2020.02.24

【ピーター・バラカン】僕がどうしても手放せない21世紀の愛聴盤〈第50回〉『None But The Righteous: The Masters of Sacred Steel』

文/ピーター・バラカン 写真/西田周平

ピーター・バラカンの連載コラム。21世紀(2001年以降)にリリースされたCD作品のなかから “どうしても手放せない愛聴盤”を紹介します。

「セイクリッド・スティール」とは、アフリカン・アメリカンの教会でオルガンなどの代りに使用されるスティール・ギターのことです。その伝統は少なくとも1940年代に遡るようですが、1990年代の後半にアメリカのルーツ・ミュージックを専門とするアーフーリーというインディ・レーベルから「セイクリッド・スティール」というコンピレイションのCDが発表されるまでは、アメリカ各地に散らばっている極めて小さい宗派の信者たち以外にはほとんど知られない存在でした。

そのCDは旋風を巻き起こしたものでした。カントリー・ミュージックのイメージが圧倒的に強かったペダル・スティール・ギター、あるいは膝の上に乗せて弾くラップ・スティールで、ゴスペルとはいえ、非常にブルージーな演奏をする無名の名手たちが次々と登場する内容にギター好きの誰もが目を見張りました。

 

その後同じアーフーリーから個別の演奏者のCDも発表されましたが、たくさん出た中からさらに2002年にキーボード奏者のジョン・メデスキによる選曲でこのコンピレイションが発売されました。

Various Artists 『None But The Righteous: The Masters of Sacred Steel』(Ropeadope/2002)

歌が入る曲は少なく、どちらかといえばインストルメンタルが多いですが、主役のスティール・ギターは見事に歌い上げます。フレットに束縛されないスティールはスライドを使うので微妙な「ブルー・ノート」を容易に表せるもので、ゴスペルやブルーズに不可欠なコブシを如実に真似できます。また、ゴスペル歌手と同じように、演奏者はみんな敬けんな信者で、その気持ちがプレイにも濃厚に出ています。

その奏者も巧い人ばかりですが、個人的にはフロリダのオーブリー・ジェントの演奏に感激しました。特にピアノとシンプルなドラムだけをバックに超スローにやる「アメイジング・グレイス」はまるでアリーサ・フランクリンでも聞いているような鳥肌ものです。

他にもフロリダを拠点とするミュージシャンが多く、サニー・トレッドウェイや32歳で病死したグレン・リーの演奏も素晴らしいです。あくまで教会の礼拝で演奏する人たちばかりで、曲目は大抵賛美歌ですし、残念ながらコンサートでこの音楽を聞く機会がほとんどありませんが、セイクリッド・スティールの世界から独立したロバート・ランドルフのファミリー・バンドやグレン・リーの甥であるローズヴェルト・コリアーは世俗音楽でとてもいい活動を続けています。

Various Artists 『None But The Righteous: The Masters of Sacred Steel』(Ropeadope/2002)
1. Sonny Treadway “Jesus Will Fix It For You” (Traditional)
2. The Campbell Brothers “I Feel Good” (Traditional)
3. Glenn Lee “Call Him By His Name” (Glenn Lee)
4. Aubrey Ghent “Praise Music” (Traditional)
5. Willie Eason “Little Wooden Church On A Hill” (Thomas A. Dorsey)
6. Glenn Lee “Joyful Sounds” (Glenn Lee)
7. Aubrey Ghent “Just A Closer Walk With Thee” (Traditional)
8. Maurice “Ted” Beard, Jr. “The Train” (Maurice Beard, Jr.)
9. The Campbell Brothers “Jump For Joy” (C. Flenory)
10. Maurice “Ted” Beard, Jr. “I Want To Go Where Jesus Is” (Traditional)
11. Aubrey Ghent “Amazing Grace” (John Newton)
12. The Campbell Brothers “Morning Train” (Traditional)
13. Sonny Treadway “At The Cross” (Isaac Watts, Ralph E. Hudson)
14. Aubrey Ghent “Can’t Nobody Do Me Like Jesus” (Traditional)
15. Calvin Cooke “Since I Laid My Burden Down” (Traditional)
16. Sonny Treadway “Amazing Grace” (John Newton)
17. Sonny Treadway “God Be With You” (Jeremiah E. Rankin, William G. Tomer)

ピーター・バラカン/Peter Barakan
1951年8月20日ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科卒業後、74年に来日。シンコー・ミュージック国際部入社、著作権関係の仕事に従事する。80年、同退社後、執筆活動やラジオ番組への出演などを開始。また80年から86年までイエロー・マジック・オーケストラ、のちに個々のメンバーの海外コーディネーションを担当。 84年、TBS-TVのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を担当。88年、TBS-TV『CBSドキュメント』(アメリカCBS制作番組60 Minutesを主な素材とする、社会問題を扱ったドキュメンタリー番組)の司会を担当。2010年、TBS系列のニュース専門チャンネル『ニュースバード』に移籍し、番組名も『CBS 60ミニッツ』に変更。2014年3月まで司会を務める。 現在も放送番組の制作、出演のほか、執筆や音楽フェスティバルの監修なども手がける。
http://peterbarakan.net/

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