2019.12.09

【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤〈第45回〉 アリ・ファルカ・トゥーレ&トゥマニ・ジャバテ『Ali & Toumani』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

ピーター・バラカンの連載コラム。21世紀(2001年以降)にリリースされたCD作品のなかから “どうしても手放せない愛聴盤”を紹介します。

マリという国を最初に意識したのはたぶん1987年にサリフ・ケイタの歌を聞いた時だと思います。それまでアフリカの音楽といえばナイジェリアのフェラ・クティ、そしてキング・サニー・アデを少し知っていて、ピーター・ゲイブリエルを通じてセネガルのユッスー・ンドゥールを聞き始めていたところでしたが、サリフの声にはすごい衝撃を受けました。

その後立て続けにマリのミュージシャンとの出会いがありました。89年に来日したアリ・ファルカ・トゥーレのライヴを見て、彼の歌とギターからは十代のぼくの人生を変えたブルーズの源泉のようなものを感じました。その翌年にはコラ奏者のトゥマニ・ジャバテも来日しました。彼の独奏のアルバム「Kaira」に惚れ込んでいましたが、生で聴くトゥマニの演奏を目の前で見てもにわかには信じがたい彼の演奏能力にますます感激しました。

Ali Farka Toure & Toumani Diabate 『Ali & Toumani』(World Circuit/2010)

そうとうな国土を持つマリは地方によって民族も原語も音楽文化も違います。アリ・ファルカ・トゥーレはサハラに差しかかる北部の出身で、ソンガイとフラの血を引く人でした。トゥマニの方は南部のマンデ民族、何百年も代々続くグリオの家系です。本来コラの名人とされた父親から直接楽器の手ほどきを受けるはずですが、幼少期にポリオを患って片足が不自由なトゥマニはほったらかしにされ、どうやらウォークマンでジミ・ヘンドリックスやマイルズ・デイヴィスなどの音楽を聞きながら独学でコラをマスターしたそうです。

どちらかといえばハープに近いこの楽器の音色は極めて繊細なものですが、その優しさもあって彼の卓越したテクニックで高度な即興をしてもとても聞きやすい印象です。アリ・ファルカのギターは比較的シンプルなものですが、彼も楽器奏者として高い評価を受けています。そしてブルーズとの類似点が強く感じられるものの、間違いなくアフリカの音になっています。トゥマニの7音階の音楽と違ってアリ・ファルカは基本的に5音階を使うので、最初はこの二人が共演すると聞いた時うまく行くものかなとちょっと懸念したのですが、全く違和感のないサウンドです。アリ・ファルカの歌をフィーチャーした数曲以外はインストルメンタルの内容で、全編的にゆったりしたやさしいノリです。何度か聞いているうちにいつのまにかやみつきになる極楽気分の実に素敵な作品です。

Ali Farka Toure & Toumani Diabate
『Ali & Toumani』(World Circuit/2010)
Ruby (Ali Farka Touré)
Sabu Yerkoy (Ali Farka Touré)
Be Mankan (Toumani Diabaté)
Doudou (trad. arr. Toumani Diabaté)
Warbé (Ali Farka Touré)
Samba Geladio (Ali Farka Touré)
Sina Mory (trad. arr. Ali Farka Touré)
56 (Ali Farka Touré)
Fantasy (Toumani Diabaté)
Machengoidi (Ali Farka Touré)
Kala Djula (trad. arr. Ali Farka Touré, Toumani Diabaté)

Backing Vocals – Ali Magasa, Souleye Kane (track 2)
Bass – Orlando “Cachaíto” López (tracks: 1, 2, 5, 6, 11)
Congas, Backing Vocals – Vieux Farka Touré (tracks: 2, 5, 11, 12)
Guitar, Vocals, – Ali Farka Touré
Kora – Toumani Diabaté
Percussion – Tim Keiper (tracks: 5, 11)

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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