2019.10.28

【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤〈第42回〉 ウィリー・ネルスン『Last Man Standing』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

ピーター・バラカンの連載コラム。西暦2000年以降にリリースされたCD作品のなかから “どうしても手放せない愛聴盤”を紹介します。

若い頃はカントリー・ミュージックをダサいと感じたし、年寄りの気持ちは分からなかったので、このアルバムに注目するはずはありませんでした。十代の頃にはウィリー・ネルスンの名前すら知らなかったと思いますが、16歳の時に買って深くのめり込んでいたB.B.キングのライヴ・アルバム「ブルーズ・イズ・キング」の中の名演「ナイト・ライフ」の作者が彼であることを知ったとしても、さほど気に留めなかったかも知れません。

最初はソングライターとして知られていたウィリー・ネルスンは70年代半ばに「アウトロー・カントリー」と呼ばれた動きの代表的な歌手の一人として話題になり、スタンダードばかりを特集したアルバム「スターダスト」が大ヒットしました。そんなことを知っていながらも当時は積極的に聞こうとせず、ダニエル・ラノアがプロデュースした1998年の「テアトロ」が実質的にぼくの初ウィリーでした。その頃にはぼくも40代後半になっていて、カントリーに対する苦手意識も消えていました。余計な力の抜けた彼の乾いた歌声とさりげなく巧いガット・ギターの弾き方が気に入ったのでした。

その後ソロ作の他に、例えばウィントン・マルサリスとノーラ・ジョーンズと一緒に作ったレイ・チャールズへのトリビュート盤も素晴らしく、ウィリー・ネルスンがどんなジャンルの歌でも見事にこなせる人であることが分かってきました。

でも、基本的にはカントリーの世界の人です。現在の彼は86歳で、8月には呼吸の問題で医者にかかるからということでツアーを中断しましたが、ここ数年アルバムを立て続けに発表している彼はアーティストとして極めて快調です。

Willie Nelson “Last Man Standing” (Sony, 2018)

この「ラスト・マン・スタンディング」というタイトルは仲間が次々とあの世に去って行く中で一人だけ踏ん張っているようなニュアンス。「天国は閉鎖中、地獄は混みあっているから、もうしばらくここにいるさ」とか、「コウシュウってどう綴るか昔から分からないけど、息がない状態よりは臭い息でもマシだろうから、悪く思わないでちょうだい」とか、老いてこそ思いつくような自嘲的な苦笑いが見えそうな歌詞があちらこちらにあります。

アルバムの中で最もジーンと響くのは “Something You Get Through”という曲です。「愛おしい人を亡くした時、この世の終わりのような気がする。でも、命というものは、他の人の中で続くものだ。その悲しさは乗り越えることは無理だとしても、何とかやり抜くしかない」。

Willie Nelson『Last Man Standing』

  1. Last Man Standing
  2. Don’t Tell Noah
  3. Bad Breath
  4. Me And You
  5. Something You Get Through
  6. Ready To Roar
  7. Heaven Is Closed
  8. I Ain’t Got Nothin’
  9. She Made My Day
  10. I’ll Try To Do Better Next Time
  11. Very Far To Crawl

all songs by Willie Nelson and Buddy Cannon

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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