2019.09.09

【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤〈第39回〉 ティナリウェン『Aman Iman – Water Is Life』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤

ピーター・バラカンの連載コラム。西暦2000年以降にリリースされたCD作品のなかから、どうしても手放せない愛聴盤を紹介します。

ぼくが最も好きだったラジオのDJは、イギリスのBBCのロンドンのローカル局でずっと地道に番組をやっていたチャーリ・ギレットです(2010年死去)。まだ日本からインタネットで聞けなかった頃は母親に頼んでカセットでエア・チェックしたものを月に一度送ってもらっていたのです。その中で2001年のある時、絶対に番組のテーマ曲に向くインストルメンタルの曲がありました。

聞いたこともないミュージシャン Justin Adamsの「Wayward」というこの曲をどうやって手に入れるかも分からず、チャーリに問い合わせのメイルを送ったら丁寧にマネジャーの連絡先を教えてくれて、CDを送ってもらいました(ぜひSpotifyで検索してみてください)。

その後、そのマネジャーからジャスティンがティナリウェンというバンドのデビュー・アルバムをプロデュースしたことも知りました。「砂漠のブルーズ」との出会いです。 ティナリウェンは大昔からサハラを行き交うトゥアレグという遊牧民族のバンドです。本来、国境とは無縁の生活を営んでいたトゥアレグは、植民地時代のヨーロッパの宗主国が勝手にひいた国境線に悩まされ、蜂起を起こしては軍に制圧され、武器をエレクトリック・ギターに替えたと言われています。

その真偽はともかく、複数のギターとチャントのような反復の歌、そして手拍子中心のパーカションというミニマルなサウンドはいかにも乾ききったサハラを思わせるもので、うねるようなリズムを聞いているとラクダに乗ったトゥアレグのカラヴァンのイメージが容易に頭に浮かびます。

Tinariwen『Aman Iman – Water Is Life』(Independiente, 2007)

彼らは因みに一応マリのバンドになっていますが、トゥアレグはアルジェリアやニジェールなどにも存在します。 この「アマン・イマン」は3作目で、これもジャスティンがプロデュースしています。デビュー作からの6年の間に簡素だったサウンドはベーシストが参加したお陰で少し膨らんでいます。

決して聞き手に媚びるようなことをしないグループですが、例えば「Matadjem Yinmixan(どうしてこんなに憎しみを?)」という曲はシンプルでも必ず合唱したくなる素晴らしいメロディです。ティナリウェンを中心に「砂漠のフェスティヴァル」が開催されるほどこの音楽への注目度が増したのですが、2010年代に入るとマリ北部におけるイスラム過激派の活動のためフェスは中止になったし、ティナリウェンも活動の場をアメリカに移しました。

Tinariwen『Aman Iman – Water Is Life』

  1. Cler Achel
  2. Mano Dayak
  3. Matadjem Yinmixan
  4. Ahimana
  5. Soixante Trois
  6. Toumast Imidiwan Winakalin
  7. Awa Didjen
  8. Ikyadarh Dim
  9. Tamatant Tilay
  10. Assouf
  11. Izarharh Ténéré
ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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