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【インタビュー】駒野逸美「トロンボーンは人間の声に近い音域で “自分の声” みたいに個性を出せる。そこがいちばんの魅力」【Women In JAZZ/#40】

駒野逸美

トロンボーン奏者の駒野逸美が、自身のリーダー・カルテットによる初アルバムを発表。ふくよかで柔らかく、ときに荘厳な響きをもつトロンボーンという楽器で、彼女はどんなことを表現しているのか。

話し合いの末にトロンボーン転向

──トロンボーンを始めたきっかけは?

小学生の頃に鼓笛隊でコルネット(注 1)を吹いていたんです。それで中学校に上がったときにトランペットをやりたかったんですけど、吹奏楽部の中でトランペット希望者が多くて、ホルンかトロンボーンに楽器を移らなければならず、話し合いの末、私がトロンボーンを吹くことになりました。

注 1:トランペットを一回り小さくしたような形態の金管楽器。ジャズではルイ・アームストロング、 ナット・アダレイ、日野皓正などが演奏していた。

──すんなりとトロンボーンに転向できたのですか?

トランペット希望者がお互いトランペットの座を譲らなくて、決着するまで 1 か月ぐらい話し合いました(笑)。でもそのままだと練習が始められないから、私が折れて。最初のうちはスライドを動かすことが難しかったんですけ ど、慣れてきたらもう楽しくて。あっという間に夢中になりました。

──トロンボーンって、音程を正確に取るのが難しいですよね。

音程に関しては中学と高校の時に、かなり厳しく練習して身に付けましたね。特に高校ではハーモニーに対する勉強もして、周りの音に対して自分はどういう音程でいるかということを学んでいきました。

──あと、楽器自体もけっこう重いですよね。

2キロぐらいですかね。たぶん見た目ほどは重くはないと思うんですけど、右手でスライドを操作するので、ほぼ左手1本で楽器を支えている状態。トロンボーン奏者は左腕だけがムキムキになってゆく。そんな楽器です(笑)。

──トロンボーンならではの魅力って、どんなところに感じますか?

人間の声に近い柔らかい音域で、自分の声みたいに音に個性を出せる。そこがいちばんの魅力だと思っています。

──トロンボーン奏者って、アンサンブルをすることが多いので協調性のある人が多いという話を聞いたことがあります。

人によるかも知れないですけど、トロンボーン奏者同士は仲がいいですね。あとよく飲んで、よく食べる人が多いかも。管楽器って吹いてるとお腹が減るんですよ。ライブの前に食事しても、終わったらもうお腹がすいてる。燃費が悪いんです(笑)。

“その場で創る”ジャズの魅力に取り憑かれ…

──ジャズに興味を持ったのはいつ頃?

高校生の頃までは吹奏楽部で吹いていて、ジャズは全く聴いたことがなかったんです。そんなある時、非常勤で来てくださっていた先生が私のソロパートを作ってくださったんです。

その時は先生の書いた音符をそのまま吹いていたんですけど、そういったソロパートをどうやって作っているんだろう? っていう興味が湧いてきて。アドリブって何か仕組みがあるんだろうな…ってぼんやり感じて、大学でそこを勉強したいと思い始めました。

──実際にジャズの勉強を始めてみて、何を感じましたか?

その場で作っていく音楽だというところにすごく魅力を感じました。クラシックとは真逆じゃないですか。美しい音楽だけどグチャッと崩れてしまう時もある。そういった、その場で作る 音楽の魅力に取り憑かれて、それが今も続いています。

──ジャズ・トロンボーンで参考にしたアーティストは?

いちばん最初に買ったCD は『ジェイ&カイ』(注 2)でした。先生に J.J.ジョンソンの「ラメント」 という曲をやってみようと言われて、その足でその曲が入っている CD を買いに行きました。

カール・フォンタナ、フランク・ロソリーノ、スライド・ハンプトンなどもよく聴きましたね。日本のプレイヤーだったら、大学で教えていただいていた西山健治さんです。

あとトロンボーン奏者じゃないんですけど、ピアニストのバリー・ハリスさんのワークショップを大学時代に受けていて、彼のメソッドを直接ご本人から習えたとことは今でも自分にとってものすごく大きな財産になっています。ビバップを愛していて、それが彼の音楽にも出ているところ、そして探究心を止めないところなど、すごく影響を受けました。

注 2:Jay and Kai。J.J.ジョンソンとカイ・ウィンディングという 2 人のトロンボーン奏者によって結成されたユニットが、1955 年にリリースしたアルバム。ユニットとしては 1970 年代まで不定期ながら活動し、アルバムも数多くリリースしている。

──作曲する際にはどんな方法をとっていますか?

