投稿日 : 2020.01.13

【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤〈第47回〉マイケル・キワヌカ『Home Again』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

ピーター・バラカンの連載コラム。21世紀(2001年以降)にリリースされたCD作品のなかから “どうしても手放せない愛聴盤”を紹介します。

1960~70年代のソウル・ミュージックに特別な愛情を持っているせいか、その良さが感じられる音楽に出会うととても嬉しいものがあります。ディアンジェロやエリカ・バドゥーなどアフリカン・アメリカンも時々いますが、どういうわけかぼくの好きなソウルを思わせるイギリスのミュージシャンが何人かいます。その最たるものはエイミ・ワインハウスでしょう。エイミが2011年に27歳で亡くなったとき本当にショックでした。

その翌年、2012年にこのデビュー・アルバムを発表したマイケル・キワヌカは驚くほど今の時代の人という感じがしません。シンガー・ソングライター然とした雰囲気を持っていて、全体的にとても有機的な音づくりをしています。色々なところでビル・ウィザーズやテリー・キャリアーと比較されるのですが、その二人の音楽を本人も間違いなく意識しているはずです。でも、アメリカ人にはないイギリス独特の素朴さもあります。

Michael Kiwanuka『Home Again』(Polydor/2012)

彼はロンドン生まれで、ぼくも10年間暮らしていた北ロンドンのマズウェル・ヒルで育ちましたが、両親はウガンダから独裁者イディ・アミンの恐怖の時代に亡命したそうです。大手のレコード会社ポリドールと契約する時、芸名を使いませんかと提案されたそうです。

つまり、アフリカの苗字の人は「ワールド・ミュージック」のアーティストと勘違いされる可能性が高く、そうすれば売り上げが落ちるという単純な論理です。大手のレコード会社らしい発想ですが、子供の時から色々な差別に堪え続けてきたマイケルにとってがっかりするものです。因みに2019年に発表された彼の3作目のアルバムのタイトルは「KIWANUKA」。その中で「名前を変えない」と断定する歌詞が含まれる曲があります。それだけの自信を身に付けるのにどうやら7年かかったようです。

このアルバムを出した直後ぐらいでフジロックに出演した彼の演奏を見て、ぼくは興奮しました。アルバムにあるソフトな感じはライヴにもありますが、志の強さがひしひしと伝わってくるものがあって、大物だと思いました。控えめながらもこのデビュー作はイギリスをはじめヨーロッパ各国でチャートの上位まで上り、当時の25歳にしては落ち着いた成熟を感じさせる歌と演奏力、そして曲作りの質の高さは今聞いても変わりません。2作目の「Love And Hate」、そして「KIWANUKA」と続けて聞くと彼の更なる進化が楽しめます。

Michael Kiwanuka『Home Again』(Polydor/2012)
1. Tell Me A Tale
2.I’m Getting Ready
3.I’ll Get Along
4.Rest
5.Home Again
6.Bones
7.Always Waiting
8.I Won’t Lie
9.Any Day Will Do Fine
10.Worry Walks Beside Me

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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