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【東京・恵比寿/BAR ROTA】“ノルマンディの豊穣”を堪能する隠れ酒場

“ノルマンディの豊穣”を堪能する隠れ酒場

「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は恵比寿駅から少し離れた場所にある大人の隠れ家『BAR ROTA(バー ロータ)』に訪問。居心地の良さにこだわったセンスのいい空間には、良質な音楽が流れていました。

ひっそりと佇む、隠れ家的な空間

JR恵比寿駅東口から徒歩約12分、恵比寿郵便局裏手エリアのビル2Fに『BAR ROTA』はある。近年、周辺に多くのマンションが建設されたこともあり、表通りにはおしゃれな飲食店が続々とオープンしている。そんな喧騒を避けるようにひっそりと佇む店の扉を開けると、暗めの照明ではあるがウッディで温かみのある内装。ゆえに、バー特有の高圧的な緊張感がなく初めてでもホッとする雰囲気がある。

「2008年のオープン当初は、このビル1Fのヒマラヤ料理屋さんくらいしかなかったんですよ」と、店主の宮﨑和毅さんは笑う。

ウイスキーを探求し、バーの世界へ

宮﨑さんがバーに興味を持ったのは大学時代。当時、5~10歳ほど上の先輩たちと遊ぶことが多く、彼らに連れて行ってもらったことをきっかけにバーに魅了されることとなる。その後、ウイスキーの奥深さに目覚め、のちに師匠となる今はなきバー『INISHIMOA(イニシモア)』の常連となり、そこでアルバイトを始め、大学卒業後はそのまま働くようになる。

「90年代後半はまだウイスキーを豊富に置くバーが少なかったんです。だから、とにかくたくさんあるお店に行きたかった。当時はアルバイトのお金をすべてバーで使っていました。キャッシングして飲んでいたほどです」

その後、この店をオープン。もちろんお酒はウイスキーがメインかと思いきや、看板ドリンクはりんごのブランデー「カルバドス」だ。

「ウイスキーが好きでバーで働き始めたんですけど、店にあったカルバドスを飲んだときにこっちのほうがより好きかもしれないと思ったんです。以来、カルバドスに関する素敵な出会いもあって、今は常時50本くらい揃えています」

カルバドスに馴染みのない方も多いと思うので、おすすめの3本をセレクトしてもらった。まずは、『アドリアン・カミュー 6年』(写真左)。ウイスキーでいうマッカランのような存在でカルバドス界の定番品だ。そして、『ロジェ・グルー』(写真中央)は枯れたようなオールド感のある味わいが楽しめる。『デュポン』(写真右)は他の2本がクラシックで濃厚であるのに対し、現代的でエレガントな風味が楽しめる一本。ちなみに、冒頭にウッディな店内と表現したが、梁を生かした内装はカルバドスの産地であるノルマンディ地方の建築をイメージしている。

「ウイスキーでもカルバドスでもジャズでも、自分の中でひとつの基準ができると面白くなるんです。同じラフロイグでも10年はピートが強いとかね」

店内でかかる音楽はジャズとクラシックがメイン。CDでしか発売されていない音源以外は、基本的にアナログレコードでかけている。ターンテーブルはデノン、プリメインアンプはラックスマンのSQ38、スピーカーはタンノイのレクタンギュラーヨークだ。

「タンノイは、音がしっとりとしていて気に入っています。音楽はお酒をより美味しくするツール。ですから、空間に馴染むような音作りにしたかったんです。ジャズならヴォーカルもの、クラシックならバイオリンの音がきれいに鳴ってくれます」

ニーナ・シモンからジャズの道へ

宮﨑さんの音楽遍歴は、中学でローリング・ストーンズやジミ・ヘンドリックスなどロックを聴き始め、高校でソウルからジャズへと興味が広がっていった。

「ニーナ・シモンからジャズを聴くようになったんです。なので、普通のジャズ好きの方とはルートが違うんですよね。そこから、先輩たちにレコードを借りたりしながら知見を得るようになりました。でも、ジャズにどっぷりいったのは働き始めてからですよ」

現在、店内ではクラシックもかかる。そのきっかけとなったのは、お店で知り合ったバレエダンサーに誘われ観に行ったバレエがきっかけだ。身体表現の極限ともいえる動きに魅了され、そのときの演目であったボレロを聴くように。その後、チャイコフスキー関連の音源を買っているうちに、店にクラシックの音楽家が来るようになったりと、さまざまな縁が広がっていった。

「レコード会社に勤める常連さんがクラシックの部署の方を連れてきてくれたり。そういう交流が生まれるのもバーの魅力なんです。カフェやレストランならナンパみたくなってしまいますけど、バーカウンターでは利害関係がなく話が盛り上がる。お金持ちから学生まで横で繋がれる場所ってバーくらいじゃないですかね」

 カルバドスと同じく、『BAR ROTA』でよくプレイされる3枚のレコードも選んでもらった。まずは、今年の春に購入して以来キレキレのサウンドに魅了され、ずっとかけているというラトビアのバイオリニスト、ギドン・クレーメルの『バッハ・パルティータ1~3』(写真左)。そして、気分が盛り上がりそうなときにかけるというデクスター・ゴードンの『ドゥーイン・オールライト』(写真中央)。こちらはダンディゆえに盛り上がり過ぎない感じも気に入っているとか。最後は、お酒でもお茶でも食事でも、どんな状況でも満足できるオールラウンドな一枚として愛聴しているエラ・フィッツジェラルドの『ザ・ロジャース・アンド・ハート・ソングブック』。

「ロックを考えながら聴く人は、ミュージシャンくらいしかいない。でも、ジャズやクラシックはお勉強になってしまって、頭で聴いてしまう風潮がある。そこを打開していきたいという思いはあります。だから、うちはクラシックをかけながらガンガン喋る(笑)。音楽なんて好きか嫌いかでいいと思うんです」

お客さんは、恵比寿、目黒、広尾、白金など近隣に住んでいる人が多く、年齢層は30代半ばから50代半ば。音楽好きな人が多くやってくる。最後に、よいバーの条件を聞いてみた。

「バーに限らず、その人のスタイルがしっかりある店はいい店ですよね。でも、最後はお客さんがお店を作るんです」

・店舗名/BAR ROTA
・住所/東京都渋谷区恵比寿2-8-13 access BLD 2F
・営業時間/19:00~04:00
・定休日/無休
・電話番号/03-3441-2449
・オフィシャルサイト/なし

 

当コーナーでは、読者の皆さまから「音楽に深いこだわりのある飲食店」の情報を募集しています。
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