投稿日 : 2020.01.27

【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤〈第48回〉 ベラ・フレック『Throw Down Your Heart』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

ピーター・バラカンの連載コラム。21世紀(2001年以降)にリリースされたCD作品のなかから “どうしても手放せない愛聴盤”を紹介します。

バンジョーという楽器は長いことアメリカのカントリー・ミュージックを象徴する存在で、あくまで白人が弾くものというイメージが強かったですが、ワールド・ミュージックの時代になって、そのルーツが実はアフリカにあることが次第に伝わってきました。そのことを大きく印象づけたのがこのアルバムです。

Bela Fleck『Throw Down Your Heart』(Rounder/2009)

ベラ・フレックは元々ブルーグラスをやっていた凄腕バンジョー奏者で、その驚異的な技術でどんなジャンルの音楽にでも挑戦するのがユニークなところです。彼はバンジョーが辿ってきた道を確認するためにも、1ヶ月かけてアフリカの東西4カ国(ウガンダ、タンザニア、マリ、ガンビア)をドキュメンタリー映画のクルーと共に回り、各国で様々なミュージシャンと共演しました。

国際的に名の通っているマリの女性歌手ウームー・サンガレやマダガスカルのギタリスト、ディガリーなど数名いますが、多くは地元で素朴に暮している村人たちです。おそらくリハーサルなどをする時間はほとんどないままの録音となったはずですが、見事なほどそれぞれの現場にベラ・フレックが順応しつつ自分のバンジョーを聞かせる様子は同じタイトルの映画でも見ることができます。

 

因みにタイトルの「心を投げ捨てる」は、タンザニアの内陸から奴隷船に乗るべく海岸に連れていかれた人たちが初めてを海を見て、二度と故郷に戻れないことを悟ったときに抱いた気持ちだそうです。とはいえ、この曲はマリで録音され、マリのミュージシャンたちとの共演になっています。

バンジョーの直接の祖先と言われている楽器が二つあります。どちらも西アフリカのもので、片方はマリでよく使われるンゴニです。このンゴニの名手バセクー・クヤテの演奏は「スロー・ダウン・ユア・ハート」で聞けます。音色はややバンジョーに近いですが、形はもっと小さく、細長いボディです。もう一つ、ガンビアで使われるアコンティングはボディが丸く弦の張り方も極めてバンジョーと似ています。ジャタ・ファミリーとの共演の曲で聞けるこの楽器がアメリカに運ばれて、長い年月を経て徐々に今のバンジョーに変化して行ったプロセスは容易に想像できます。

個人的にマリの名ギタリスト、ジェリマディ・トゥンカラとベラ・フレックの二人だけで演奏する「マリアム」に何とも言えないマジックを聞く度に感じます。

Bela Fleck『Throw Down Your Heart』(Rounder/2009)

  1. Béla Fleck with Nakisenyl Women’s Group/Tulinesangala
  2. Béla Fleck with D’Gary/Kinetsa
  3. Béla Fleck with Oumou Sangare/Ah Ndiya
  4. Béla Fleck with Anania Ngoliga/Kabibi
  5. Béla Fleck with Luo Cultural Association/Angelina
  6. Béla Fleck with D’Gary, Oumou Sangare, Richard Bona, Baaba Maal, Vusi Mahlasela, Afel Bocoum, Anania Ngoliga, Toumani Diabaté And Friends/D’Gary Jam
  7. Béla Fleck with Haruna Samake Trio And Bassekou Kouyate/Throw Down Your Heart
  8. Béla Fleck with Vusi Mahlasela/Thula Mama
  9. Béla Fleck with Muwewesu Xylophone Group/Wairenziante
  10. Béla Fleck with Afel Bocoum/Buribalal
  11. Béla Fleck with Chibite – The Zawose Family/Zawose
  12. Béla Fleck with The Jatta Family/Ajula/Mbamba
  13. Béla Fleck with Warema Masiaga Cha Cha/Pakugyenda Balebauo
  14. Béla Fleck with The Ateso Jazz Band/Jesus Is The Only Answer
  15. Béla Fleck with Khalifan Matitu/Matitu
  16. Béla Fleck with Djelimady Tounkara/Mariam
  17. Béla Fleck with Oumou Sangare/Djorolen
  18. Béla Fleck with Anania Ngoliga/Dunia Haina Wema/Thumb Fun
ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

※記事内のカタカナ表記について。仮名づかいは著者の解釈を尊重して掲載しているため、一般的な表記および、他ページ(同サイト内)の表記と異なる場合があります。