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いま気になるサックス奏者・熊谷駿を聴いてみた─「CINEMA JAZZ CONCERT」ライブレポート

熊谷駿

秋晴れの日曜日の昼下がり。休日を楽しむ人達で賑わう東京ミッドタウン日比谷に、サックスの音色が響き渡った。演奏しているのは熊谷駿。近年、注目を集めている新進気鋭のサックス奏者だ。

才気みなぎる新鋭奏者の「過去」

生まれ育った仙台を拠点に活動している熊谷は、10歳の時に父親が買ってきたサックスに興味を持って演奏を始めた。音楽への情熱は日を追うごとに強くなり、2014年には米バークリー音大に入学。そこで優秀な成績を収めた熊谷は、全学費免除学生に選抜された。そして2017年にはニューイングランド音楽院に入学したが、何百人もの志願者の中から入学を許されたのは、熊谷を含むたった3人だったという。

在学時からアメリカでミュージシャンとしてのキャリアをスタートして腕を磨いた熊谷は、卒業後に帰国。精力的に活動してきたが、10月23日に開催されたフリー・コンサート、「CINEMA JAZZ CONCERT」は彼にとって特に思い入れの深い試みだった。

人気コミック『BLUE GIANT』とコラボ

「CINEMA JAZZ CONCERT」は「日比谷シネマフェスティバル2022」の一環として、東京ミッドタウン日比谷内のアトリウムで開催された。当フェスでジャズ・イベントを実施するのは初めてだが、今回のコンサートは、人気コミック『BLUE GIANT』が来年映画化されることを記念したもの。『BLUE GIANT』は仙台生まれの若者、宮本大がサックス奏者として成長していく物語で、熊谷のキャリアと重なるところがある。これが今回のコンサートにも繋がった。熊谷は映画音楽や映画に登場した名曲の数々をジャズにアレンジ。齋藤めぐむ(キーボード)、渡邉滉介(ボーカル)、宮地遼(ベース)、井口なつみ(ドラム)といった面々と演奏を繰り広げた。

オープニングを飾るのは映画『ティファニーで朝食を』のテーマ曲で、オードリー・ヘップバーンが歌った「Moon River」。心地よくスウィングするリズムに、熊谷のサックスが軽やかに乗る。ピアノやベースのソロも織り交ぜて、まずは観客に挨拶するような演奏だ。続いて披露したのはジャズ・スタンダード「A Night In Tunisia」。これは『BLUE GIANT』にちなんだ選曲で、主人公・宮本大のレパートリーのひとつ。コミックの公式コンピレーション・アルバム『Sounds of BLUE GIANT』にはソニー・ロリンズの演奏が収録されている。バンドが一体となって生み出すグルーヴ。サックスのクールのフレーズなど、「これぞジャズ!」というべき演奏に観客は一気に引き込まれていく。

そして、3曲目は映画『スタンド・バイ・ミー』で使われたベン・E・キングの名曲「Stand By Me」で、ここでヴォーカルの渡邉が登場。ソウルフルに歌い上げながら、サックスのアドリブとスキャットの掛け合いを聞かせてくれたりも。そんな風に曲ごとに趣向をこらした演出に、熊谷の多才さが伝わってくる。

親子連れも思わず足を止めた…

コンサートの後半には、ジブリ作品の『ハウルの動く城』『千と千尋の神隠し』の曲を続けて演奏。ファミリー層にもジャズを楽しんでもらおうという選曲だ。なかでも、『千と千尋の神隠し』の「あの夏へ」のアレンジは大胆で、ノスタルジックなメロディーをソプラノ・サックスで繊細に聞かせながら、ドラムがタイトにリズムを刻んで、ジャズの躍動感が演奏に貫かれている。小さな娘を抱いた父親が、親子で曲に合わせて楽しそうに体を揺らしていた。

演奏が進むにつれて通行人は次々と足を止め、カップルから親子連れまで様々なオーディエンスが熊谷とバンドの演奏を楽しんだ。コンサートのラストの曲は、『BLUE GIANT』の作品中に登場するジョン・コルトレーン「Moment Notice」で、各プレイヤーが順番にソロを披露。観客は惜しみなく拍手を送りアンコールを求めた。そこでバンドが演奏したのは、ミュージカル・アニメ映画『シング』で歌われた、スティーヴィー・ワンダー「Don’t You Worry ‘Bout A Thing」だ。明るいラテンのリズムに合わせて観客から手拍子が起こり、1時間に渡るコンサートはハッピーエンドを迎えた。

今回のライブ出演メンバー。左から、齋藤めぐむ(キーボード)、渡邉滉介(ボーカル)、熊谷駿(サックス)、宮地遼(ベース)、井口なつみ(ドラム)

演奏の間のMCからは熊谷の明るく人懐っこいキャラクターが伝わってきたが、コンサートには観客を楽しませようとするサービス精神や、一人でも多くの人にジャズの魅力を伝えたいという想いが感じられる。今年9月に3年ぶりに仙台で開催された定禅寺ストリートジャズフェスティバルでは、地元の子供達とのバンドと共演した熊谷。そうやって地元のジャズ・シーンをサポートする姿勢からも、熊谷のジャズ愛が感じられる。

そんななか、12月16日には、国内外で活躍するミュージシャンをゲストに迎えるコンサート・シリーズ「BEBOP EXPRESS」が12月より新オープンする I’M A SHOW(有楽町)で開催される予定だ。毎回、前売りが完売するほどの人気のコンサートで今回が5回目となる。ジャズ・ファンはもちろん、『BLUE GIANT』でジャズの魅力に触れた人たちにとっても、きっと忘れられないコンサートになるだろう。

取材・文/村尾泰郎

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【熊谷駿 公式サイト】
https://www.shunkumagai.com/

 

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