2019.11.25

【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤〈第44回〉 メイヴィス・ステイプルズ『If All I Was Was Black』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

ピーター・バラカンの連載コラム。21世紀(2001年以降)にリリースされたCD作品のなかから “どうしても手放せない愛聴盤”を紹介します。

2019年で80歳になったメイヴィス・ステイプルズはまだ子供だった1950年代の初頭から、驚くほど低くて成熟した歌声でお父さんと兄弟と一緒にやっていたステイプル・シンガーズという家族のゴスペル・グループのリード・シンガーでした。お父さんと仲がよかったマーティン・ルーサー・キングの影響で60年代半ば公民権運動の時代からプロテスト・ソングなども歌うようになり、その後ファンクの時代にはぼくが「メッセージ・ソウル」と呼ぶ独自のスタイルを確立しました。

70年代初頭の「リスペクト・ユアセルフ」や「アイル・テイク・ユー・ゼア」という大ヒット曲はいつ聞いても飽きない名演です。ステイプル・シンガーズが活動を停止した80年代からメイヴィスは、70年代から時々出していたソロ・アルバムを作り続けたものの、彼女の声が大好きだったプリンスが手がけても、今ひとつしっくり来るものはありませんでした。しばらくの間そんな低迷の時期が続いたのですが、2000年代に入ってから、彼女がすでに60代にもかかわらず、本調子を取り戻し、特にAnti-というインディのレーベルと手を組んだ2007年以降は力作が続いています。

Mavis Staples『If All I Was Was Black』(Anti-/2017)

ずっとシカゴを拠点にしているメイヴィスに、同じくシカゴで活動するバンド、ウィルコのリーダー、ジェフ・トゥウィーディという良き理解者がプロデューサーとして登場してから充実した作品が多く、その最たるものはこのアルバムです。基本的にジェフ・トゥウィーディがメイヴィスのために書き下ろした曲が多く、人種差別、不平等などをテーマにしつつもあくまでポジティヴな姿勢を崩さないメイヴィスの歌が感動的です。

メイヴィスが共作している曲が3曲あります。アルバムのタイトル曲の意味は、「黒人であることがもし私のすべてだったら」。他に、「銃弾は跳び、人々が死んでいるけど、泣いている暇なんてない、やることがいっぱいあるよ」、そして「We Go High」はミシェル・オバマの言葉を借りて、「相手が嘘をついたり噂を広めたり、汚い手を使っても、私たちはその真似をせずに志を高く持ったまま、全員が仲よくなれるように努力する」。今のトランプのアメリカでは甘く響く言葉かも知れませんが、誰かがこう言わないとますます泥沼に陥る一方のように思えます。このアルバムの発売時期が11月で、すでに2017年度の年間ベストを発表した後でしたが、1年経ってもインパクトは減りませんでした。

Mavis Staples『If All I Was Was Black』(Anti-/2017)

  1. Little Bit
  2. If All I Was Was Black (Jeff Tweedy/Mavis Staples)
  3. Who Told You That
  4. Ain’t No Doubt About It (feat. Jeff Tweedy)
  5. Peaceful Dream
  6. No Time For Crying (Jeff Tweedy/Mavis Staples)
  7. Build A Bridge
  8. We Go High (Jeff Tweedy/Mavis Staples)
  9. Try Harder
  10. All Over Again

all songs by Jeff Tweedy except as noted

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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