2019.10.15

【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤〈第41回〉ジェリー・ダグラス『Traveler』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

ピーター・バラカンの連載コラム。西暦2000年以降にリリースされたCD作品のなかから “どうしても手放せない愛聴盤”を紹介します。

ぼくがキュレイターを務めるフェスティヴァル、Live Magicの特徴のひとつに、スライド・ギターの名人がほぼ毎年出演しているのです。つまり自分がそれだけ聞きたいものです。高校生の頃に好きになったロバート・ジョンスンやエルモア・ジェイムズから始まって、70年代にはドゥウェイン・オールマン、ライ・クーダー、リトル・フィートのロウェル・ジョージ、デイヴィッド・リンドリーなど、最近ではサニー・ランドレスや天才的なデレク・トラックスに至る長い道程です。

色々あるスライド・ギターの中で、主にブルーグラスやカントリー・ミュージックで使われるドブロは機のボディの中に共鳴盤が埋め込んであり、ちょっと乾いた独特の響きがあります。ドブロのすごい人は何人かいますが、ジェリー・ダグラスは次元が違います。

Jerry Douglas “Traveler” (E-One/Victor, 2012)

ぼくが最初に注目したのはたぶんアリスン・クラウスというポップなブルーグラス・シンガーのバック・バンド、ユニオン・ステイションのメンバーとしてだったかも知れません。でも、ヴォーカルのバックで演奏していて、一度彼のプレイを耳にすればゾクゾクするほどその演奏にマジックがあります。

2014年に開催された第1回のLive Magicのヘッドライナーにジェリー・ダグラスを選んだのは自然の成り行きでした。ユニオン・ステイションという考えもありましたが、アリスン・クラウスは遠出をしない歌手だということで断念し、ジェリー自身のバンドをブッキングしました。

その2年前にジェリーの最新ソロ・アルバムが出ていて、彼が得意とするブルーグラスではなく、実に多様なレパートリーに挑む作品でした。ブルーズあり、フォークあり、R&Bやジャズ風の曲もあって、ゲストにエリック・クラプトン、ポール・サイモン(「ザ・ボクサー」を本人と当時大きな話題を読んでいたマムフォード&サンズと共演)、アリスン・クラウスたちも出ます。
ケルトの音楽にも造詣が深いジェリーはスコットランドの集落を目指す、というイメージの「ゴイング・トゥ・フォーティンゴール」で実に美しいメロディを演奏し、それに絡むベラ・フレックのバンジョーも素晴らしいです。

ポール・サイモンの「アメリカン・テューン」とチック・コリアの「スペイン」とメドリーと言えば、一見唐突に見えると思いますが、アルバムの中で聞くとスリリングです。一人でドブロの多重録音をするジェリー・ダグラスの感性と手腕はこの曲でフルに堪能できます。バランスのとれたとても聞き応えのあるアルバムです。

Jerry Douglas “Traveler” (E-One/Victor, 2012)

  1. On A Monday (Huddie Ledbetter)
  2. Something You Got (feat. Eric Clapton) (Chris Kenner)
  3. So Here We Are (Jerry Douglas, Omar Hakim, Viktor Krauss)
  4. The Boxer (feat. Mumford & Sons, Paul Simon) (Paul Simon)
  5. Duke And Cookie (Sam Bush, Jerry Douglas)
  6. High Blood Pressure (feat. Keb Mo) (Huey Smith)
  7. Gone To Fortingall (Jerry Douglas)
  8. Right On Time (feat. Marc Cohn) (Al Anderson, Sharon Vaughn)
  9. American Tune/Spain (Paul Simon/Chick Corea, Joaquín Rodrigo)
  10. Frozen Fields (feat. Alison Krauss & Union Station) (Jeff Black, Jon Randall Stuart)
  11. King Silkie (Jerry Douglas, Dan Tyminski)
  12. Bonus Tracks
  13. Lil’ Roro (Jerry Douglas, Bill Frisell)
  14. Bounce (Sam Bush, Jerry Douglas, Edgar Meyer)
  15. Pushed Too Far (Jerry Douglas)
ピーター・バラカンが監修する音楽フェスティバル
LIVE MAGIC! 10 月 19 日(土)・20 日(日)の2日間
東京・恵比寿ガーデンプレイス ザ・ガーデンホール&ザ・ガーデンルームにて開催
詳細はこちら

 

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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