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トム・ペティの遺族が “トランプ大統領集会の曲使用”に猛反発

11月の米大統領選で再戦を目指すトランプ大統領が、全米で黒人暴行死事件を受けた抗議デモが続く6月20日、南部オクラホマ州タルサで開いた支持者集会で、米人気ミュージシャン、トム・ペティ(2017年10月死去)の代表曲を無断使用。遺族が猛反発し、直ちにトランプ大統領の選挙キャンペーンチームに使用停止を申し入れた。

使用されたのは「アイ・ウォント・バック・ダウン(I Won’t Back Down)」。1986年に発表されたペティ初のソロ・アルバム『フル・ムーン・フィーヴァー(Full Moon Fever)』の収録曲で、ジョージ・ハリスンが参加したことでも知られる。「一歩も引かないぞ」「引き下がらないぞ」と繰り返す歌詞が人気で、生前のコンサートでは会場一体の大合唱が定番だった。ジョニー・キャッシュら多くのアーティストもカバーしている。

遺族は「トム・ペティと家族は、人種やあらゆる形での差別に断固反対している。トム・ペティはヘイト(憎悪)のキャンペーンで自分の曲が絶対に使われたくなかったはずだ。彼は人々を団結させることが好きだった」と指摘。さらにこの曲は「勝ち目のない人や一般の人々、あらゆる人々のために書かれた」と説明した。白人至上主義を助長し、抗議デモに高圧的な態度を続けるトランプ大統領を念頭に「誰もが自分の好きなように投票することには反対しないが、(曲使用は)耐えられない。ドナルド・トランプは、私たちが信じる米国、民主主義といった高尚な理想を代弁していない」と糾弾し、今後の使用を絶対に認めないと強調した。ペティのファンに対しても、トランプ政権に加担していると誤解して欲しくないとも訴えた。

オクラホマ州タルサは1921年、白人暴徒による黒人虐殺事件が発生した、米国が抱える人種問題の象徴的な場所。トランプ大統領は当初、米国で「奴隷解放の日」に当たる6月19日に集会開催を予定していたが、政権内部や与党共和党内で強い反対が出たため、1日ずらして強行した。トランプ大統領にとって、新型コロナウイルスの感染拡大で中断した選挙活動の本格的な再開に当たり、集会開催は大きな注目を集めていた。

晩年のトム・ペティ。2017年2月、グラミー(第59回)授賞式の会場にて。

ペティは1976年、バンド「トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ」でデビュー。「アメリカン・ガール(American Girl)」などのヒット曲や、精力的なツアーで人気を博し、2002年に「ロックの殿堂」入り。南部フロリダ州出身でも知られ、中西部や南部に住む人々の心を代弁するアーティストとも言われることが多いが、1980年代のツアーで、南北戦争当時に使われ現在では「人種差別の象徴」とされる南部連合(南郡)の旗を掲げていたことを巡り、米メディアに後年「もっと考慮すべきだった。馬鹿だった」と後悔の念を吐露した。

デビュー40周年の記念ツアーを終えた数日後の2017年10月、カリフォルニア州マリブの自宅で心臓発作を起こし、66歳で急逝。死因は鎮痛剤の過剰摂取による多臓器不全だった。

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