2019.08.26

【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤/第38回 アラン・トゥーサント『The Bright Mississippi』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

アラン・トゥーサントといえば、ピアニスト、ソングライター、編曲家、プロデューサーとして1960年代から70年代のニュー・オーリンズで無数の名盤を生み出したミュージシャンです。 ニュー・オーリンズというところは、70年代までは主にジャズの発祥の地として世界的に知られていました。ニュー・オーリンズで活動する他のジャンルのミュージシャンでももちろんルイ・アームストロングやシドニー・ベシェーなどのことを知らない人はいなかったはずですが、それでもアラン・トゥーサントは自分の故郷の「伝統音楽」に取り組んだことは一度もありませんでした。

そこに登場したのがジョー・ヘンリーというプロデューサーです。このアルバムの前にすでにトゥーサントとエルヴィス・コステロの共作「ザ・リヴァー・イン・リヴァース」を手がけた彼の提案をトゥーサントが受け入れた結果、全くユニークな作品が生まれました。

Allen Toussaint『The Bright Mississippi』(Nonesuch, 2009)

ジョー・ヘンリー自身がシンガー・ソングライターでもあり、プロデューサーとして関わるアルバムで選曲作業にも積極的に参加する人です。このアルバムの中にはニュー・オーリンズとゆかりあるベシェーの「エジプシャン・ファンタシー」やアームストロングのヴァージョンが有名な「ウェスト・エンド・ブルーズ」、ジェリー・ロール・モートンの「ワイニン・ボイ・ブルーズ」(この曲だけブラッド・メルダウがピアノでゲスト)、またニュー・オーリンズのミュージシャンなら誰もが演奏する「セイント・ジェイムズ病院」といった鉄板の曲も含まれていますが、どれも当たり前な演奏ではなく、トゥーサントが得意とするR&B的な味わいが滲み出たり、またクラシック風のニュアンスもあったり、トゥーサントならではの音楽となっています。

またバックではマーク・リーボウの丁寧なアクースティック・ギターが全面フィーチャーされていますし、クラリネットのドン・バイロンとトランペットのニコラス・ペイトンの存在でニュー・オーリンズのジャズの匂いが濃くなります。アルバムのタイトル曲「ブライト・ミシシピー」はセロニアス・マンクの作品。トゥーサントとは別世界のような印象ですが、聞いてみると何の違和感もなく、彼の解釈になっていて見事です。

このアルバムの企画を更に拡大した続編の作品「アメリカン・チューンズ」は2016年に発表されましたが、その制作がほぼ完成に近い2015年10月、スペインのマドリッドでコンサートを終えたトゥーサントは急な心臓発作のため、77歳で帰らぬ人となりました。

Allen Toussaint『The Bright Mississippi』(Nonesuch, 2009)

  1. Egyptian Fantasy (Sidney Bechet/John Reid)
  2. A Dear Old Southland (Raymond Bloch)
  3. St. James Infirmary (traditional)
  4. Singin’ The Blues (Con Conrad/J. Russel Robinson)
  5. Winin’ Boy Blues (Jelly Roll Morton)
  6. West End Blues (Joe Oliver/Clarence Williams)
  7. Blue Drag (Django Reinhardt)
  8. Just A Closer Walk With Thee (traditional)
  9. Bright Mississippi (Thelonious Monk)
  10. Day Dream (Duke Ellington/Billy Strayhorn)
  11. Long, Long Journey (Leonard Feather)
  12. Solitude (Eddie DeLange/Duke Ellington/Irving Mills Bonus Tracks That’s My Home (Sid Robin)
  13. The Old Rugged Cross (George Bennard)
ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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