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【review】イギリス発 → 南米経由 → NY着 クァンティックが示す現在地

ファンク、ソウル、ラテン、ダブ、ジャズ、エレクトロニック。カメレオンの如く姿を変え、多彩な作品を投下し続ける英音楽家/DJのウィル・ホランド。本作『Atlantic Oscillations』は、彼のメイン・プロジェクトであるクァンティック名義で発表した約5年ぶりとなるアルバムだ。

近年のクァンティックを語る上で欠かせない要素はラテンだが、本作はホランドが現在拠点を置くニューヨークのDJカルチャーがテーマとなった作品。ソウル、ファンク、ハウスといったクラブ・ライクなビートに、シンセや生楽器で積み重ねた幾層ものレイヤー、壮大なストリングスに彩られたストーリー性の高い展開は、“いわゆるクラブ・サウンド”とは一線を画す内容。彼の代名詞とも言えるラテン色も「#7 Orquidea」や「#8 Tierra Mama」でしっかり押さえられている。

本人いわく、「アレンジや細部にもかなりの時間を費やした」とのことで、これまでの作品に比べて「3倍は時間をかけた」力作なのだとか。

クァンティック名義では久々のリリースだが、別プロジェクトも含めると、ほぼ年イチのペースで作品をリリースしているホランド。2001年のデビュー作『The 5th Exotic』に始まり、60〜70’sフェンク&ソウルを主軸に置いた「The Quantic Soul Orchestra」や「The Limp Twins」といったプロジェクトでも諸作をリリース。デビューから20年足らずのキャリアでアルバム数は20を超えている

「クァンティックといえばラテン」という印象を強めたのは、2007年から約7年間にわたって定住した南米コロンビアでの活動だろう。コロンビアの伝統音楽クンビアをはじめ、サルサやボサノヴァといったラテン音楽に傾倒し、地元ミュージシャンたちを集めて数々の本格ラテン・プロジェクトを始動。

カリビアン・トロピカル・レゲエ・プロジェクト「Flowering Inferno」や、デビュー作が空前のヒットを記録した「Combo Barbaro」、コロンビア版“ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ”とも言える「Ondatropica」などで諸作を発表。これらの作品は各方面で高く評価され、クァンティックの知名度をさらに押し広げる結果となった。 

左から、Quantic Presenta Flowering Inferno/Quantic & His Combo BarbaroOndatropica

拠点をニューヨークに移してからもラテンの影響は色濃く反映されており、クァンティック名義で8年ぶりに発表した前作『Magnetica』(2014年)は、それまでのホランドの活動を総括したような集大成とも言える作品となった。

今作『Atlantic Oscillations』は、それからさらに5年の後に発表された作品。同作についてホランドは「クラブ・サウンドに戻ってみたくなった」と語っている。もともとジェーム・ブラウンやノーザン・ソウルで育った彼にとって今作はいわば原点回帰。とはいえ、当然デビューの頃とは違うし、既存のクラブ・サウンドとも明らかに違う。多種多彩な音楽に触れ、数々の実験的プロジェクトを通過した彼だからこそ辿り着いた現在地。言うなれば「今のクァンティックがクラブ・サウンドを作るとこんな感じ」といったところだろうか。

なおクァンティックは、7月26日(金)〜28日(日)に開催される「FUJI ROCK FESTIVAL ’19」にDJセットでの出演が決定。足を運ばれる方は、自然の中、大音量で彼の最新サウンドを体感してみてはいかがだろうか。

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