2019.11.11

【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤〈第43回〉 Hudson『Hudson』

ピーター・バラカンの連載コラム。西暦2000年以降にリリースされたCD作品のなかから “どうしても手放せない愛聴盤”を紹介します。

ジャズという音楽は100年以上の歴史があって、その間に何度の革命が起きています。「ジャズが好きですか」と訊かれても、どう答えていいか分からないことがあります。簡単にいえば好きですが、どんなジャズでも好きかというとそうではありません。リズム感とか、楽器編成とか、やはり好みがありますが、その好みは自分の世代とかなり深く関係しています。

ぼくがジャズを多少真面目に聴き始めた高校生時代は1960年代後半だったので、ロックとの接近が起き始めていました。この「ハドスン」を成す4人のミュージシャンは全員その時期以降に活動した人たちで、ジャズのスウィング感を大前提にロックやファンクやレゲェなどノリという意味ではまさしくぼく好みのサウンドです。

Hudson『Hudson』(Motema/Sony, 2017)

Hudson
Jack DeJohnette: drums
Larry Grenadier: bass
John Medeski: keyboards
John Scofield: guitar

このプロジェクト名「Hudson」はメンバーが皆暮らす地域、ニューヨークの北の方に伸びるハドスン川の谷のことを指します。またこの地域で有名なウッドストックという町が色々と絡みます。ジョーニ・ミチェルが作った曲「ウッドストック」も演奏していますし、ウッドストックの最も有名な住人だったボブ・ディラン、そしてこの町を象徴したザ・バンドの曲、さらにウッドストック・フェスティヴァルのオオトリを務めたジミ・ヘンドリックスの曲も取り上げています(日本国内盤にはジミのもう1曲ボーナスで収録されています)。

ギターのジョン・スコーフィールドの自作曲「Tony Then Jack」はたぶんマイルズ・デイヴィスのいわゆるエレクトリック時代にドラマーを務めたトーニー・ウィリアムズ、そしてこのハドスンのジャック・ディジョネットのことでしょう。独特のブルージーな感覚がたまらないスコーフィールドも80年代にマイルズのバンドに参加していましたし、キーボードのジョン・メデスキが時々使うサイケデリックな音色も70年前後のマイルズの音楽を彷彿とさせます。

ポップなレパートリを取り上げることで周りのミュージシャンを「ジャズ」という概念の束縛から解放したマイルズへのリスペクトは間接的にこのアルバムから感じますが、50年ほど前の曲を取り上げているとはいえ、この4人は間違いなく今の音楽を作っています。全体はとても聞きやすいアルバムですが、彼らの即興は真剣にやっているものです。ジャズをこれから聞いてみようかな、という人に躊躇せずにお薦めできる一枚です。

『Hudson』 (Jack DeJohnette, John Medeski, John Scofield, Larry Grenadier)

  1. El Swing (John Scofield)
  2. Lay Lady Lay (Bob Dylan)
  3. Woodstock (Joni Mitchell)
  4. A Hard Rain’s A-Gonna Fall (Bob Dylan)
  5. Wait Until Tomorrow (Jimi Hendrix)
  6. Song For World Forgiveness (Jack DeJohnette)
  7. Dirty Ground (Bruce Hornsby, Jack DeJohnette)
  8. Tony Then Jack (John Scofield)
  9. Up On Cripple Creek (Robbie Robertson)
  10. Great Spirit Peace Chant (Jack DeJohnette)
  11. Castles Made Of Sand (Jimi Hendrix)
ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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