン・ハモンドのヴァージョンでは十分楽しめるはずです。

めちゃ渋いレコードなのですが、ジョン・ハモンドの最高の作品、そして個人的には21世紀ブルーズの傑作だと思います。

John Hammond『Wicked Grin』(Virgin/PointBlank 2001)

  1. 2:19 (Tom Waits & Kathleen Brennan)
  2. Heartattack And Vine (Tom Waits)
  3. Clap Hands (Tom Waits)
  4. ‘Til The Money Runs Out (Tom Waits)
  5. 16 Shells From A Thirty-Ought Six (Tom Waits)
  6. Buz Fledderjohn (Tom Waits)
  7. Get Behind The Mule (Tom Waits & Kathleen Brennan)
  8. Shore Leave (Tom Waits)
  9. Fannin Street (Tom Waits & Kathleen Brennan)
  10. Jockey Full Of Bourbon (Tom Waits)
  11. Big Black Mariah (Tom Waits)
  12. Murder In The Red Barn (Tom Waits & Kathleen Brennan)
  13. I Know I’ve Been Changed (traditional)
ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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