2019.09.24

【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤〈第40回〉スタッフ・ベンダ・ビリリ『Tres Tres Fort』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤

ピーター・バラカンの連載コラム。西暦2000年以降にリリースされたCD作品のなかから、どうしても手放せない愛聴盤を紹介します。

音楽的にも優れた作品ですが、このスタッフ・ベンダ・ビリリは背景の物語がとにかく多くの人の心に響きます。コンゴの首都キンシャサで暮らすメンバーは子供の頃にポリオを患って、自分たちで集めた色々な部品で作った自作の三輪車いすで移動するのですが、障害のためになかなか一般のミュージシャンからは相手にされず、このバンドを結成しました。

障害者の他に何人か路上で暮す孤児の若者の面倒を見るようになり、彼らはリズム・セクションを務めるようになりましたが、そこに一人の強者が加わることになりました。ロジェは当時16歳でした。この少年は大きめの空き缶に木の棒を突っ込み、そこに釣り糸を一本張ると即席一弦スライド・マンドリン(?!)のような手作りの楽器が出来上がり。これをロジェ君は独学の驚くべきテクニックで高音のメロディを展開します。

Staff Benda Bilili 『Tres Tres Fort』(Crammed Discs, 2009)

スタッフ・ベンダ・ビリリは一千万人の大都市であるキンシャサの意外に閑散とした動物園を練習場所にし、路上で演奏して小銭を集めていました。そこでドキュメンタリー映画の撮影に来ていたフランス人に注目され、結局ベルギーのプロデューサーがキンシャサの動物園の一部を利用して、ほとんどフィールド・レコーディングに近い方法でアルバムを制作したのです。

YouTubeでヴィデオが話題となり、たちまちこのバンドは当時のワールド・ミュージック界に旋風を起こしました。いわゆるコンゴ流ルンバが下敷きになっていて、曲によってレゲェの影響もありますが、映像を見なければメンバーの半分が障害者であることを誰も想像しないでしょう。しかし、そのことで話題が広がるのは仕方がないとしても、若干見せ物的な取り上げ方になったことも否定できません。来日もしましたが、日比谷野音で見た公演のエネルギーは凄まじいものでした。

このアルバムはかなりのヒットとなり、バンドはヨーロッパ・ツアーも行うことになったのですが、そこでお金の問題が勃発して、そのいざこざの結果、残念ながら中心メンバーが脱退して解散となってしまいました。にわかに成功するどのバンドでも起こりうる話ではありますが、奇跡的にいい形になっていたスタッフ・ベンダ・ビリリがあっけなくそのように終わってしまうのはあまりにももったいないことでした。 10年後に聞いても魅力は全く薄れないアルバムです。個人的にはMozikiが大推薦!

Staff Benda Bilili 『Tres Tres Fort』(Crammed Discs, 2009)

  1. Moto Moindo (Paulin Kiara-Maigi)
  2. Polio (Makembo Nzale)
  3. Je T’Aime (Cubain Kabeya Tshimpangila)
  4. Sala Keba (Coco Yakala Ngambali)
  5. Moziki (Waroma Abi-Ngoma)
  6. Sala Mosala (Theo)
  7. Avramandole (Djunana Tanga-Suele)
  8. Tonkara (Coco Yakala Ngambali)
  9. Marguerite (Coco Yakala Ngambali)
  10. Staff Benda Bilili (Coco Yakala Ngambali)
  11. Mwana (Zadis Mbulu Nzungu)
ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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