投稿日 : 2020.02.10 更新日 : 2020.01.06

【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤〈第49回〉 ライ・クーダー『The Prodigal Son』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

ピーター・バラカンの連載コラム。21世紀(2001年以降)にリリースされたCD作品のなかから “どうしても手放せない愛聴盤”を紹介します。

ぼくにとって社会の先生がボブ・ディランだとしたら、音楽の先生はライ・クーダーです。スライド・ギターをはじめ、弦楽器の天才的な職人であると同時に、アメリカ各地のルーツ・ミュージックを知り尽くしていて、様々なジャンルの古い曲を掘り起こしては独自の編曲を施してカッコよく聞かせてきました。彼がいなければ知らずに終わった名曲、あるいはフラコ・ヒメネス(メクシコ系テクサス人のアコーディオン奏者)やガビ・パヒヌイ(ハワイのスラック・キー・ギタリスト)のようなすごい人たちがどれだけ多いことか。

しかし、ライのレコードは決して万人受けするものではなく、70年代から80年代後半まではコンスタントにアルバムを作っていたものの、長い間確実な収入が得られる映画音楽に専念する時期が続きました。「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」のプロデューサーとして新たに脚光を浴びた彼は2000年代にはレコード制作を再開し、故郷のLAに関するコンセプト・アルバムや政治的な内容の作品を地道に出していましたが、近年ライのドラマーを務めるようになった息子のホアキンの提案を受け入れて、昔からのファンが待ち望んでいた古き良き時代のライ・クーダーのレコードを改めて作ってくれたのです。

Ry Cooder『The Prodigal Son』(Fantasy/2018)

「放蕩息子」というゴスペルのタイトル曲もそのことをちょっと皮肉にほのめかすものかも知れません。初期の作品と同様にこのアルバムで歌っている大部分の曲はゴスペルの古い曲です。彼はキリスト教の信者ではありませんが、ゴスペルの音楽的な魅力がまずあって、またその歌詞が表す真っ当な価値観に共鳴すると語っています。

例えば、“かつては派手な生活ぶりを自慢していたけれど今はまっすぐな道に戻った” という「ストレイト・ストリート」(名門ゴスペル・カルテット、ピルグリム・トラヴェラーズの50年代の曲)や、“金もうけに目がくらんでいる自称クリスチャンのあなたたち、もっと身軽にならなければ天国に行けないよ” という「ユー・マスト・アンロード」(1920年代に活動した白人ゴスペル歌手アルフレッド・リードの作品)など、時代を超えた普遍性のある曲を選んでいます。

自作では「ジーザス・アンド・ウディ」が素晴らしいです。天国でイエス・キリストがウディ・ガスリーを呼び寄せて、“私も夢想家なので、君の歌を聞かせてちょうだい。ファシストより罪人の方がマシだよね。憎しみに対して、心ある君たちは力を合わせて立ち上がりなさいよ” と激励するようなユニークな曲です。

Ry Cooder『The Prodigal Son』(Fantasy/2018)
1. Straight Street (J. W. Alexander, Jesse Whitaker)
2. Shrinking Man (Ry Cooder)
3. Gentrification (Joachim Cooder, Ry Cooder)
4. Everybody Ought To Treat A Stranger Right (Blind Willie Johnson, Trad. arr Ry Cooder)
5. The Prodigal Son (Trad. arr Joachim Cooder, Ry Cooder)
6. Nobody’s Fault But Mine (Blind Willie Johnson, Trad. arr Ry Cooder)
7. You Must Unload (Alfred Reed)
8. I’ll Be Rested When The Roll Is Called (Blind Roosevelt Graves, Trad. arr Ry Cooder)
9. Harbor Of Love (Carter Stanley)
10. Jesus And Woody (Ry Cooder)
11. In His Care (William Dawson)

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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