以前はピアノで作っていたんですけど、最近は思い付いた時にボイスメモに歌って録っておいて、それを起こすということが多いです。お風呂に入ってるときにメロディを思い付くことも多くて、急いで出て録ったり(笑)。最新アルバムに入っている「Lemon Balm」という曲は駅のホームで思い付いて書き留めました。あと「In the Mind」は 2006 年に祖父が他界した時に書いたものです。

駒野逸美『Nearest and Dearest』(Somethin’ Cool)

──そのアルバムに収録された「Chikuzenni Dilemma」という曲。タイトルが気になります。

ジェームス・マコーレーというトロンボーン奏者がいるんです。彼はオーストラリア出身で一時は日本に滞在していて、同い年ということもありすごく仲良くなって。うちで一緒に練習したり、そのあとよく飲みに行ったりしていて、飲みながら「次に書く曲のタイトルを決める」というのが流行っていたんです。

そんなある日、デリバリーのお寿司を頼んで、自分で筑前煮を作ったのですが、お寿司の注文数を間違って、多く届いてしまったんですね。目の前にある筑前煮も食べたいんだけど、生モノであるお寿司を先に 食べなきゃいけない…。そんなジレンマがあって、次の曲のタイトルはChikuzenni Dilemmaだね!なんて言っていました。タイトルが先に決まったのでそれっぽいメロディを書くのがたいへんでした。

自分の音色が映えるメロディを目指して

──今回のアルバムは、トロンボーンのワン・ホーン・アルバムですけど、制作する上で特に心がけたことはありますか?

まず曲を作る時、このメンバーでやったら絶対面白いだろうなという想像力を働かせて楽曲を作ることを心がけました。それにはもちろん自分の持ち味である音色だとか、トロンボーンらしさが出る音域を使ったり。

──このカルテットはいつ頃から活動しているのですか?

2017 年の 9 月に長崎県の佐世保でライブの機会を頂いて、そのためにメンバーを集めたのが始 まりです。その時にオリジナル曲もいっぱい書いて、初めてこのメンバーで演奏したんですけ ど、みんなもう素晴らしくて。それからずっと続いています。

──そのメンバーはどんな経緯で選ばれたのですか?

ベースの吉田豊さんは、私が大学時代にバイトをしていたジャズ・バーに出演されていて、たまにセッションに参加させていただいたりして、それ以降ずっとお世話になっています。ピアノの片倉真由子さんは土岐英史のバンドでご一緒させていただくことが多くて、とてもハートフルな方。憧れの存在です。ドラムの木村紘くんは、このグループに誘う前に 1 度しか共演したことがなかったんですけど、ダイナミックでありながら丁寧な音楽の作り方が素晴らしいな、と思ってお誘いしました。人柄も素晴らしいです。

──ステージでトロンボーンを吹く時に、衣装などで気をつけていることなどはありますか?

トロンボーンって吹く時に右腕を前後に大きく動かすんですね。だから袖や肩が引っかかると 上手く吹けない。あと、うまく息が吸えることも重要なので、体を締めすぎる服もダメです。 だからライブ用の服を買う時は、試着して右腕を伸ばしたり縮めたり(笑)、いろいろ変な動きをしてます。

──あはは。店員さんも不思議がってるでしょうね。

そうですね。あと靴を買う時も。演奏中はどっしり構えられたほうがいいので、試し履きのときは必ず仁王立ちして構えてみて、安定感をチェックします(笑)。

──管楽器奏者は唇のケアも大切ですよね。

金管楽器はマウスピースを唇に当てるので、口紅を付けられないんですね。だから血色がすごく悪く見えるんです…。ライブ後は唇にマウスピースの跡が丸く付いて、しかも紫色になってて(笑)。でも最近、唇に色を沈着させる口紅が出て、そのおかげで少し顔色が良くなりましたね(笑)。

インタビュー/島田奈央子
構成/熊谷美広

駒野逸美/こまの いつみ(写真右)
千葉県白井市出身。小学校ではコルネットを吹き、中学校からトロンボーンを始める。尚美学園大学ポップス&ジャズコースに進学し、在学中からライブ活動を開始。卒業後も様々なセッションに参加し、木村由紀夫、原田イサム、五十嵐明要、市川秀男、大山日出男、各氏と共演。2011 年 12 月「浅草JAZZ コンテスト」でグランプリを受賞。2014 年 11 月、上杉優(tb)とのユニット“The BonBones”でアルバムをリリース。2020 年、アレン・ハーマン(tb)との共演アルバム『A Beautiful Thing』をリリース。現在は自己のクァルテットでの活動を中心に、様々なセッションや音楽学校の講師も務めている。

島田奈央子/しまだ なおこ(写真左/インタビュアー)
音楽ライター / プロデューサー。音楽情報誌や日本経済新聞電子版など、ジャズを中心にコラムやインタビュー記事、レビューなどを執筆するほか、CD の解説を数多く手掛ける。自ら プロデュースするジャズ・イベント「Something Jazzy」を開催しながら、新しいジャズの聴き方 や楽しみ方を提案。2010 年の 著書「Something Jazzy 女子のための新しいジャズ・ガイド」によ り、“女子ジャズ”ブームの火付け役となる。その他、イベントの企画や CD の選曲・監修、プロ デュース、TV、ラジオ出演など活動は多岐に渡る。

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