ARBAN

塚田桂子(ライター/翻訳者)が選ぶ「2022年のベスト」3作品

塚田桂子
ライター、翻訳者、漬物ハスラー。
95年に渡米、大学で音楽、アフリカン・アメリカン・スタディーズを専攻。音楽専門誌の取材や執筆、ヒップホップ/R&Bアルバムのリリック対訳、ライナーノーツを手がける。訳書に『バタフライ・エフェクト:ケンドリック・ラマー伝』(河出書房新社、2021年)、『ギャンスター・ラップの歴史――スクーリー・Ⅾからケンドリック・ラマーまで』(DU BOOKS、2019年)がある。ケンドリック・ラマーへはデビュー当時より取材を重ね、歴代日本盤のリリック対訳を務める。LA在住。

Kendrick Lamar
『Mr. Morale & the Big Steppers』

揺るぎない1位。5年間の沈黙を破ったキング・ケンドリックは、時代のリーダーとしての重荷を下ろし、ひとりの人間の葛藤を次々と吐露していく。日本盤のリリック対訳を担当させて頂いたのだが、正直、ここまでイタコ作業で魂が打ち砕かれ、同時に自分の真実に向かい合う勇気に魂が震えたことはなかった。歴史に残る名作。


Kehlani
『blue water road』

今まであまりケラーニを聴く機会がなかったのが、この作品には思わず吸い寄せられ、カリフォルニアの青い空、太陽の日差しが光る海辺を心地よく走り抜ける様子が思い浮かぶ。自然体で大胆に素をさらけ出した彼女はとても自由で、彼女の「心が求める目的地」であるという本作を通して、その心の旅を私たちに覗かせてくれる。


Vince Staples
『Ramona Park Broke My Heart』

ロングビーチのラモナパークで生まれ育つことの憂いと憤りのブルースを、前作よりさらに個人的に掘り下げて歌い上げる。湧き出る怒り、悲哀、恐れ、同胞への愛、魔法のような成功を手に入れた代償と罪悪感。暴力と理不尽さに囲まれた環境にことごとく打ち砕かれた心が、あの脱力しつつスムーズなライムで叫ぶ。切ない。

ARBANオリジナルサイトへ
モバイルバージョンを終了